専門家に聞く国民保護訓練 その意味や課題は?
鹿児島県が18日、初めて行った外国からの武力攻撃を想定した図上訓練。その狙いや課題について、国民保護が専門で、訓練のアドバイザーを務めた国士舘大学の中林啓修准教授に聞きました。
(白鳥アナ)
今回の図上訓練の意味についてどう考えるか?
(中林准教授)
日本を取り巻く安全保障環境が悪化していると言われ続ける中で、去年は、ウクライナをめぐる戦争が起こり、国際関係はきわめて不安定になっている。国や鹿児島県としても住民の安全の確保に本腰を入れて取り組み始めたと受け止めている。
(白鳥アナ)
訓練を通じて課題として見えてきたものは?
(中林准教授)
有事における国民保護では、住んでいる地域から外に避難していただく必要が出てくる。そうした中、高齢者などの要配慮者、特に病院で入院している人や、移動そのものが命のリスクになりうるような人については、細かな配慮など対応をしっかり詰めていく必要がある。また、避難した人をどこでどのように受け入れて生活を継続してもらうのか、そういったところについてまだまだ検討が足りていないと感じている。
(白鳥アナ)
国民保護の取り組みについて、NHKが中林准教授とともに、南西諸島にある県内18の市町村を対象に行ったアンケート調査では、有事の際に住民を避難させる輸送力を把握していると答えたのは、2つの町村にとどまった。一方で、国民保護法で求められている避難のパターンを作成していない自治体は3割近くに上った。この結果についてどう見ているか?
(中林准教授)
自治体の課題として、やはり人手の不足がある。さらには国民保護特有のいろんなノウハウや知識も不足していて、なかなか手を出しきれていない、詰め切れていない自治体が多いのではないか。今回の訓練を含め、国や県がしっかりと関与し、全体としての仕組みの充実を図っていくことが重要になってくると思う。
(白鳥アナ)
一方で、こうした有事を前提とした国民保護の議論が、ことさらに住民の不安をあおることにはつながらないか?
(中林准教授)
住民側としては急に問題を突きつけられているわけで、動揺するのは当然のことだ。国民保護の計画を進めるのは当たり前だろうと言うことはいけないと思う。ただ、ウクライナもそうだが、多くの戦争が実際に起きてしまうと誤算や想定できないものがある。つまり、われわれは戦争というものを十分わかっていない。だとすれば、もし日本が巻き込まれてしまったときに最後の最後の手段として住民の命をしっかり守っていく、次の社会をつないでいく、そういったものとして国民保護の取り組みが必要になってくるのではないかと考えている。
(白鳥アナ)
国の安全保障政策が大きく転換し、防衛力が大幅に強化される中で、その最前線と言える鹿児島もこの問題に無関係ではいられなくなりつつある。私たちはこの問題に、どう向き合っていくべきか?
(中林准教授)
まず、国民保護の問題で言えば、その体制が充実したから日本が戦争を求めていいとか、防衛のための戦争なんだから仕方ないというものでは決してない。
繰り返し言うが、あくまで最後の手段として行うものだし、県民の皆さんにはそのようなものとして理解をいただいて、その上で必要なときには協力していただきたい。他方、安全保障の問題は国全体の問題だ。地域との関わりで言えば、決して鹿児島の人たち、あるいは島の人たちだけに問題を押し付けて、皆さんの問題だから皆さんだけで考えなさいと、そういったことではいけない。日本は人口の半分が東京など大都市に住んでいるわけで、やはり国民全体がしっかりこの問題を考え、必要なときに声を上げていく、そういう中で地域の問題としても考えていくことが必要ではないか。