専攻医過労自殺裁判始まる 病院側争う姿勢示す 大阪地裁

神戸市の病院に勤務していた当時26歳の医師が自殺したのは長時間労働の改善を怠ったことなどが原因だったとして、遺族が病院の運営法人と院長に損害賠償を求めた裁判が大阪地方裁判所で始まりました。
病院側は「過重労働につながる事実は存在しない」などとして争う姿勢を示しました。

神戸市東灘区の甲南医療センターに勤務していた専攻医の高島晨伍さん(当時26歳)はおととし5月、自宅で自殺しました。
高島さんの両親は、死亡した日までの1か月間の時間外労働が236時間にのぼるなど、心身の健康を損ねるおそれのある過重な働き方と知りながら病院側が業務を軽減するなどの対応を怠ったなどと主張し、▽病院を運営する法人「甲南会」と▽法人の理事長で甲南医療センターの具英成院長にあわせて2億3400万円余りの損害賠償を求める訴えを起こしました。
この裁判が22日、大阪地方裁判所で始まり、高島さんの母親が、「病院は息子が亡くなる前から労働基準監督署の指導を受け、ほかの専攻医が労働環境の改善を訴えていた」などと意見を述べました。
一方、病院側は「高島さんの業務は専攻医として標準的かそれ以下で、過重労働につながる事実は一切存在しない」と主張しました。
また、診療のかたわらで行っていた学会の準備などの「自己研さん」については「病院にいる時間すべてが労働時間ではなく、自身で選択した研修に充てた時間は、労働と評価できない」として争う姿勢を示し、訴えを退けるよう求めました。

【母親“一石を投じたい”】
裁判のあと、高島晨伍さんの遺族が会見を開きました。
この中で母親の淳子さんは、「息子は職場の環境に恵まれずかわいそうだった。病院側の主張は適切な労働時間の管理ができていなかったことを正当化しようと躍起になっていると感じた。この裁判を通じて医師の過労死をなくすために社会に一石を投じたい」と話していました。
また、医師として働く兄は、「弟が亡くなり2年がたとうとしているが、どうすれば病院は死と向き合ってくれるのかと思った。弟のように努力している医師が過労死しても報われないのはおかしいので、できるかぎりのことをやっていきたい」と話していました。

【病院“働き方改革最優先”】
高島さんが勤務していた甲南医療センターは、「真面目で優秀な専攻医を失ったことは、痛恨の極みであり、重く受け止めています。現在、医療従事者の働き方改革を最優先課題とし、真摯(しんし)に取り組んでおります。地域の皆様の健康を守るとともに医療者の健康を保護することの重要性も再認識しています。民事裁判については、裁判所の判断をいただきながら事実関係を探求することが重要であると考えています」とコメントしています。