万博開幕まで13日で1年 開催意義や展示内容の発信が課題に

大阪・関西万博の開幕まで13日であと1年です。
実施主体の博覧会協会には会場建設や運営の準備を進めるとともに、全国的な関心を高めるためにも開催の意義や展示内容などを丁寧に説明していくことが求められることになります。

大阪・関西万博の開幕まで13日で1年となり、会場となる大阪の人工島・夢洲では、シンボルと位置づけられている「大屋根リング」などの建設が進められています。
一方、海外の参加国が自前で建設するタイプのパビリオンについては、50か国余りのうち十数か国は依然として建設業者が決まっておらず、協会幹部はNHKのインタビューに対し、「各国は自分たちの事情や予算の制約などを考えながら、現実を直視して決めなければいけない段階に近づきつつある」と述べています。
協会は、準備が遅れている国に対しては協会が建てる箱形の建物への移行を提案するなどしていて、開幕までに間に合わせたい考えです。
さらに、協会は、来場者やスタッフの会場へのアクセスなど、運営面の課題についても取り組みを本格化させる方針です。
万博をめぐっては、NHKが今月(4月)行った世論調査で、▽「とても関心がある」、▽「ある程度関心がある」と答えた人の割合は、あわせて31%だったの対し、▽「あまり関心がない」、▽「まったく関心がない」と答えた人の割合はあわせて63%となるなど、全国的な関心の高まりが課題となっています。
このため博覧会協会は、首都圏をはじめ全国各地で、今後、PR活動を強化していく方針ですが、協会には万博の意義そのものに加え、パビリオンでの展示内容や開催中に開かれるイベントなどについて丁寧な説明が求められることになりそうです。

【万博の経済波及効果は大阪府内1.6兆円 大阪府・市が初試算】
大阪・関西万博をめぐり、大阪府と大阪市は12日に開かれた推進本部会議で、大阪府内の万博の経済波及効果が、1兆6000億円余りに上るという試算を初めて公表しました。
大阪府と大阪市の万博の推進本部会議は、12日、大阪市役所で開かれ、本部長を務める吉村知事が「あすでいよいよ1年前となり、準備は非常に重要な時期を迎えます。それぞれの取り組みを確認して今後のラストスパートにつなげたい」とあいさつしました。
会議では、全国でおよそ2兆9000億円と見込まれるとしている経済産業省の試算をベースに府と市で改めて試算したところ、大阪府内の万博の経済波及効果は1兆6000億円余りに上ることが初めて報告されました。
具体的には▼建設投資が5732億円、▼運営・イベントが3233億円、▼来場者消費が7217億円となっていて、全国の経済波及効果のおよそ半数が大阪に集中するとしています。
また、会議では、▼機運醸成に向けて、万博開催の半年前にあたることし秋に、重点的にPRを行う期間を設けることや▼建設の遅れが表面化している海外パビリオンの建設工事が集中する時期に向けて、会場周辺の交差点の改良など、渋滞対策をはじめとした施工環境の改善などの取り組みを加速させる方針を確認しました。
12日に公表された大阪府内の万博の経済波及効果の試算について、大阪府の吉村知事は、「大阪府民や市民の税も投入する以上、どういう効果があるかを示す必要があるということで試算を出した。全国の経済波及効果のうち半分強が大阪で、府内で非常に大きな経済効果が生まれる」と述べました。
そのうえで、「この試算はあくまでベースの効果で、ここからさらに大きくすることは可能だ。万博会場の中にとどまらず、万博に訪れた人が日本各地に行きたいと思ってもらえるような仕組みづくりに取り組みたい」と述べました。

