水俣市議会 車いすの議員が2年以上にわたり配慮求め工事実施

熊本県水俣市議会では、車いすを使う議員が、議場の自分の席に取り付けられた棚に足がひっかかってしまうとして棚を撤去するよう2年以上にわたって求めてきましたが、市議会はこのほど必要な工事を行い、棚を取り外せるようにしました。

半身不随のため、車いすを使っている水俣市議会の杉迫一樹議員は、議場が新しくなった2021年12月以降、自分の席の内側に取り付けられている書類などを置く棚が足にひっかかるようになりました。

杉迫さんは足に感覚が無く、長時間、足が棚に当たり、圧迫されることで床ずれを引き起こすおそれがあるとして、棚を取り外すなど、合理的配慮に基づいた対応を議会に求めてきました。

市議会の委員会の議論では、「何が不自由なのか分からない」などと異論が出て、要望はこれまで実現してきませんでした。

こうした中、対応を一任されていた岩村龍男議長が15日の代表者会議で、杉迫議員の席で棚を取り外せるよう工事を行ったことを報告しました。

かかった費用はおよそ4万2000円だということです。

杉迫議員は会議のあと、議場の席に行き棚を取り外してみて足がひっかからないかなどを確認していました。

杉迫議員は、「棚を取るだけのことなのですぐにできると思っていたが2年は長かった。議会の中でも『合理的配慮』という言葉がたくさん出てきたが、そういう言葉や人権意識が広がったのでよかったと思う」と話していました。

水俣市議会の岩村龍男議長は、棚を取り外せるようにする工事を行ったことについて、15日の代表者会議の中で「十人十色でいろいろな意見があり集約することが難しいということで、議長に一任された。合理的配慮をする中でも、お互いに歩み寄らないといけないというところもあり、予算が高額になると、できないものはできないということになるので見積もりを取って入札を迎え、工事を完了させた」と述べました。

障害のある地方議員らでつくる全国組織、「障害者の自立と政治参加をすすめるネットワーク」の代表を務める熊本市議会の村上博議員は、NHKの取材に対し、「最終的に本人が希望する形となったことは評価できるが、障害のある議員が働きにくい、あるいは活動しにくい状況が簡単に解消されない実態が、地方議会でまだまだ根強く残っていることが浮き彫りになった事例とも言える」と話しています。

その上で、「合理的配慮は、全ての自治体に義務づけられていることを改めてしっかり認識し、要望があった場合は真摯に対応すべきだ」と呼びかけています。

障害のある人の政治参加の問題に詳しい金沢大学の井上英夫名誉教授はNHKの取材に対し、「改善されたのは一歩前進だ」としながらも、「合理的配慮をするのは当たり前で、人権として保障されている。さまざまな立場の人が政治参加をし、議場で活動するために、必要なことを保障するということは大前提で、議会には、選挙で選ばれた議員が自由に活動できるようにするという義務がある。実現までに2年も時間をかけるようなことではない」と話しています。

その上で、「障害があっても人間らしく生きていけるように社会を変える、あるいは障害のない人たちの意識を変えることが本当の意味の共生社会、ノーマライゼーションにつながる。これを機に、障害のある人も含めた市民全体に議論して考えてほしい」としています。