女児虐待死教訓に虐待防止条例成立 千葉 野田

千葉県野田市で、2019年に当時小学4年生の女の子が虐待を受けて死亡した事件を教訓に、虐待への対応を詳細に定めた市の新たな条例が15日、市議会で可決・成立しました。

野田市では4年前の2019年に、当時小学4年生の栗原心愛さんが父親からの虐待を受けて死亡し、市や児童相談所などの情報共有や連携が不足し、重大な事態につながったと指摘されました。
これを受けて市では、通報を受けた際の初動対応や関係機関との連携の強化などを進めてきましたが、今回、市の役割を条例で明確にしようと定例市議会に条例案を提案し、15日開かれた本会議で全会一致で可決・成立しました。
条例では、虐待の通告や相談があった場合には、原則としてその日のうちに市が子どもの安全確認を行うことや、虐待を受けた児童やそのおそれがある児童については、市が関係機関と連携し情報の収集や共有を行うこと、そして、市が通告を受けたすべての虐待事案について、警察や児童相談所などの関係機関が参加する会議を毎月行って議論することなどを定めています。
事件後も野田市内では児童虐待の相談件数が1年間に400件を超える高止まりの状況が続いていて、市は、事件後に高まった虐待防止への意識を風化させず未然防止や早期対応に取り組んでいくとしています。
条例は来月に施行されます。

虐待防止条例の可決を受け、野田市の鈴木有市長は報道陣に対し、「市で強化してきた対策を条例にも細かく盛り込むことで、対策の徹底を図り、常に市民を含めた市全体で子どもたちを見守っていけるように取り組んでいきたい」と話していました。

心愛さんが死亡した事件で行政の対応を検証した県の第三者委員会のメンバーで、児童虐待に詳しい東京経営短期大学の小木曽宏教授は野田市の新たな条例について、「虐待の未然防止や早期の発見のためには、市と関係機関が何かあったときにいつでも相談ができる『顔が見える関係の構築』が不可欠だが、現場では人事異動などによって連携が途切れてしまうことがある。今回、連携の必要性が条文にも明記されたことは重要で、関係機関のなかで体制の変化があっても、条例に基づき継続して連携を図っていくことが期待できる」と評価しています。
そのうえで条例の実効性を高めていくためには市全体で条例への理解を深める必要があるとして、「今後、児童相談所や警察、学校関係者といった関係機関が参加する会議などで条例を読み解くなどして、同じ方向性で虐待防止に取り組んでいくことを改めて確認し、市民にも条例内容をしっかり周知していくべきだ」としています。

野田市は心愛さんの事件のあと、虐待への対応を担う「子ども家庭総合支援課」を新設し、それまでの担当課より職員の数を4倍以上に増やすなど対応を強化してきました。
中でも力を入れているのが「関係機関との連携」です。
事件をめぐっては、市と県の児童相談所、それに学校などの連携が不十分で家庭状況や虐待のリスクを共有できていなかったことが問題だったと指摘されました。
このため、新設した担当課は例えば学校については、職員が市内32の小中学校を定期的に訪問する取り組みを始め情報共有のしかたなどを改善しました。
今月中旬、職員が訪れた小学校では校長との面会で虐待の心配がある児童がいないかや継続して支援している児童の状況を聞き取っていました。
日頃から関係を築くことで判断に迷ったときや気になることがあった際にすぐに情報を提供してもらい、一定の方針のもとで対応にあたるねらいがあるということです。
岩木小学校の縄田浩子校長は「連携の不備が問題だった時期もありましたが、いまは市にすぐ相談できるので、学校だけで抱え込まなくてよくなりました」と話していました。
聞き取りをした職員は「ちょっとしたことでも情報のやりとりができます。虐待のリスクを判断するうえでは関係機関の間で認識のずれがあることが最も怖いことなので、それを減らせていると思います」と話していました。
野田市子ども家庭総合支援課の渡邉宏治課長は「条例によって、保護者などに対しても市の対応が示しやすくなり、関係機関との連携もさらに円滑になることを期待しています。事件を風化させないよう全力で取り組んでいきたい」と話しています。