「SL人吉」が最後の営業運転 沿線には引退惜しむ人たちの姿

延べ40万人以上が乗車したJR九州の観光列車「SL人吉」は23日が最後の営業運転、ラストランとなりました。
駅や沿線には、最後の走りを見ようという人たちが、SL人吉に手を振るなどして引退を惜しみました。

2009年に運行を始めた「SL人吉」は、これまでに延べ41万4000人が乗車するなど人気を集めてきました。

しかし完成から100年を超えた機関車の老朽化が著しく、23日が最後の営業運転となりました。

ふだんは鹿児島本線の熊本駅と佐賀県の鳥栖駅の間で運行されていますが、23日は、熊本駅と博多駅の間で特別運行されました。

午前中、熊本駅から博多駅に向かう列車が運行されたあと、午後、博多駅を出発し、熊本駅に向かう列車が運行されました。

博多駅ではたくさんの人が見守るなか、午後1時50分頃、出発の合図を受けて、大きな汽笛を鳴らし、蒸気を上げながら熊本駅に向けて出発しました。

沿線や停車する駅には、最後の走りを一目見ようと家族連れや鉄道ファンが集まって、手を振ったり、写真を撮影したりしていました。

また「SL人吉ありがとう」と書かれた手作りの看板を持って見送る人や、「蛍の光」を歌うグループの人たちの姿もありました。

SL人吉は午後5時45分ごろに熊本駅に到着し、ここでも多くの人が出迎えるなか、最後の営業運転を終えました。

SL人吉の機関車の扱いについて、JR九州は今後、検討していくことにしています。

博多駅には、SL人吉を見ようとたくさんの人たちが集まりました。

熊本県から訪れた20代の男性は「ラストランを見届けるために来ました。このあと、熊本まで追いかけます。もっと乗りたかったです」と話していました。

また、これまでに10回乗車したという福岡市の9歳の男の子は「機関車がかっこよかったです。引退するのは悲しいです」と話していました。

男の子の母親は「SL人吉は汽笛や蒸気、におい、それに展望席からの景色がよかったです。たくさんの思い出ができました」と話していました。

熊本県内での停車駅の1つ玉名駅には、SL人吉は午後4時50分ごろに到着し、およそ10分間停車しました。

駅のホームでは、地元のコーラス隊の人たちが「蛍の光」などを歌ってSLを出迎えたほか、家族連れや鉄道ファンなどが大勢集まり、記念撮影をしたり、「おつかれさまありがとう」などと書かれたパネルを掲げたりして別れを惜しんでいました。

SL人吉は午後5時ごろ、詰めかけた人たちに見送られながら、玉名駅を出発しました。

長洲町から訪れた鉄道ファンの50代の女性は「感動しました。SL人吉を応援していたので、お疲れさまでしたと声をかけたいです」と話していました。

また、地元のコーラス隊の60代の男性は「運転が終わってしまうのが残念です。もっと元気なSL人吉を見ていたい気持ちです」と話していました。

「SL人吉」をけん引したのは、九州各地で活躍した「8620」型の蒸気機関車です。

この機関車は2005年までの17年間、豊肥本線の熊本駅と宮地駅の間で「SLあそBOY」として運行されていました。

SLあそBOYの終了後、復活を望むファンたちの声を受け、北九州市のJR九州の工場でおよそ2年かけて改修作業が行われました。

そして2009年4月25日から、「SL人吉」として鹿児島本線の熊本駅と肥薩線の人吉駅の間で運行を始めました。

吹き上げる蒸気や甲高い汽笛の音、それに球磨川の雄大な景色を楽しめることなどから、観光客や地元の人たちを魅了しました。

しかし2020年7月の記録的な豪雨で、肥薩線は球磨川にかかる長さ205メートルの「球磨川第1橋りょう」と長さ179メートルの「第二球磨川橋りょう」の2本の橋が流失したほか、線路の土台部分が流されるなど450か所で被害を受け、運行ができなくなりました。

その後、運行する区間を変更し、2021年5月から「SL人吉」は鹿児島本線の熊本駅と佐賀県の鳥栖駅の間を走っています。

しかし機関車の老朽化が進み、メンテナンスを担う整備士の確保も難しいことから、23日で運行を終えることになりました。

JR九州によりますと、引退後の機関車の保存場所などについて検討を行っているということです。