【費用とチェック体制は】
大阪・関西万博の会場建設費はこれまでに2度、上振れしています。
誘致当初の計画では、1250億円でしたが、2020年、来場者の暑さ対策や「大屋根」の設計変更などを理由に1850億円に引き上げられました。
そして、去年(2023年)、資材価格や人件費の高騰などを理由に、最大2350億円に引き上げられました。
会場建設費は▼国、▼大阪府・市、それに、▼経済界の3者が3分の1ずつ負担する仕組みになっています。
また、国については会場建設費とは別に政府が出展するパビリオンの建設費などもあります。
運営費も、人件費や会場外での雑踏対策の費用が膨らんだことなどから、当初の想定から4割余り多い1160億円にのぼるとしています。
さらに費用がかさむのではないかという懸念の声が上がるなか、政府は、費用が適正かどうか、検証や点検をするため、公認会計士や弁護士などの有識者を集めた万博の予算監視委員会を設置し、ことし1月に初会合を開きました。
また、実施主体の博覧会協会も、運営費の執行状況を管理する「運営費執行管理会議」を立ち上げ、先月(3月)、初めてとなる会議が開かれました。
予算を管理する最高財務責任者=CFOは財務省出身の副事務総長が務めることになっていて、全体の費用がさらに膨らまないよう管理を徹底することにしています。
博覧会協会で予算管理を担当する「経営企画室」は、今月(4月)からすべての部署に対して予算の執行状況や今後の見通しについて聞き取りを始めています。
例えば、来場者の輸送を担う交通局への聞き取りでは、シャトルバスの運転手をめぐり、限られた予算の中でどのように必要な人数を確保するのかが議論になりました。
全国から運転手を募集しますが、宿泊費などの経費がかかるため、できるだけ地元の運転手を確保することで経費を抑えていく方針を確認していました。
博覧会協会の岩田泰 経営企画室長は、「いくらの予算をいつ使うかということについて、まだ決まっていないものも多くある。想定外のことで予算が膨らむことがないよう、各部署の状況を把握することが大事なタイミングに来ている」と話していました。

【入場券の販売状況は】
大阪・関西万博の運営費は当初の想定より4割余り多い1160億円と見込まれていて、実施主体の博覧会協会は、このうち、およそ8割を入場券の販売収入でまかなう方針です。
博覧会協会は、2300万枚の入場券の販売を目標としていて、このうち1400万枚については前売券として販売したい考えです。
前売券の販売は去年(2023年)の11月末(30日)から始まっていて、▼ことし(2024年)10月6日までに買えば割安に購入できる「超早割一日券」や、▼開幕からおよそ3か月の間に1回入場できる「前期券」、▼開幕から2週間の間に1回入場できる「開幕券」などがあります。
協会によりますと、今月(4月)10日の時点で130万枚余りの前売券が売れたということで、このうち、およそ123万枚は「超早割一日券」が占めています。
ただ、今回の万博をめぐっては、全国的な盛り上がりをどうつくるかが協会にとっての課題となっていて、今後、展示内容などについての発信を強化する方針です。
そのうえで、博覧会協会の幹部は、海外の参加国や企業などが今後、具体的な展示内容を発表したり、パビリオンの予約が始まったりすれば、前売券の販売が伸びることに期待を示していました。
また、協会は、前売券の販売目標である1400万枚の半数にあたる700万枚を目安に経済界に購入を呼びかけています。
関西経済連合会の松本正義 会長はことし1月の記者会見で「700万枚の目標についてはほぼ達成できている」と述べ、達成できるという見通しを示していました。

【会場建設の現在地は】
開幕まであと1年となり、会場である大阪・此花区の夢洲では、建設作業が本格化しています。
このうち、会場のシンボルとなる「大屋根リング」は、▽1周およそ2キロ、▽高さは最大20メートルで、完成すれば世界最大級となる木造建築物となる予定です。
現在、全体の8割ができあがっていて、ことし9月下旬にはリングとしてつながる予定です。
民間パビリオンは13の企業やグループが出展する予定ですが、このうち12についてはすでに着工しているほか、「いのち」をテーマに8人のプロデューサーが手がける「テーマ館」はいずれも工事が始まっています。
海外パビリオンについては、▼博覧会協会が建設した建物に単独で入居する「タイプB」や▼協会が建設した建物に複数の国で入居する「タイプC」は建設が進められていて、ことし7月中旬ごろには引き渡される予定です。
一方、参加国が自前で建設する「タイプA」については、50か国余りが出展する予定ですが、建設業者が決まっているのは36か国で、このうち着工している国は14か国にとどまっています。

