カテーテル処置後に患者死亡の徳洲会病院 神戸市が行政指導

神戸市にある病院で、複数の患者がカテーテルを使った処置のあと、死亡したことをめぐり、神戸市は、医療安全体制が不十分なまま治療を行い、カルテの記載や事後の検証も十分行われていなかったなどとして、病院に対し、改善を求める行政指導を行いました。

神戸市垂水区にある「神戸徳洲会病院」では、ことしに入ってから、循環器内科の男性医師によるカテーテルの治療などを受けた複数の患者が死亡し、神戸市は7月、3回にわたって立ち入り検査を行いました。
これを受けて、神戸市は、患者が死亡した事例について、病院内部から治療が原因だったのではないかという指摘があったにもかかわらず、病院は、十分な検証を行なっていなかったと指摘しました。
また、治療体制や医師と看護師の情報共有が不十分だったほか、家族に対し、病状や治療法、それに死亡の原因などについて、詳しく説明せず、カルテにも記載していなかったと指摘しました。
こうしたことから、市は、安全管理体制に問題があったとして、28日、病院に対し、改善を求める行政指導を行いました。
9月11日までに是正計画書を提出し、今年度末をめどに具体的な改善を終えるよう求めています。
会見した神戸市保健所の楠信也所長は「治療に問題があると報告を受けた時点で、病院として検証すべきで、対応に問題があった。改善に向けてしっかり取り組んでほしい」と述べました。
一方、病院は「指導された内容に対し、一つひとつ誠意を持って取り組んでいきたい」とコメントしています。

【神戸市が指摘した問題点】
神戸市が行った行政指導では、病院の安全管理体制について、大きく3つの問題点を指摘しています。
まず、患者が死亡した事例について、病院内部の複数の職員から「治療が原因だったのではないか」という指摘があったにもかかわらず、院長が十分な検証を行っていなかった点です。
循環器内科の医師から意見を聴くだけで、医療安全対策委員会などによる調査は行わず、その結果、その後も疑義のある複数の死亡例が起きたと指摘しました。
病院を運営する医療法人の本部は、7月、調査のための委員会を開きましたが、市は「速やかに実施されるべき調査までおよそ半年の時間を要した」と厳しく指摘しています。
2つ目は、治療が行われた際の体制が不十分だった点です。
ある患者に心臓のカテーテル治療を行おうとしながら、予定どおりに進まなかった際、対応していた循環器内科の医師は1人だけで、治療方針などを相談できるほかの医師はいなかったということです。
また、治療後の患者の容体について、医師と看護師の間で、情報が十分に共有されず、血圧が低下したことが医師に報告されなかったと指摘しています。
最後に、家族への説明やカルテの記載が不十分だったことを挙げています。
家族に対し、病状や治療法、合併症、それに急変時の対応などを詳しく説明せず、亡くなったあとの死亡原因の説明も不十分で、市が遺族に直接確認したところ、理解していなかったと指摘しています。
また、カルテには、家族への説明について記載がなく、緊急入院から容体が急変するまでの6日間、治療経過などがカルテに書かれていなかった例もあったとしています。
こうした点を踏まえ、神戸市は、患者の安全を最優先にした組織的な医療安全管理体制を実現するよう、院長に対し、9月11日までに是正計画書を提出し、今年度末をめどに具体的な改善を終えるよう求めています。

【病院の関係者は】
神戸徳洲会病院で、カテーテル治療を受けた複数の患者が亡くなったことをめぐり、病院の関係者がNHKの取材に応じ、「立て続けに亡くなり、このまま治療を続けるのは危険ではないかと危機感を持っていた」などと証言しました。

ことしに入り、循環器内科の医師によるカテーテル治療を受けた複数の患者が死亡したことについて、関係者は「立て続けに亡くなり、何か問題があるんじゃないかと病院の内部で言われるようになりました。ほかにも、亡くなってはいないものの、治療を受けているときに急変する患者もいたので、このままカテーテル治療を続けるのは危険ではないかと、病院のスタッフは危機感を持っていました」と振り返りました。
患者が亡くなったあとに病院が検証を速やかに行わなかったことについては、「なぜ行わなかったのか、理由はわかりませんが、職員はみな動揺していました。早く検証して対策をとるのが医療において、安全を担保するための原則だと思います」とした上で、院長に対しては、「原因をなかなか究明しようとしなかったことには憤りを感じます。危機管理や職員の不安に対応しなかったことについて、病院の責任者として問題だと感じます」と話しました。
一方、治療を行った医師については「多くの医療者は医療の質を良くしていこうと悩みながら医療をしているのが実際のところですけども、そういう態度があまり見られず問題だと思いました」と話していました。
そして、病院に対しては「問題が起こったときの振り返りを迅速にして、医療機関として正常に機能してほしいです」と話していました。

【専門家は】
神戸市が行政指導を行ったことについて、医療の安全管理に詳しい名古屋大学医学部の長尾能雅教授は「いずれも重要な指摘で、改善が必要な内容だと思う。患者が死亡したあとに、院長は、担当医の意見を聞いたのみで、十分な調査を行っていなかったことは問題だ。その時点で、病院の診療全体を見直したりいったん中止して体制を改善したりするチャンスだった」と指摘しています。
今後、国の医療事故調査制度に基づいて第三者機関での検証が行われることについては、「医療行為が適切だったか、標準的な治療から逸脱した行為がなかったか、第三者の専門家の目で点検する必要がある。病院や診療チームにどんなウィークポイントがあり、どのように改善する余地があるのか、検証して広く社会と共有することで、医療全体のクオリティを上げることにもつながる」と説明しています。
一方で、検証には、半年から数年かかることもあるとして、「病院は、最終的な検証結果を待つのではなく、調査の中で外部の専門家などから指摘された内容をそのつど、改善につなげるべきだ」として、病院には、積極的に医療体制を改善する姿勢が必要だと指摘しました。