被災者アンケート 復興は“住居の確保“が最重要

能登半島地震から3か月を迎えるにあたり、2次避難者などを対象にNHKが専門家と共同で行ったアンケートで、「これまで住んでいた場所や自治体で暮らし続けたい」と答えた人が8割に上りました。
一方、多くの人が地域の復興には「住居の確保」が最も重要だと考えていて、いち早い住宅復旧や生活環境の整備を求める声が高まっています。

NHKはことし2月から3月にかけて、東京大学の関谷直也教授の研究室と共同で能登地方の被災者や2次避難している人など、あわせて258人を対象にアンケートを行いました。
いまも4000人近い人が、自宅のある能登地方を離れ2次避難を続けていますが、2次避難を決断・検討した理由について複数回答で聞いたところ、「水道が復旧しない」が30%、「当面、暮らせないと思った」が25%、「電気が復旧しない」が21%とインフラなどへの被害で生活が困難になり、やむをえず能登地方を離れた人が多くみられました。
また、インフラなどの復旧が進んだあとの「将来住みたい場所」について聞いたところ全体の81%が、「被災前に住んでいた場所や同じ自治体に住みたい」と回答しました。
このほか、「まだ具体的には考えられない」が7%、「県内の別の自治体でもかまわない」が4%、「県外でもかまわない」が3%などとなりました。
そのうえで、住んでいた地域の復興のため重要と思うことについて複数回答で聞いたところ、「住居の確保」が最も多く64%、次いで「過疎対策」が42%、「医療・高齢者施設の充実」が38%、「コミュニティーの維持」が33%、「防災対策」が31%などとなり、住宅の復旧や安心して暮らせる環境の整備を求める声が多くなりました。
自由記述では穴水町の70代の男性が「仮設住宅を申しこんだが2年しかいられない。家を再建したいが高齢者なので経済的な問題がある」と不安を伝えていました。
また、輪島市の70代の男性は「誰も帰らないと街が成り立たず過疎に拍車がかかる。人が戻ってくる政策を進めてほしい」と訴えていました。

《「自宅の再建進めながら 元の場所に住みたい」》
アンケートに答えた石川県輪島市の谷内展明さん(54)も住まいを確保できるのか、不安を抱えています。
谷内さんは輪島市の南志見地区で80代の母親と40代の妻の3人で暮らしていましたが、自宅が壊れたため、金沢市の2次避難所に身を寄せています。
長年暮らしてきた自宅は柱の位置がずれたり床板が抜け落ちたりするなど大きな被害を受け、さらに、裏山で起きた土砂崩れが建物の近くに迫っていて、危険な状態になっています。
家族で仮設住宅への入居を申し込んでいますが、いつ、どの場所に入居できるのか、見通しはわかっていません。
いずれは自宅を再建したいと考えていますが、土砂崩れが起きた場所に建ててもいいのかわからず、再建できたとしても地震で再び壊れるのではないかという懸念もあります。
再び強い揺れに襲われることに対する恐怖も感じていて、安心して暮らせる住まいを確保できるのか、不安を抱えています。
それでも、豊かな自然の中で住民どうしが支え合って暮らしてきたふるさとへの思いは日に日に強くなっているといいます。
谷内さんは「四季折々の景色がきれいで友だちもいるふるさとに戻りたいです。いろいろな不安はありますが、まずは仮設住宅に入って生活しながら自宅の再建を進め、最終的には元の場所に住みたいというのが正直な気持ちです」と話していました。

《不動産会社「被災地の物件需要高まる」》
多くの建物が倒壊した能登半島北部・奥能登地域の不動産会社のもとには、「地元で暮らしたい」という人たちから物件の問い合わせが相次いでいます。
石川県能登町の不動産会社「能登不動産」は珠洲市や能登町を中心に奥能登地域の中古住宅や賃貸住宅を扱っています。
元日に起きた能登半島地震のあとは物件の被害の確認に追われていますが、住まいを探す人からの問い合わせに対応することも多いといいます。
問い合わせは地震直後からの3か月間でおよそ140件にのぼり、地震の前と比べると3倍から4倍ほどに増えているということです。
復旧作業の関係者からの問い合わせもありますが、ほとんどは地元の人からのもので、地震の前から住んでいた場所やその近くで物件を探すケースが多いといいます。
しかし、奥能登地域ではもともと物件が限られている上、多くは地震の被害を受けているため、紹介できる物件はほとんど残っていません。
本人の希望に沿った住まいが見つかる割合は15件から20件ほどの問い合わせに対して1件程度だといいます。
ただ、最近では、空き家になっている住宅の所有者から「被災者の住まいになれば」と賃貸や売却の申し出を受けることもあるといいます。
「能登不動産」の代表の玉地正幸さんは、申し出があれば速やかに調査を行い、住める状態かどうかを確認しています。
玉地さんは「住み慣れた能登での生活を取り戻したいとわらをもつかむような気持ちで問い合わせをしてくる方が非常に多いです。その気持ちに応えられるよう、新たな物件探しも進めつつ少しでも多くの人に住まいを提供していきたい」と話しています。

《関谷教授「復興に向けたスケジュールを」》
今回のアンケート結果について災害社会学を専門とする東京大学の関谷直也教授は、「能登地方から一時的に人口が流出するのはやむをえないが、戻りたいと希望する多くの人が数年後に戻れるかどうかが重要なポイントになる」と話していました。
その上で、「能登半島の特性などにより、遅くなっている震災がれきの撤去やインフラの復旧について、住民が納得できる情報提供が足りていない。どのくらいの時期に地域が復興し、元どおりの生活が出来るようになるのかを示すことが、地域に住み続ける意欲を持続させることになる」と述べ、行政が復興に向けた具体的なスケジュールを示していくことの重要性を指摘していました。