サンマのすべての遺伝情報の解読に成功と発表 福島

アクアマリンふくしまなどの研究グループは深刻な不漁が続いているサンマについて、すべての遺伝情報の解読に成功したと発表しました。
養殖技術の確立などに向けた基礎情報として役立てたいとしています。

いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」は24年前の開館当初から世界で唯一、サンマの飼育展示と繁殖を行っていて、その知見を生かして国内の研究機関などとサンマの養殖技術の研究に取り組んでいます。

こうしたなか、アクアマリンふくしまや国立遺伝学研究所などは、サンマが持つすべての遺伝情報の解読に取り組み、成功したと発表しました。

水族館で飼育するサンマ1匹を使って、およそ8か月かけて解析を進めたところ、遺伝情報を構成する塩基の配列はおよそ11億7000万あることがわかり、これはサンマと共通の祖先を持つメダカと比べておよそ1.5倍多く、ヒトとの比較だと4割程度でした。

サンマの全遺伝情報が明らかになったのは初めてで、結果はネット上で公開されています。

グループはさらに分析を進めれば養殖技術の確立に向けた基礎情報として役立てられる可能性があるとして、今後の成果に期待を寄せています。

アクアマリンふくしまの山内信弥さんは「今回の成果はサンマの飼育に携わる身としてもうれしいです。この情報がさまざまな研究に応用されるのを楽しみにしています」と話していました。

サンマは2000年代に入って不漁が目立つようになり、近年は、過去には考えられなかった歴史的な不漁が続いています。

サンマの漁業者で作る業界団体、「全国さんま棒受網漁業協同組合」の最新のまとめによりますと、去年8月から12月の全国の港のサンマの水揚げ量はあわせて2万4433トンでした。

2018年以来、5年ぶりに増加に転じ、過去最低の水揚げを記録したおととしよりも4割ほど増えましたが、近年のピークだった2008年の34万トンあまりと比較すると非常に低い水準にとどまっています。

不漁の背景には、気候変動に伴う海水温の上昇により、サンマに適した生息海域が変化している可能性などが指摘されています。

サンマの遺伝情報の解読を担当した国立遺伝学研究所の工樂樹洋教授はサンマの遺伝的な解析が行われてこなかった理由について「サンマは身近すぎて緊急で必要な状況があまりなかった上に、新鮮な状態で研究に使うには鮮度を保つのが難しいなどの制限もあったのだと思う。今回は情報を整えて使える状態にしたということに過ぎず、まだ出発点だ。ただ、遺伝情報の解析はお金も時間もかかるので必要になってからではなく、もう手にしているという状態を作れたことが大きな一歩だ」と話しています。

その上で、今回の結果を養殖に応用していくには、どの配列がサンマの性質と関連しているのかなどをさらに分析して見極めていく必要があるとしています。

工樂教授は「今回すべての遺伝情報がわかったことで、どういうエサを与え、どんな光の環境が好ましいのかなど、サンマの生物としての性質や生育条件が遺伝情報をもとにした分子レベルの研究で明らかになり、養殖の重要な知見につながっていく可能性はある。また、全遺伝情報があれば生息海域で繁殖している個体や集団がどの程度いるのかなどもわかる可能性があり、資源維持の面でも一定の知見が得られるのではないか」と話しています。