神戸大など 遺体のスマートウォッチデータから死亡時刻特定

心拍数や血中酸素飽和度などが計測できるスマートウォッチのデータなどをもとに、死後、長期間たっている遺体の死亡推定時刻を特定したケースがあったことが、解剖を行った神戸大学などへの取材でわかりました。

神戸大学などのグループは、兵庫県内の駐車場に止められていた車の座席で見つかった、死後1か月ほどが経過した30代の男性の遺体について警察からの依頼を受け、詳しい死因や死亡推定時刻などを調べました。
男性は、血液中の酸素飽和度を計測できる機能があるスマートウォッチを装着していて、データを解析したところ、▼心拍数が、午前7時40分ごろに1分間に54回計測された以降は記録が無かったほか、▼血液中の酸素濃度についてもほぼ同じ時間に87%を記録したのを最後に記録がありませんでした。
このため、遺体の状況なども踏まえ死亡推定時刻を午前7時40分前後の時間と判断したということです。
遺体の状況などから、事件性などは確認されませんでした。
長時間がたち腐敗が進んでいる遺体の場合、死亡推定時刻を割り出すことは難しいとされていて、捜査関係者によりますと、スマートウォッチのデータが死亡推定時刻の特定に活用されるケースは異例だということです。

【解剖を担当した医師は】
解剖を担当した神戸大学大学院医学研究科の高橋玄倫講師は、「1か月以上が経過した遺体の場合、具体的にいつ亡くなったかを特定することは困難だが、今回は、スマートウォッチで計測された健康に関する情報をもとに、詳しい時間を特定できた有用な事例だった。正確な情報は残される人にとっても精神的な安らぎにもつながる」と話しています。
そのうえで、「最近では心電図などを記録できるスマートウォッチも登場していて、亡くなる間際の心臓の状態なども明らかにできるかもしれない。今後も正確な死因や死亡時期を明らかにするためスマートウォッチなどのデータを活用していきたい」と話しています。

【データ活用のルール必要か】
日本法医学会の理事長で福岡大学医学部の久保真一教授は、「さまざまな機能を持ったスマートウォッチが登場しているが、日々、計測される健康に関するデータは、亡くなる前後の詳しい状況や死亡推定時刻を特定する上で極めて有効なものだ」と指摘しています。
一方、スマートウォッチによる詳細な健康データは、スマートフォンのアプリで管理されていて、所有者の許可が得られないため第三者がすぐに情報を閲覧できないケースもあるということです。
そのうえで、「これからますます高齢化社会が進み、まわりに気付かれずに亡くなるいわゆる『孤立死』のケースが増えるおそれもある。法医学の分野だけでなく急な体調変化を見守るためなど、医療の分野でもデータ活用の機会が増えるため、もしもの時に特定の関係者が閲覧できるルールづくりについても今後、議論が必要になってくるだろう」と話しています。

【健康意識高まり普及】
新型コロナの感染拡大で病気の予防や健康意識が高まるなか、心拍数や血中酸素飽和度を計測できる機能を搭載したスマートウォッチは、幅広い世代で普及しています。
民間の調査会社、MM総研によりますと、スマートウォッチの国内の販売台数は、昨年度(2021年度)はおよそ343万台で、前の年度(2020年度)に比べて、およそ49.6%増加し、2026年度には639万台に拡大すると予測しています。
拡大が見込まれる背景には、スマートウォッチで心拍数や血中酸素飽和度の測定のほか、心電図やカロリーの消費量など健康管理に関わるデータを記録できるため、医療や健康など幅広い分野への活用が期待されていることがあります。
スマートウォッチが普及する一方で、集められた情報を医療機関などと共有しやくするための仕組みも官民で検討されていて、今後、どのようにプライバシーを保護していくかも課題となっています。

【医療現場での活用も】
心電図や心拍数などのデータを測定できるスマートウォッチを、医療現場で活用する動きも広がっています。
岐阜県美濃加茂市の中部国際医療センターでは、去年(2022年)6月、スマートウォッチで心拍の異常を把握した人などを対象にした専門外来を新たに設けました。
日常的に長時間、身につけていることが多いスマートウォッチは、手軽に心電図などが記録でき、病気の危険性があれば警告が表示される機種もあります。
この病院では、スマートウォッチの警告をきっかけに、受診する人が増えたため、新たに専門の外来を設置したということで、これまでのおよそ半年間に、20人ほどが訪れたということです。
岐阜県各務原市に住む稲見浩さん(57)は、おととし(2021)、息苦しさを感じることが増え、心電図のアプリを利用して確認したところ、不整脈の一種で、心臓の一部がけいれんする病気「心房細動」という結果が表示されたため、この病院を訪れました。
その後、医師からは「心房細動」と改めて診断され手術を受けて、現在は容体が落ち着いているということです。
稲見さんは、「スマートウォッチのおかげで命拾いした。今では定期的にチェックすることが習慣になった」と話していました。
専門外来を担当する中島孝医師は、「スマートウォッチであれば、体調の異変を感じた時に患者自身の判断でその場で気軽に計測することができるため、病気の早期発見などが期待できる」と話していました。