宝塚歌劇団員死亡 遺族側“劇団側がパワハラの多くを認める”

宝塚歌劇団に所属する25歳の劇団員が死亡した問題で、遺族側の弁護士は27日、記者会見を開き、遺族側が主張する上級生などからの15件のパワハラについて、歌劇団側がこのうちの多くがパワハラに該当すると認めたことを明らかにしました。
一方、合意に向けてはまだ隔たりがあり、今後も交渉を続けるとしています。

去年9月、宝塚歌劇団の宙組に所属していた25歳の劇団員が兵庫県宝塚市で死亡したことについて、歌劇団は去年、長時間の活動などで強い心理的負荷がかかっていた可能性は否定できないとする一方、いじめやパワハラは確認できなかったとする調査報告書の内容を公表しました。
これに対し、遺族側の弁護士は「パワハラが否定されたままで合意解決することはありえない」として過重労働やパワハラを認めたうえで謝罪と賠償を行うようあらためて求めていて、これまで歌劇団側の代理人と4回にわたって面談を行ってきました。
そして27日、遺族側の弁護士は都内で記者会見を開き、交渉の現状について説明しました。
遺族側は、劇団幹部や上級生からのパワハラにあたる行為が15件あったと主張していますが、弁護士によりますと、歌劇団側はことし1月24日付けの書面で、このうちの多くがパワハラに該当し、劇団員に多大な心理的負荷を与えたことを認めたということです。
ただ、歌劇団側は具体的にどの行為についてパワハラと認めるかは現時点で明らかにしていないということです。
また、合意した場合の公表のしかたなどをめぐって、歌劇団側とは現在も主張の隔たりがあるとしていて、遺族側は来月(3月)前半に5回目の面談を行うとしています。

【遺族側“15のパワハラのうち7つ ほぼ認めていると理解”】
宝塚歌劇団に所属する25歳の劇団員が死亡した問題で、遺族側の代理人弁護士は27日開いた記者会見で、「遺族側が主張している15のパワハラ行為のうち、劇団は7つの項目についてほぼ認めていると理解している。ほかの6項目については、一部認めていない部分があり、残る2つは、否定している。認識に開きがある部分には重要な社会的注目があるところもあり遺族も納得できない」と述べました。
そのうえで、弁護士は「およそハラスメントを認めたからこれでいいじゃないかというのは、遺族としてはできない。劇団側には、遺族にしっかり向き合って合意書の締結に至るように言っている」と述べました。

【遺族側が主張のパワハラ行為は】
遺族側が主張している15件のパワハラ行為は次のとおりです。
1)亡くなった劇団員が断ったにもかかわらず、上級生がヘアアイロンで髪を巻き、額にやけどを負わせた。
2)この上級生がやけどを負わせたにもかかわらず、真摯(しんし)な謝罪をしなかった。
3)上級生が髪飾りの作り直しなど、深夜に及ぶ労働を課した。
4)上級生が新人公演のダメ出しで人格否定のようなことばを浴びせた。
5)週刊誌の報道の後、上級生が亡くなった劇団員を呼び出して詰問し、過呼吸の状態に追い込んだ。
6)劇団幹部がヘアアイロンでやけどを負ったことについて「全くの事実無根」と発表した。
7)劇団幹部が睡眠時間が1日3時間程度しかとれないような極めて過酷な長時間労働を課し、過大な要求をした。
8)亡くなった劇団員が所属していた宙組の幹部が「振り写し」の復活により一層過大な要求をした。
9)宙組の幹部が「お声がけ」の復活により一層過大な要求をした。
10)演出家が怠慢や不備により、到底対応不可能な業務を課した。
11)宙組の幹部が配役表の事前開示に関し、2日連続で執ような叱責を行った。
12)宙組の幹部が「振り写し」に関し、大声で宙組の組員の前で叱責を行った。
13)宙組の幹部が「下級生の失敗はすべてあんたのせいや」などの叱責を繰り返した。
14)宙組の幹部が幹部部屋で大声で叫び、威圧的な言動を行った。
15)宙組の幹部が「お声がけ」に関し、詰問や叱責を続け、罵倒した。

