直木賞に大阪市出身の一穂ミチさん

第171回芥川賞と直木賞の選考会が17日、東京で開かれ、直木賞に、▽大阪市出身の一穂ミチさんの「ツミデミック」が選ばれました。
一穂さんは3回目の候補での受賞です。

直木賞の受賞が決まった一穂ミチさんは大阪市出身の46歳。(1978年1月生)
関西大学を卒業後、会社員として働きながら同人誌で作品を発表し、2007年、「雪よ林檎の香のごとく」で小説家としてデビューし、男性どうしの恋愛を描くいわゆる「ボーイズラブ」をテーマとした作品を数多く発表しています。
直木賞は3回目の候補での受賞となりました。
受賞作の「ツミデミック」は、コロナ禍の日本を舞台にした6つの作品からなる短編集です。
▼にぎわいを失った夜の繁華街で客引きをする男の前に、死んだはずの同級生を名乗る女が現れる物語や、▼長年働いた飲食店を解雇された男が、ひとり暮らしの老人に財産目当てで近づこうとする物語など、パンデミックに翻弄される世界で“罪”と背中合わせに生きる人たちの心の揺らぎを繊細な文章で浮かび上がらせています。
直木賞に選ばれた一穂ミチさんは記者会見で、「選考を待つ緊張に耐えかねて、先ほどビールを飲んでしまったことを後悔している。高齢の母への冥土の土産が間に合ったと安どでいっぱいです」とユーモアたっぷりに受賞の喜びを語ったうえで「今も自分が小説家だとあまり思えないですが、普通のおばちゃんが小説を書いて大きな賞をいただける。人生はおもしろいなと思いました」と語りました。
コロナ禍を題材に描いた受賞作については、「小説を書いた当時はコロナのことが頭から離れなかった。パンデミックの中では人と人との小さい分断があちこちで起こっていて、そういった状況が自然に小説にも反映されたと思っています。リアルタイムのパンデミックでなければ生まれなかった小説でした」と話しました。
一穂さんは会見の最後に、「言いたいことはこれからも今までも紙の中に自分のことばとしてあります。物語の中でまた皆さんと出会えたら幸せです」と読者にメッセージを送りました。

【選考委員の三浦しをんさん“心情リアルに描く”】
直木賞の選考委員の三浦しをんさんは、一穂ミチさんの「ツミデミック」について、「短編集として味わいがバラエティーに富んでいて、登場人物たちのそれぞれの心情や境遇、言動がリアルに描かれていて読みやすい。コロナ禍を小説のネタとして扱っているわけではなく、大変な状況に置かれたそれぞれの人の暮らしや感情が見事に書き分けられていてすぐれている」と評価していました。