解説)「指定福祉避難所」鹿児島の現状と課題

シリーズでお伝えしている「被災地はいま」。

1月末からおよそ2週間、石川県珠洲市や能登町で取材した熊谷直哉記者が「福祉避難所」について解説します。

福祉避難所とは、避難所での生活に配慮が必要な
高齢者や障害者などを対象に開設される避難所で、トイレや階段などのバリアフリーが徹底されていたり介護用品が備蓄されていたりすることなどが一般の避難所との違いです。

この福祉避難所が課題となっています。
能登半島地震で、石川県内の奥能登地域では、建物そのものに被害が出ていたり、職員も被災していることから、
発災から1か月がたった2月1日時点で、確保されていたうちの38%しか開設できていませんでした。

珠洲市で取材した竹中末子さんと、末子さんの家族の状況です。
地震で、自宅の壁が崩れ、敷地内では地割れも起きていました。
応急危険度判定で、「要注意」と判定されました。
いったんは、一般の避難所に移りましたが、その後は家で過ごしていました。
末子さんの介護があるからです。
末子さんは、要介護度が「3」で、自力で歩くことが難しく、トイレや入浴などの介助が必要です。
新型コロナなど感染症の不安もあり、一般の避難所での生活は、負担がより大きくなるというのです。

(息子の秀次さん)。
「福祉避難所があったらすごく助かる。少しだけでも預けることができれば私もいろいろ動けるし、素人が介護しても大変だから、ケアがしっかりしているところに避難できたらいいなと思う」。

【福祉避難所には2種類】。
福祉避難所は2種類あります。
1つ目が、高齢者施設と協定を結ぶなどして開設する福祉避難所です。
この場合、支援が必要な人は、まず一般の避難所に避難します。
そして、自治体の職員が施設側に状況を確認するとともに、避難所にいる人の中からより支援が必要な人を選び、施設に避難してもらいます。
これだと、通常2日〜3日以上はかかります。

2つめが「指定福祉避難所」です。
あらかじめ要支援者の中で受け入れる対象の人が
決められていて、事前に「指定福祉避難所」が
どの施設なのか、公表されています。
個別の避難計画などをもとに、対象者は、家族などとともに直接、避難することができます。

そのいきさつ。
これまでの災害で“配慮が必要な人が一般の避難所で過ごすのが困難だった”という声があがって、
3年前、災害対策基本法が改正され、できました。

【鹿児島では半数以上「指定せず」】。
ただ、鹿児島県内の状況を取材すると、「指定福祉避難所」の指定に課題があることがわかりました。

協定などによる福祉避難所は、県内のほぼすべての市町村が確保しています。
ただ、事前に公表される「指定福祉避難所」では、43の市町村のうち、指定しているのは21で、半数以上の22の市町村では、指定を行っていないことがわかりました。

人口の多い鹿児島市や日置市で指定されていないほか、高齢化率が50パーセントに迫る大隅地方の南大隅町などでも指定されていないのです。

その理由を担当者に聞いたところ、指定福祉避難所に指定すると公表が求められるため、
「対象になっていない人も避難してきて、 混乱を招く可能性がある」とか、
「対応できる職員の数にかぎりがあり、すぐに受け入れ態勢を取れるかわからない」といった声が聞かれました。

では、どのように自治体は対策していけばいいのでしょうか?

いわゆる災害弱者に詳しい専門家はこのように話しています。

(日本大学危機管理学部 鈴木秀洋教授)。
「基本的に場所が移るということは障害者や高齢者はなかなか難しい。直接避難するということが大事だ」。

鈴木教授が求めているポイントが2つあります。
1、事前に誰がどこの福祉避難所にいくべきかを明らかにする。
2、ひとつの市町村だけで対応が難しい場合は、ほかの自治体と協力して広域でバックアップ体制を整備する。

(日本大学危機管理学部 鈴木秀洋教授)。
「事前にマッチングをしておけば、自治体の中では、どういう人が高齢者で通常いろんなケアサービスを受けているかとか、障がい者でもどのようなサービスを受けているか、ある程度把握はできているので、そういう人たちは、通常の避難所ではなくて福祉避難所という形での事前の指定をしていく」。
「広域で福祉避難所を確保することは、県外も含めてですけれども、考えていかなくてはいけなくて。それは事前にもともと協定を結んでおくとか、どこに移るというのも事前に計画が必要」。

事前の準備がより大切になってきます。

被災地では、そもそも「福祉避難所の存在自体を知らなかった」という声を耳にしました。
自治体がマッチングなどをより進めれば、こうした周知にもつながると思います。
配慮が必要な人が安心してすぐ避難できるよう、取り組みを加速させていくことが大切だと思います。