本庶さん 特許契約不服で会見

ノーベル賞で話題となった薬に特許料の配分をめぐる問題が起きています。
去年、ノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大学特別教授の本庶佑さん。
本庶さんの研究は、新しいがんの治療薬「オプジーボ」の開発につながりました。
共同で開発に取り組んだのが大阪の製薬会社、小野薬品工業です。
日本の研究者と日本の製薬会社がタッグを組んで実用化にこぎ着けた、まさに画期的な薬となりました。
ところが、このがんの治療薬の特許料をめぐって、10日、本庶さんと京都大学が記者会見を開きました。
がん治療薬の特許料が大幅に低く抑えられていて、大学が次の世代の研究者を育てることにつながらないというのです。

いったいどういうことなのでしょうか。

【「オプジーボ」開発と特許料の経緯】
まず、本庶さんたちが薬の開発のもととなる物質を発見をしたのは平成4年です。
この発見をもとに、14年後の平成18年になって、本庶さんと小野薬品工業は特許料の支払いについて契約を結びます。
このあと、平成23年に本庶さん側から特許料見直しの申し入れがあり、会社側と話し合いが始まります。

ポイントはこの平成18年の契約です。

【2種類の特許】
実は、特許には2種類あるということなんです。
1つは、オプジーボのもととなる物質を発見したことに対する特許です。
もう1つは、免疫を活用してがんを治療するという治療法そのものに対する特許です。
会社側はこの治療法そのものの特許に対する特許料についても、契約には盛り込まれていたとしていますが、本庶さんは先週、NHKの単独インタビューで「契約が、正確な説明、正確な情報の提供なくして、我々が判断を誤らされたという認識を持っており、我々の特許の内容を十分に正しく評価してもらっていない」と述べて、会社側から十分な説明が無かったとしています。
これに対して小野薬品工業は事前のNHKの取材に対して、「当社と本庶先生は双方が納得したうえで契約を締結しました」としたうえで、「特許料の引き上げの要請があり、できうる範囲で誠意を持って交渉に応じてまいりましたが、契約とのかい離が大きく、話し合いが継続している状況です。今後も話し合いを続けていきたい」とコメントしています。

【がん治療薬の特許料】
これまでも話し合いが行われていましたが、金額の開きが大きいということです。
というのも、「オプジーボ」だけなら、平成26年9月の販売開始から去年12月までの4年余りの売り上げは、およそ2890億円です。
ここには開発費なども含まれています。
ところが、免疫を使った同様の薬は、すでにアメリカなどで発売され、こうした薬の売り上げを合わせると、日本円にして年間4兆5000億円とも言われています。
この部分の特許料は数千億円に上ると考えられているのです。
10日の会見でも、本庶さん側は当時の契約について会社側から十分な説明が無かったとしました。
また、弁護士によりますと、本庶さんがいま契約している特許料の割合で計算すると、本庶さんへの配分はおよそ26億円にとどまっているということですが、本来は1000億円に達していてもおかしくないと主張しています。

【若い研究者支援への思い】
本庶さんがなぜ、今回のような問題提起をしたかというと、若い研究者を支援したいという思いがあるということです。
本庶さんは特許料を、若手研究者を支援するために京都大学に作った基金に寄付するとしています。
基金の目標額は500億円としていて、すでにノーベル賞の賞金を寄付したということですが、そのほかの寄付なども含めてこれまで集まっているのはおよそ2億円にとどまっているということです。
本庶さんは、「産学連携の誠実な対応がないとすると、今後の日本のアカデミアと企業の信頼関係に大きな問題が生じると思う。正当な報酬を得て、次の世代を育てるために使うサイクルが回っていかないと日本の将来は暗い」と話しています。

10日の会見について小野薬品工業は「会見の全容を把握できていないので、コメントは差し控えさせていただきます」としています。

【トラブルの背景】
こうした大学の研究者と企業の間での特許をめぐるトラブルの背景には、国内の大学は、以前は特許をあまり重視してこなかったという事情があります。
大学は純粋に研究をするところで特許の活用は企業が行うという意識です。
最近は大学にも知的財産に関する専門の部署ができて、専門的な知識を持った担当者が特許の取得を進めていますが、本庶さんが特許を取得した当時は、こうした態勢は整っていませんでした。

【専門家は】
知的財産法が専門の東京大学玉井克哉教授は、「民間企業にとっては契約をして発明者の権利を取得すれば後は自由と考えるのが当然だと思う。大学から見れば本当に成果が上がった場合は、ー契約書に何と書いてあっても企業は還元してくれるだろうと考えるのも普通。ガイドブックを作るとか、国でしかるべき法律家をプールしておいて、その法律家・弁護士が契約を作るのを手伝うなどの仕組みが必要ではないか」と指摘しています。