「事前復興計画」複数自治体で策定ストップ 補助金確保出来ず

能登半島地震の発生から半年がたったものの、復興の議論は長期化する見通しで専門家は被災後のまちづくりをあらかじめ考えておく「事前復興計画」の重要性を指摘しています。

こうした中、南海トラフ巨大地震に備えて「事前復興計画」の策定を進める高知県で、国の補助金が確保できず、複数の自治体で計画の策定がストップしていることがわかりました。

「事前復興計画」は、大規模な災害に備えて自治体ごとにあらかじめ被災後のまちづくりを考えておくもので、能登半島地震で大きな被害を受けた石川県輪島市など奥能登地域では策定されておらず、復興の議論は長期化する見通しです。

こうした中、南海トラフ巨大地震に備えて高知県は、津波による被害が想定される沿岸の19市町村に対し、3年後の2027年度までに計画の策定を完了するよう求めていて、昨年度までに高知市など7つの自治体が計画の策定を始めています。

ところが今年度は6つの自治体で策定を始める予定だったものの、このうち、四万十市、中土佐町、それに奈半利町の3つの自治体で、今年度の国からの補助金を確保できず、計画の策定がストップしていることがわかりました。

計画の策定には、国の「都市防災総合推進事業」の事業費を充てる見込みでしたが、国土交通省によりますと「日本海溝」や「千島海溝」を震源とする巨大地震に備えて、北海道や東北からハード面の整備にかかる補助金の申請が多く寄せられた影響で、高知県の「事前復興計画」の策定にかかる費用は、要望の半分にあたる3065万円にとどまったということです。

高知県によりますと計画の策定には2年から5年ほどかかり、策定が先延ばしされれば、目標とする2027年度までに完了できないおそれもあるとしています。

災害時の危機管理に詳しい東京大学大学院の片田敏孝特任教授は「事前復興計画が策定されているかということは被災したあとの地域の立ち上がりに対して非常に大きな影響を及ぼす。計画が遅れることは厳に避けなければならないし、最優先の課題ではないか」と指摘しています。

【能登半島地震の被災地 事前復興計画の未策定 議論長期化】
能登半島地震で大きな被害のあった奥能登地域の輪島市、珠洲市、能登町、それに穴水町では「事前復興計画」が策定されていませんでした。

そこで、4つの自治体では地震から4か月がたった5月から復興計画の策定に向けた議論を本格的に始めましたが、いずれも策定のめどは年内から年度内としていて、議論は長期化する見通しです。

石川県が発表した6月1日時点の人口推計によりますと、地震の発生以降、転出数が転入数を上回る「社会減」は、奥能登地域の4つの自治体だけで2095人に上るなど人口流出が続いていて、将来のまちづくりに影響が出かねない事態となっています。

東京大学大学院の片田敏孝特任教授は「地域の伝統工芸とか地場産業も3年4年と何も動かない状況になってくると、復興させていくにも支障が出てくる。超高齢化の中で議論している間に住民の高齢化はさらに進み、人口の流出も進むので状況は厳しくなる一方だ」と指摘しています。

【「事前復興計画」とは】
「事前復興計画」は、南海トラフ巨大地震などの大規模災害に備え、被害が想定される全国の市町村であらかじめ被災後のまちづくりを考えておく計画で、住宅を現地に再建するか、それとも高台に移転するかや仮設住宅の用地の確保などを事前に調整することで、復興のスピードを早めるものです。

東日本大震災の直後、避難生活で多くの住民が街を離れたことで、住民の声がまちづくりに反映されにくくなり、復興事業が完了するのに長い年月がかかっただけでなく、人口の流出にもつながったことを教訓としています。

このため、国土交通省は全国の自治体に計画の策定を呼びかけていますが去年7月末の時点で
▽策定を終えたのは2%にあたる30自治体にとどまり
▽策定を進めている自治体も1%にあたる20自治体にとどまっています。

一方、
▽策定の検討をしていない自治体は、76%にあたる1351の自治体にのぼっています。

全国的に「事前復興計画」の策定が進んでいないことについて東京大学大学院の片田敏孝特任教授は「計画を立てておかなければ、災害はある程度乗り越えてもそのあとの地域の衰退が激しく被災同等の大きな被害になってしまうことも考えられる。計画策定の重要性に気づいてもらい、大きな災害想定がある地域は一刻も早く計画の策定をしておくべきだ」と訴えています。

【県内の自治体は】
高知県内で「事前復興計画」の策定が求められている沿岸の19市町村のうち、高知市は県内では早く動き出し、昨年度から策定を進めています。

ことし5月の検討委員会で、計画を策定する具体的な地区が決まり、津波で1メートル以上の浸水が想定される潮江地区や長浜地区など市内8地区が対象になりました。

高知市防災政策課の戸田幸一副参事は「高知市は人口も家屋も多いので南海トラフ地震が発生すると大きな影響がある。地元住民の意見を聞くのも時間がかかると思うので、できるだけ早くたたき台を作って示し、策定を進めていきたい」と話しています。

一方、国の補助金が確保できず、策定がストップしている自治体の1つ、奈半利町は南海トラフ巨大地震で最大16メートルの津波が来ると想定されています。

「事前復興計画」の策定が進まないことについて、奈半利町総務課の井上明課長は「南海トラフ地震はいつ来るか分からず、1年でも早く事前復興計画を作成したいと思っているが、国からの配分がないと独自の財源だけで計画を作るのは難しい。国や県には引き続き要望していきたい」と話しています。

東京大学大学院の片田敏孝特任教授は「大きな災害想定が全国各地に出ている状況の中で、国の予算がそちらに大きく割かれたという事情もわかるが、だからと言って事前復興計画を進めないということにはならない。そこの部分は例えば県や市町村も独自の予算を入れてでも、事前復興計画を進めておくことが一番重要だ」と指摘しています。