無念の失敗乗り越え再挑戦へ!「H3」開発責任者に聞く

日本の宇宙開発の命運を握る新型ロケット「H3」。無念の初号機の打ち上げ失敗から1年近く、再挑戦となる2号機の打ち上げを前に「H3」の開発を率いてきたJAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャがNHKの単独インタビューに応じました。
(NHK鹿児島放送局・西崎奈央)

【無念の初号機失敗 悔しさは今も】
「9合目とちょっとのところですかね。9合目か一歩踏み出したところだと思います。成功したときに山頂にようやくたどりついたという感じになるんでしょうね」

2週間前、打ち上げに向けた準備状況を登山に例えてこう表現した岡田さん。この1年近く、長く険しい道のりを歩んできました。

去年3月7日。無事に打ち上がったかのように見えた「H3」。開発に難航していたメインエンジン「LE−9」も計画通り燃焼すると管制室は喜びに包まれました。ところがその直後、2段目のエンジンが着火せず、まさかの「指令破壊」。打ち上げは失敗に終わりました。

およそ10年に及んだ開発段階から多くの困難を乗り越え、ようやくたどりついた初号機の打ち上げ。しばらくは結果を受け止められなかったと言います。

(JAXA・岡田匡史プロジェクトマネージャ)
「朝起きるたびに夢だったらいいなという思いで起きているけど、やはりそこには現実があって。その重さが本当に耐えきれないぐらいに重く感じることが日ごとに増してきたというか、そんな状態だった」

【”枯れた技術”ゆえの難しさ】
そもそも着火しなかった2段目のエンジンは、高い打ち上げ成功率を誇る「H2A」ロケットとほぼ同じ設計でした。実績を積み重ねてきたエンジンでさえも、新しいロケットに装着すると不具合を起こすこともある。岡田さんは独特の言葉でその難しさを語りました。

(JAXA・岡田匡史プロジェクトマネージャ)
「私、時々こう表現している言葉であるんですけど“枯れた技術”。物としては過去から200回ぐらい使ってきているようなものに原因のひとつがあると。今までうまくいっていたのに何でという思いがあって。何も問題ないと思って、これから未来に渡るまで使えるかという判断が非常に難しい」。

なぜ、信頼性の高い2段目のエンジンが着火しなかったのか?。残されたのは飛行中にロケットから送られてきたデータや製造時の記録だけ。数限りない可能性の中から原因を特定する作業は困難を極めました。

(JAXA・岡田匡史プロジェクトマネージャ)
「出口が見えない。だけど時間だけがどんどん過ぎていく。原因を絞り込んでいくのだけれども、中を開けて見るとこの中に原因がないのではないかという、ある種の恐怖感というんですかね」。

【原因を特定せず考えられるシナリオすべてに対策】
一方で、原因究明が長引けば「H3」の今後の打ち上げスケジュールに影響が出かねない−。そこで、原因をひとつに特定するのではなく、考えられるシナリオを絞り込み、そのすべてに対策を講じる方針でのぞむことにしました。その結果、4か月かかってようやく2号機打ち上げに向けた道筋が見えたと言います。

(JAXA・岡田匡史プロジェクトマネージャ)
「“網をかけたほかには原因はない、いいよねこれで?”“いいです”という感じで、みんなで納得し合ったときにパーっと霧が晴れて遠くに光が見えた。光を逃がさないようにするのが大事なので手繰り寄せるようにしていった」

【多くの期待を背にいざ“再挑戦”へ】
検査を強化し機器の設計を一部変更した2号機。ロケットの先端部分、真新しいフェアリングには「RTF」の文字がー。「リターン・トゥー・フライト」。再挑戦への思いが込められています。そして、その文字の中には全国から寄せられたおよそ3000もの応援メッセージが記されています。

(JAXA・岡田匡史プロジェクトマネージャ)
「いただいた声というのが非常にわれわれにとってはありがたくて、しんどいときの心の支えになるんですね。ロケットの燃料は水素と酸素ですけど、われわれの燃料は皆さんからの声ですので、その声を乗せて宇宙に一緒に行きたい」

直前に迫った2号機の打ち上げ。次こそは成功させて日本の宇宙開発を新たなステージに進めたい考えです。

(JAXA・岡田匡史プロジェクトマネージャ)
「もう一度チャンスをいただいたので今度こそ成功させたい。ただ私たちは神様ではないので100%というのはない。なので100%に近づけるように努力したい。このH3ロケットが日本の宇宙輸送の未来を変えるというつもりで頑張ってきたので、それを実現したい」