神戸製鋼所石炭火力発電所稼働差し止め訴訟 住民の訴え棄却

神戸製鋼所が増設した石炭火力発電所について、大気汚染や地球温暖化による被害を受けるおそれがあるとして、地元の住民グループが建設と稼働の差し止めを求めた裁判で、神戸地方裁判所は「稼働によって、原告らの健康などが侵害される具体的な危険性があるとは認められない」として、訴えを退ける判決を言い渡しました。

神戸製鋼が神戸市灘区の石炭火力発電所に増設した3号機と4号機について、地元の住民グループは「大気汚染物質や二酸化炭素が長期間にわたって排出されることで、健康被害が出たり地球温暖化を加速させたりするおそれがあり、健康に安心して生活する権利が侵害される」として、神戸地方裁判所に建設や稼働をしないよう求める訴えを起こしました。
増設された2基は、先月までに運転を開始していて、神戸製鋼は「温暖化は、地球全体に及ぶ問題で、特定の個人だけの権利として行使できない。大気汚染物質の排出については、原告らの健康や生活環境に被害を与えるものとは言えない」などと主張し、争ってきました。
20日の判決で、神戸地方裁判所の高松宏之裁判長は「二酸化炭素の排出が原因の地球温暖化による住民の権利侵害については、具体的な危険の有無で考慮されるべき」として、差し止めを請求する権利がないとした神戸製鋼の主張の一部を認めませんでした。
一方、「国内外で地球温暖化対策が進められているほか、発電所には環境対策設備の導入が計画されていて、稼働によって、原告らの健康などが侵害される具体的な危険性があるとは認められない」と指摘し、住民側の訴えを退けました。

【原告弁護団 “速やかに控訴”】
判決のあとの記者会見で、弁護団の池田直樹弁護士は「原告側の請求は棄却されたものの、裁判所は、二酸化炭素を大量に排出することが気候変動に悪影響を及ぼし、個人の人格権が侵害される危険性を明確に認めていて、この点では、神戸製鋼側の主張を否定した。住民が権利を主張することができるという枠組みを認めたことは、少し前進したと受け止めている」と一定の評価をしました。
一方、「二酸化炭素の大量排出による気候変動が個人にどのような影響を及ぼすのか、具体的な危険性がなく、因果関係が薄弱だという裁判所の評価は、この瞬間にも大量に排出され、今、気候変動の悪化を止めなければならないという危機感が徹底的に欠けている」と述べました。
その上で、「地球温暖化に対する原告側の危険は、深刻な不安とまでは言えないとする判断は、国際的な潮流から外れていて、速やかに控訴して、石炭火力の問題を市民に広く問いたい」と話していました。

【神戸製鋼所 “控訴の場合も適切に対応”】
今回の判決について、神戸製鋼所は「当社は、原告側の請求の適法性を争うとともに発電所の設置計画について、環境影響評価の手続きが適正に実行され、関係諸法令への適合が確認されていることなどを主張し、請求の棄却を求めてきました。この判決に伴う業績への影響はなく、原告側が判決に対して控訴した場合には、引き続き、適切に対応してまいります」とするコメントを出しました。