強制起訴裁判 東京電力の旧経営陣3人 2審も無罪判決
福島第一原発事故をめぐり、東京電力の旧経営陣3人が業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴された裁判で、東京高等裁判所は「巨大津波の襲来を予測することはできず、事故を回避するために原発の運転を停止するほどの義務があったとはいえない」と判断し、1審に続いて3人全員に無罪を言い渡しました。
東京電力の会長だった勝俣恒久被告(82)と、副社長だった、武黒一郎被告(76)、武藤栄被告(72)の3人は、福島県の入院患者など44人を原発事故からの避難の過程で死亡させたなどとして、検察審査会の議決によって業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴されました。
1審は3人に無罪を言い渡し、検察官役の指定弁護士が控訴していました。
18日の2審の判決で東京高等裁判所の細田啓介裁判長は、争点となっていた震災の9年前に国の機関が公表した地震の予測「長期評価」の信頼性について、「10メートルを超える津波が襲来する現実的な可能性を認識させる情報ではなかった」と否定しました。
その上で、「電力供給義務を負う事業者は漠然とした理由で原発の運転を止めることはできない。長期評価の性質や、3人の当時の認識なども考慮すると、事故を回避するために原発の運転を停止するほどの義務があったとはいえない」と判断しました。
さらに、「防潮堤の建設や、建屋などへの浸水を防ぐ対策をとるべきだった」という指定弁護士の主張について、「事後的に得た情報や知見を前提にしていて、これらの対策で事故を回避できる可能性があったという証明が不十分だ」と一蹴し、1審に続いて3人全員に無罪を言い渡しました。
検察官役の指定弁護士5人は判決を受けて記者会見を開きました。
この中で、石田省三郎弁護士は、「きょうの判決は、国の原子力政策に呼応した政治的な判断だと思う。原発事故の過失責任が問われないというのは極めて不合理で、到底容認できない」と強調しました。
その上で、「『長期評価』の信頼性を1審判決と同様に全面的に否定し、その意義を軽視するもので、厳しく批判されなければならない」と述べ、最高裁判所に上告するかどうか検討する考えを示しました。
また、久保内浩嗣弁護士は、「科学的に解明できていない未知の地震・津波に対しては対策を講じる必要がないというのに等しい判決で、原発事故についてこういう判断でいいのかと問題意識を持っている」と述べました。
東京高等裁判所の判決を受けて東京電力は、「福島第一原子力発電所の事故によって福島県民の皆さまをはじめとする多くの皆さまに大変なご迷惑とご心配をおかけしていることについて、改めて心からお詫び申し上げます。事故に関わる当社の元役員、3人の刑事責任を問う訴訟が継続していることは承知していますが、当社としてのコメントは差し控えます」というコメントを発表しました。