【来場者輸送の準備は】
大阪・関西万博では多い日で1日22万人余りの来場者が見込まれていて、夢洲にある万博会場へは、▼大阪メトロ中央線で夢洲駅に乗り入れるルートや、▼JR桜島駅からシャトルバスに乗り継ぐルートなどが主要なルートとして設定されています。
しかし、シャトルバスは、人手不足の深刻化を背景にバスの運転手確保が課題となっていて、必要とされる180人のうち、およそ100人が不足しているということです。
博覧会協会は、大阪メトロ中央線の混雑を防ぐため、シャトルバスの価格を350円に設定し、バス事業者の採算を確保するため運行費用の一部を負担することにしています。
このほか、▼自転車でも来場できるようサイクルラインを設定するほか、▼船舶を使った水上交通も具体化に向けて調整を進めています。

【ボランティア・スタッフの募集は】
博覧会協会は会場内での来場者の案内や施設の運営をサポートするボランティアを1万人、大阪府と大阪市は、主要な駅や空港で案内などを行うボランティアを1万人、募集しています。
博覧会協会によりますと、今月(4月)5日時点であわせて1万5027人の応募があるということです。
募集はいずれも今月末までで、博覧会協会などは、「万博での経験は貴重ですばらしいものがあるのでぜひ参加してもらいたい」と呼びかけています。
また、入退場ゲートでの対応や会場内の巡回などを担当する給与が支払われるスタッフの募集は、13日から始まります。
募集人数は、▽週に5日ほどフルタイムで働く「コアクルー」と▽週に1日以上働く「サポートクルー」、あわせておよそ600人で、遠方に住む「コアクルー」には宿舎も用意することになっています。

【大阪 ミナミで“フライング万博”毎月開催へ】
大阪・関西万博への盛り上がりを街ぐるみで高めていこうと、大阪・ミナミの商店街などは、飲食やアートなどのイベントを毎月、開催することになりました。
「ミナミ・フライング万博」と名付けられた催しは、大阪・ミナミの商店街などが新たに始めるもので、今月(4月)からことし10月まで飲食やアートなどのイベントを毎月、開催します。
13日から第一弾のイベントが始まるのを前に、12日は商店街の関係者などがパレードをしてイベントをPRしました。
13日から始まるイベントは、海外からの参加国・8か国を代表する食材を使った創作のたこ焼きを期間限定で販売するというもので、▼中にステーキも入れられたアメリカをイメージしたものや▼トマトソースとチーズがかけられたイタリアをイメージしたものなどが8か所の店で販売されるということです。
道頓堀商店会の上山勝也 会長は、「万博が盛り上がりに欠けるというのを耳にして、いまこそ大阪を盛り上げないといけないと思い企画した。ミナミで万博より先に『おもろい』イベントを行い、多くの人に来てもらいたい」と話していました。

【“まちごと万博”もスタート】
大阪・関西万博の開幕まで1年となるのにあわせて、大阪の魅力を街なかから発信していく取り組み「まちごと万博」が12日から始まりました。
この「まちごと万博」は、万博の情報発信を進める民間の団体「demoexpo」(デモエキスポ)や大阪商工会議所などが行う取り組みです。
ガイドブックに載っていないような▼大阪の商店街や町工場などの隠れた人気スポットや、▼地域で活躍する団体などを「まちのパビリオン」としてウェブサイト上で紹介するほか、それらの場所を巡るバスツアーなどを企画しています。
初日の12日はクリエイターなど関係者向けのツアーが行われ、2階建てのバスで大阪市内の2か所を回りました。
このうち、北区の中津商店街では、▼スパイスカレーやビリヤニ、▼アボカドを使ったおにぎりなどが飲食店から振る舞われました。
続いて移動した「アメリカ村」では、バンド演奏をしながらゴミ拾い活動をするグループとともに、実際に路上のゴミを拾う体験をしました。
東京から参加した建築士の男性は「ディープな大阪を見ておもしろかった。離れた場所にある万博会場からここまで来るきっかけをつくってもらえれば、大阪全体が万国共通で楽しめる場所になると思う」と話しました。
一般の利用客を対象にしたバスツアーも今後行われる予定です。
大阪商工会議所の鳥井信吾 会頭は「『まちごと万博』の活動が大阪万博をリードして、若者たちのムーブメントになっていくといいと思う」と話しました。

