バックで時速16キロ運転 危険運転致死の罪認める実刑判決

兵庫県内の一方通行の道路で車を時速16キロでバックで運転し、男性をはねて死亡させたことが危険運転致死の罪にあたるかどうかが争われた裁判で、神戸地方裁判所は「バックの場合、見通しは前進の場合とは比べものにならないほど悪く、後方を通行する人などを見落とす可能性がある」などとして危険運転致死罪の適用を認め、63歳の被告に懲役2年6か月の判決を言い渡しました。

兵庫県尼崎市の杉村公温被告(63)は、おととし4月、尼崎市の一方通行の道路を60メートルほどにわたって時速およそ16キロの速度でバックし、自転車の72歳の男性をはねて死亡させたとして、危険運転致死の罪に問われました。
今回の裁判員裁判では、時速16キロが危険運転致死罪の要件の「重大な交通の危険を生じさせる速度」にあたるかどうかなどが争われ、検察は「横断歩道に減速せずに進入し、危険で悪質だ」として、懲役5年を求刑したのに対し、弁護側は過失運転致死罪にあたると主張し、執行猶予付きの判決を求めていました。
27日の判決で神戸地方裁判所の丸田顕裁判長は、「バックの場合、見通しは前進の場合とは比べものにならないほど悪く、後方を通行する人などを見落とす可能性がある。時速16キロとはいえ人と衝突すれば大きな事故につながる速度にあたる」と述べ、危険運転致死罪の適用を認めました。
そのうえで、「多くのドライバーがついやってしまうような運転などとは到底いえず、常識外れの行為というべきであり、その危険性の高さを軽く見ることはできない」として、懲役2年6か月の判決を言い渡しました。

【刑法専門の教授“適用範囲拡大の印象”】
今回の判決について、刑法が専門の立命館大学大学院の松宮孝明 教授は「一方通行をバックで運転することは危険とはいえ、徐行に近い時速16キロが危険運転致死傷罪の条文にある『重大な交通の危険を生じさせる速度』と認められたことで、この罪の適用範囲が広がるという印象を与えるのではないか。被告の運転がこの罪にあたるほど悪質で危険だったのかという点については疑問に思う」と話しています。

【事故被害者支援の弁護士“判決は妥当”】
今回の判決について、交通事故の被害者支援が専門の丹羽洋典 弁護士は「時速およそ16キロで前進した事故の場合、危険運転にあたるかどうかは議論の余地があるが、バックの場合は後方や左右の安全確認のほか、ハンドル操作も難しい。さらに、一方通行を逆走してくることは想定できず、危険運転致死にあたるとした判決は妥当だと思う」と話しています。