処理水放出差し止め訴訟「海汚さず漁業を続けていけること」

東京電力が福島第一原子力発電所にたまる処理水を薄めて海への放出を開始したことについて、福島県などの住民や漁業関係者が国と東京電力に放出の差し止めなどを求めた裁判が4日福島地方裁判所で始まり、原告の1人は「私たち漁師が求めているのは海を汚さず、漁業を続けていけることだ」などと意見を述べました。

13年前に事故が起きた福島第一原発では、廃炉作業の過程でたまり続ける放射性物質を含む処理水について政府の方針決定を受けて、去年8月から基準値を下回る濃度に薄めて海へ放出する作業を開始しています。

これについて福島県内外の住民や漁業関係者など363人は国と東京電力に対し、平成27年に国と東京電力が福島県漁連と結んだ「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」という約束に違反する行為で、住民が平穏に生活する権利を侵害しているなどとして、国の原子力規制委員会による放出計画の認可を取り消すとともに放出の差し止めを求める訴えを去年9月、福島地方裁判所に起こしました。

4日、第一回の口頭弁論が始まり、原告の1人で福島県新地町の漁業者小野春雄さん(72)は、「放射性物質を海洋投棄する大義名分はなく、薄めて流せばよいという問題ではない。私たち漁師が求めているのは海を汚さないこと、そして放射能汚染に悩まされず、早く廃炉が無事に終わり、漁業を続けていけることです」などと主張しました。

4日は国側の弁論も行われ、代理人の弁護士が「処理水の放出は公益に資するもので個人の利益が侵害されるおそれはない。原告の訴えはいずれも法令の規定に則しておらず、この裁判は審理されることなく速やかに却下されるべきだ」と主張しました。

原告の1人として4日の法廷で意見を述べた福島県新地町の漁業者小野春雄さん(72)は、裁判のあとの会見で、「海に処理水を延々と流せば子孫に迷惑がかかり、なりわいを引き継ぐことができない。国の説明は不足し、処理水の放出に関連する作業ではトラブルも起きていて、この先に不安を感じる。海はゴミ箱ではないので、放出してはいけないし放出を止める必要がある」と話していました。