知床観光船沈没事故から2年 松戸の遺族 損害賠償求め提訴へ

北海道の知床半島沖で観光船が沈没した事故から23日で2年です。
事故で34歳の長男を亡くした千葉県松戸市に住む遺族がNHKの取材に応じ、「息子を失った喪失感は日ごとに大きくなっている」と今の心境を明かしました。
この遺族は、他の家族らと運航会社と社長に対し近く、損害賠償を求める訴えを起こす方針です。

おととしの4月23日、知床半島の沖合で観光船の「KAZU 1」が沈没し20人が死亡、6人が行方不明になっている事故では、週末の休みを利用して観光に訪れていた松戸市の会社員※ヌデ島優さん(当時34)も犠牲になりました。
ヌデ島さんの父親(67)が事故から2年となるのにあわせてNHKの取材に応じ、「荒れた氷のように冷たい海に投げ出され、どれだけの恐怖や苦しみ、絶望や無念さがあったのかと思うと今でも涙が止まりません。息子を失った喪失感は日ごとに大きくなっています」と胸の内を明かしました。
事故をめぐっては、去年9月に公表された国の運輸安全委員会の報告書で運航する会社には当時、安全管理体制が存在していない状態だったことや国の検査や監査の実効性に問題があったことなどが指摘されていて、第1管区海上保安本部は業務上過失致死の疑いで捜査を続けています。
父親は「運航会社や社長、そして国が、人の命を預る仕事を担っていたにもかかわらず安全意識のかけらもなかったことが明らかになったと思います。悪天候が予想されるなかで出航しなければ、事故は起きなかったと思います。真剣に考えれば考えるほど怒りがこみ上げてきます」と話しました。
そして他の家族らとともに、運航会社と社長を相手取り近く損害賠償を求める訴えを起こすことを決めたとして「裁判で責任の所在を明らかにしないと息子が報われない。知床遊覧船の事故を風化させてはいけないという思いもあります。会社と社長がどれだけ安全意識が欠如していたかを知ってもらい、悲惨な事故が2度と起きないようにしたい」と話していました。

松戸市の会社員、ヌデ島優さんは(当時34)旅行が好きで事故当時も週末の休みを利用した観光で知床半島を訪れていました。
父親の仕事の関係で中学3年からオランダで過ごし、帰国後に通っていた筑波大学では鉄道の安全に関する研究に取り組み学会で賞を取ったこともありました。
病気になった祖父の看病をするために一緒に暮らしたこともあるほど家族思いで、結婚を約束した女性もいるなかで事故に巻き込まれました。
父親(67)は「昔から努力を惜しまず、年を重ねるごとに成長していました。これからもっと良い生活が待ってたはずです。かわいそうでなりません」と思いを語りました。
事故が起きた4月23日は父親の誕生日で、優さんは退職後の趣味にしてほしいと、ドローンをメッセージカードとともにプレゼントとして準備していました。
父親は事故の後にそのことを知りましたが、プレゼントを開けることはできていません。
父親は「せっかく息子が買ってくれた物なので、そろそろ開けようかなという気持ちにもなっていますが、息子がいないことがしっくり来なくてまだ前向きなことをする気持ちになれません。今後進む裁判のどこかの節目などで、開けるのかなと思っています」と話していました。
※ヌデは「木偏」に「勝」、「勝」は上の点が「八」。