リニア中央新幹線 工事差し止め訴訟 訴え退ける 甲府地裁

リニア中央新幹線のルートに予定されている南アルプス市の住民がJR東海に対し、一部区間の工事の差し止めなどを求めた裁判で、甲府地方裁判所は「請求には、いずれも理由がない」と判断し訴えを退ける判決を言い渡しました。

訴状などによりますと、JR東海が開業を目指すリニア中央新幹線のルートに予定されている南アルプス市の住民は、開業すれば生活環境が悪化するとして5年前、JR東海に対して市内のおよそ5キロの区間の工事の差し止めと損害賠償を求める訴えを甲府地方裁判所に起こしました。
この裁判では、去年9月に試験走行のための実験線の沿線で裁判官など関係者による現地視察が2度にわたって行われました。
28日の判決で甲府地方裁判所の新田和憲裁判長は、「リニア中央新幹線の事業や工事には高度な公共性、公益性が存在すると認められる」と判断しました。
その上で新田裁判長は、「原告らが受けると主張する騒音や振動などの被害はいずれも工事自体を差し止めるほどの違法性は認められず、用地の取得などでも違法な権利侵害があったとは認められない。原告らの請求には、いずれも理由がない」として原告側の訴えを退けました。

原告団の志村一郎代表は、「沿線住民が心配していることに対してまったくはっきりした答えが出ていない中で、沿線住民を無視したこの判決は誠に残念です。弁護士と原告団で相談をしてしかるべき対応をしたいと思います」と話していました。

JR東海は今回の判決を受けて、「裁判所において適切にご判断いただいたものと理解している。引き続き、工事の安全、環境の保全、地域との連携を重視し、早期の開業を目指して、全力で取り組んでいく」とコメントしています。

リニア中央新幹線をめぐっては、沿線の住民などが原告の裁判が各地で起きています。
8年前には山梨や東京など1都6県の沿線の住民など700人余りが「安全性などの問題や環境に悪影響を与えるおそれがある」などと主張して国が行った計画の認可を取り消すよう東京地方裁判所に提訴しました。
4年前に原告のうち249人のみが裁判を争う資格があるとする判断を示され、おととしにはこの裁判でも裁判官による山梨県の実験線の沿線での現地視察が行われるなど審理が進められました。
去年7月の判決で、東京地裁は「国の判断が社会一般の常識に照らして著しく妥当性を欠くとまでは言えず、違法ではない」と指摘して訴えを退けました。
原告側はこの判決を不服として控訴していて、2審での審理が続いています。
また、4年前には川の水量が減り生活や仕事を奪われるおそれがあるとして静岡県内の農家や住民がJR東海に工事の差し止めを求める訴えを静岡地方裁判所に起こしました。
JR東海は、トンネル工事で湧き出た水は水路を作って川に戻すなどの対策を講じるため、川の水量は減らないなどと主張していていまも審理が続けられています。