「強迫性障害」漫画で伝える 鹿児島の漫画家 つくしゆかさん
外出先で「家のカギ閉めてきたっけ?」と不安になった経験、ありませんか?
こうした不安などがあまりに強く生活に支障が出てしまう「強迫性障害」という病気があり、日本に100万人、鹿児島にも1万6000人ほどいると言われています。どんな病気でどんなことに困っているのか「漫画」で伝えている鹿児島の漫画家を取材しました。
(鹿児島局アナウンサー 黒田賢)
【「強迫性障害」描いた漫画】
今年9月。「強迫性障害」について描かれた漫画が出版されました。「強迫性障害」は、強い不安やこだわりによって日常生活に支障が出る疾患です。
作者は鹿児島で活動する漫画家のつくしゆかさんです。つくしさんは、今は症状が落ち着いていますが、十数年の間、この「強迫性障害」に悩まされてきました。
(つくしゆかさん)
「火の元を確認して出かけるんですけど、ここ(ガスコンロ)からずっと火が出ているような気がして立ち去ることができなくて、1時間半くらいずっと眺めてしまうこともありました」
【強迫性障害の症状は】
強迫性障害にはいくつかの代表的な症状があります。
戸締まり、スイッチ、ガス栓などを過剰に確認する「確認行為」。つくしさんが火の元から離れられないのもこの「確認行為」のためです。
汚れや細菌汚染の恐怖から過剰に手洗い、入浴、洗濯をくりかえす「不潔恐怖」。
誰かに危害を加えたかもしれないという不安がこころを離れない「加害恐怖」。
さらには、不吉な数字・幸運な数字に、縁起をかつぐというレベルを超えてこだわる、「数字へのこだわり」なども。
人によって症状は様々ですが、つくしさんは「確認行為」のエスカレートに悩まされました。
(つくしゆかさん)
「家から出るときに、窓の鍵の確認をしていくんですけど。押してぐっと締めるんですけど押しすぎて出血するんですね。血が出たら窓の鍵締めたぞっていう確認完了の合図になって。血が出たら出かけられるっていうふうな」
つくしさんの実体験に基づいて描かれた漫画の中には、かつて看護師として働いていた職場での描写があります。
つくしさん「水道の水止まってる……」
同僚「つくしさん、さっきから何やってるの?ボサッとしてないで仕事してくれる?」
つくしさん「ち、違う!!ボサッとしてないのよ頭の中は!!」
(つくしゆかさん)
「自分が確認したり不安に思っていたりするときは自分の頭の中は超忙しいけれど、はたから見たら何もしていない、ボケっとしているように見られる。もっと仕事しなさい、もっとやるべきことをやりなさいと言われるけれど、頭の中では忙しいのにっと思っていた」
【打ち明けられない】
周囲に理解されない苦しみ。しかし、つくしさんは仕事に支障が出ても病気のことは打ち明けられなかったといいます。
(つくしゆかさん)
「強迫性障害の患者さんあるあるで、私もそういう症状を見られるのがめちゃくちゃ恥ずかしかったので、絶対に話せなかったです。症状が出始めた時からずっと孤独な戦いだと思っていたのでちょっと諦めがありました」
患者は日本に100万人以上いると言われてますが、強迫性障害についてはほとんど知られていないとつくしさんは感じています。
5年前に看護師を辞め、長年好きだった絵を描くことを通じて病気の存在を広く届けたいと考えたつくしさん。目には見えない「不安」そのものをキャラクターとして描き表現しました。
(つくしゆかさん)
「見えない分、強迫性障害って根が深いというか、人の心ってバロメーターで見ることはできないから。頭の中はどうなってるのかって分かってほしいなって思います」
【分かってほしい強迫性障害のこと】
つくしさんの思いは少しずつ伝わり始めています。9月に漫画が出版されると、鹿児島市の書店で、売上ランキングで2週連続上位に入ったのです。
(書店の店員)
「手に取って内容を確認してそのままレジに持ってきてくれた方も多いです。コミックエッセイということもありまして、大人だけでなく子どもも手に取って読みやすいというのが一番の理由だと思います」
鹿児島市の精神科医・倉野裕さんは、多くの人が強迫性障害について知ることは、患者にとって精神的な助けになると言います。
(倉野裕医師)
「なかなか表に出せない症状の方が多いんです。自分が周囲を見渡して、この人何かに困ってるんじゃないかなというときは強迫性障害などそういったことも念頭に置いて相談に乗ってあげることも大事なのかなと思います」
1人の患者として強迫性障害と向き合ってきたつくしさん。社会に強く願うのは、互いを受け入れ合う寛容さです。
(つくしゆかさん)
「何かもっと自分が強迫性障害なんだって言ったときに、そうなんだ大変だよねって言葉を返してくれるような病気の認知になればいいなって思いますね。そうなると、みんなが生きやすい世の中になるんじゃないかなとすごく思います」
【心配性との違いは?】
強迫性障害は、どこまでが心配性でどこからが強迫性障害か、明確な基準があるわけではありません。精神科の医師・倉野さんは、たとえば、目安として、1日20分〜30分以上時間を浪費することがあれば専門機関に相談してみてもいいかもしれないと話していました。