責任者語る開発の舞台裏 H3ロケット種子島から打ち上げへ 

今月17日に打ち上げられる新型ロケット「H3」。その開発を率いてきたのがJAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャです。困難を極めた開発の舞台裏、そして、目前に迫った打ち上げへの思いについて、NHKの単独インタビューに応じました。(鹿児島局・平田瑞季記者)

【困難を極めた技術の限界との闘い】

「自分たちが10年近く関わってきたロケットの“デビュー戦”なので、何とか成功させたいという思い。打ち上げの瞬間まで自分たちのやれるだけのことをやり切って打ち上げの瞬間を迎えたい」

「H3」の開発着手から9年。ようやくこぎ着けた打ち上げを前にこう語ったのは、開発チームの総責任者としてプロジェクトを率いてきたJAXAの岡田匡史さんです。

日本の大型ロケットして、およそ30年ぶりとなる新規開発。それは技術の限界との闘いでもありました。

国際的な競争力を高めるために目指したのが“低コスト化”。そのために取り組んだのが、新型のメインエンジン「LEー9」の開発でした。従来のエンジンに比べ、部品の数を3分の1に減らし、コスト削減を図りながら、大きなパワーを出す。しかし、開発は困難を極めました。2020年に行われたエンジンの燃焼試験では、内部に最大で長さ1センチほどの割れ目が14か所も見つかり、当初2020年度に予定していた打ち上げの延期を余儀なくされました。

(JAXA岡田匡史プロジェクトマネージャ)
「一報を聞いた時は本当に凍りつきました。どうしようと血の気が引くような気持ちになりました。先が見えなくなった」

エンジンの改良を重ね、翌年、再び挑んだ試験。35秒間燃焼させる予定でしたが、わずか9秒で試験が終了。

今度は、エンジンに燃料を送り込む「ターボポンプ」に、想定とは異なる振動が確認されたのです。エンジンが壊れ、打ち上げ失敗にもつながりかねないとして、2度目の延期が決まりました。

(JAXA岡田匡史プロジェクトマネージャ)
「1回目に出たのとはまた違う光が見えなくなった瞬間でした。出口が見えなくなった瞬間でしたね。1点の曇りもなく打ち上げられる状態にしないと打ち上げにのぞむべきではないと」

【試行錯誤を重ね“光が見えた”瞬間】

そこで、開発チームは、設計を少しずつ変えた5種類のターボポンプを製造。燃焼試験を繰り返し試行錯誤を重ねた結果、去年夏に試験は成功。打ち上げが見えるところまでこぎつけました。

(JAXA岡田匡史プロジェクトマネージャ)
「自分たちの限界に近い技術と真っ向勝負している感じですよね。一本道では済まない可能性があると自覚して、いくつもの矢を用意して、それを同時に設計して順番に射っていくという策を練ったんです。そのぐらい覚悟してのぞんでみると、いい矢が見つかりまして、これなら打ち上げに使えるかもしれないという策が見え始めた。今まで出口の光の全く見えなかったところから遠くに光が見えた時はうれしかったですね。その光を手繰り寄せて逃すことはできないと思ったので、みんなでそこを目指して一気に進んできたいう感じですね」

去年11月には、メインエンジンを実際の機体に搭載して燃焼させる最終試験が行われました。良好な結果が得られ、打ち上げに向けた大きなヤマ場を越えました。

【開発に潜む“魔物”は“技術の神様”だった】

何度も壁にぶつかりながらも、ひとつずつ解決策を見いだしてきた開発チーム。岡田さんは、その歩みを独特の表現でこう振り返りました。

(JAXA岡田匡史プロジェクトマネージャ)
「ロケット開発には“魔物が潜んでいる”と。いざ現れてその魔物と対峙していると、だんだんそれが神様に見えてきて、技術の神様に“お前たちしっかりやれ”って言われているような気持ちに変わってきた。そう思わないと、とても耐えられるような状態じゃなかったなと。魔物だと思っていたのが、実は技術の神様だったという感じ。甘く見るとその向こうにはまた大きな壁がある可能性もあるので、ひとつ壁があったらそこをしっかり登り切るという繰り返しだった」

いよいよ目前に迫った打ち上げ。
最後の瞬間まで万全の準備でのぞむ考えです。

(JAXA岡田匡史プロジェクトマネージャ)
「抜かりなく打ち上げるという準備を整えるのと、自分たちの開発を振り返って何か見落としがなかったかなというのは、発射の瞬間まで考え続けているんじゃないですか。最後の一瞬まで気を緩めないで頑張りたい。まだ神様に“お前たちよくやった”って言われているわけではないので、しっかり打ち上げを成功させて、神様に“どうでしたか”と問いたいところです」