【街頭で開催中止など訴える動きも】
大阪市では、街頭で万博の開催中止などを訴える動きもありました。
この訴えを行っているグループは、10日から12日まで、大阪市役所の前で座り込みやビラ配りなどを行っていて、12日午前中は、およそ30人が参加しました。
グループは、▼万博会場の夢洲は、ゴミを焼却した灰などで埋め立てられているため危険だとしたうえで、▼大阪・関西万博の開催や夢洲で予定されているカジノを含むIR=統合型リゾート施設の建設計画を中止し、▼それらの整備費などを能登半島地震の被災地の支援につかうよう訴えています。
グループの山川義保事務局長は、「能登半島地震で多くの人が被災して苦しみ、重機や人手なども足りない状況で万博を開催する意味を行政には考えてほしい」と話していました。

【海外パビリオン建設の各国から懸念の声相次ぐ】
大阪・関西万博をめぐっては、自前でパビリオンを建設する国の一部から、建設工事や開幕後のパビリオンの運営について、懸念の声も上がっています。
実施主体の博覧会協会によりますと、およそ50か国が独自にデザインした、自前のパビリオンで展示する「タイプA」を選択しています。
こうした海外パビリオンは、会場を彩る「万博の華」とも言われますが、各国が頭を悩ませているのが建設費と予算の兼ね合いです。
ロシアのウクライナへの軍事侵攻などで世界的に物価が高騰し、資材費や輸送費にも影響が出ていることから、全体のコストを予算内に抑えるために、パビリオンのデザインや素材などを変えた国もあります。
オーストラリアの政府代表のナンシー・ゴードン氏はパビリオンの概要発表会で「万博に限ったことではなく、国際イベントで価格高騰の問題に直面している。予算内におさめるため、パビリオンの機能性を失わせることなく、慎重に変更を加えた」と話しました。
博覧会協会は、建物の組み立てや屋根・外装工事を完了させる時期の目安をことし10月中旬までと示しています。
また、開幕までに間に合うか懸念を示す国もあります。
チェコ政府代表のオンドジェイ・ソシュカ氏は3月初めに建設現場を見学した際に「チェコの建設計画は規模も大きく、およそ400日後の開幕に間に合わせるのはとても難しい状況だ。およそ50か国が同じような時期に独自のパビリオンを建てることになり、開幕までに間に合うかは博覧会協会にとっても大きな挑戦だろう」と話しました。
万博開幕後のパビリオン運営についても懸念を示す国があり、NHKの取材ではポルトガルやスイス、オーストリアは、パビリオンの日本人スタッフを確保できるか懸念を示していました。

【各国の出展に国際情勢も影響】
国際情勢も各国の出展に影響しています。
中東のイスラエルはもともとタイプAでの出展を想定していましたが、博覧会協会が準備する建物で複数の国が展示を行う「タイプC」という方式で出展すること決め、先月(3月)、日本政府に通知しました。
イスラエル大使館によりますと、イスラム組織ハマスとの戦闘によって予算や資源が国防に費やされるなか、「タイプC」に決めたということです。
さらにロシアは、去年11月にフランスで開かれたBIE=博覧会国際事務局の総会で「主催者とのコミュニケーションが十分にとれない」などとして万博に参加しないことを明らかにしました。
ロシアによるウクライナ侵攻をめぐる日本や欧米の姿勢に反発した可能性が指摘されています。
ロシアについて、日本政府は、命の大切さなどをテーマにした趣旨にそぐわず、万博参加は想定していないとの見解を示しています。