【遺族側“角氏の退任が責任取ることではない”】
歌劇団を運営する阪急電鉄の親会社、「阪急阪神ホールディングス」の角和夫会長が歌劇団の理事を退任する方向で最終的な調整を進めていることについて、遺族側の代理人弁護士は27日、都内で開いた記者会見で、「角氏が歌劇団の理事を退任するという報道があるが、遺族側は知らされていない」としたうえで、「遺族側としては角氏が退任することが責任を取ることではないと考えている」と述べました。
そのうえで、「角氏がしっかり遺族に向き合い、合意書締結の場に同席し、直接、遺族に謝罪することを要求している」と述べました。

【遺族側“合意の場合の公表方法 劇団側と一致せず”】
宝塚歌劇団に所属する25歳の劇団員が死亡した問題で、遺族側の代理人弁護士は27日、都内で記者会見を開き、「2月14日の代理人間交渉で驚いたのは合意書が締結された場合の公表の方法の問題だ。劇団側は合意した内容を公表せず、劇団・阪急側の言いたいことを公表するという奇妙な考え方を提示した。つまり、劇団側としてどういう内容について謝罪したかを明らかにせず、他方で、一致していない事項については独自の見解を発表するという趣旨の発言を代理人が行った」と述べました。
そのうえで、弁護士は、「劇団側の代理人から届いた最新の書面では、それは検討中のもので、確定的なものを示したわけではないという補足説明があった。公表方法についてはそのような意見があるというもので、確定的なものを提示したわけではないと伝わってきている」と述べ、合意内容の公表のしかたについてもまだ一致できていないという見方を示しました。

【遺族側“合意に至るかは楽観していない”】
宝塚歌劇団に所属する25歳の劇団員が死亡した問題で、遺族側の代理人弁護士は27日に開いた記者会見で、「行為によっては両者の間に相当程度の見解の開きがあり、遺族側としては合意に至るかは楽観していない」と述べました。

【妹の訴え“姉の命に向き合って”】
遺族側の代理人弁護士は、宝塚歌劇団に現在も在籍する、死亡した劇団員の妹から寄せられた「訴え」を発表しました。
心境をつづった「訴え」の全文です。

私は遺族として、大切な姉のため、今、宝塚歌劇団に在団している者として思いを述べます。
いくら指導という言葉に置き換えようとしても、置き換えられない行為。
それがパワハラです。
劇団員は宝塚歌劇団が作成した【パワーハラスメントは一切行わない】という誓約書にサインしています。
それにもかかわらず、宝塚歌劇団は、日常的にパワハラをしている人が当たり前にいる世界です。
その世界に今まで在籍してきた私から見ても、姉が受けたパワハラの内容は、そんなレベルとは比べものにならない悪質で強烈に酷い行為です。
厚生労働省のパワハラの定義を見れば、姉が受けた行為は、パワハラ以外の何ものでもありません。
宝塚は治外法権の場所ではありません。
宝塚だから許されることなど一つもないのです。
劇団は今に至ってもなお、パワハラをおこなった者の言い分のみを聞き、第三者の証言を無視しているのは納得がいきません。
劇団は、生徒を守ることを大義名分のようにして、パワハラを行った者を擁護していますが、それならば、目撃したパワハラを証言してくれた方々も、姉も同じ生徒ではないのですか。
そもそも【生徒】という言葉で曖昧にしていますが、パワハラを行った者は、れっきとした社会人であり、宝塚歌劇団は一つの企業です。
企業として、公平な立場で事実に向き合うべきです。
スケジュール改革や、各種改善策に取り組んでいるような発表をしていますが、姉の死を軽視し、問題を曖昧化しているとしか思えません。
これ以上姉と私たち遺族を苦しめないでください。
姉は体調を崩している訳でも、入院している訳でもありません。
二度と帰ってきません。
姉の命の重さを何だと思っているのでしょうか。
劇団は、「誠意を持って」「真摯に」という言葉を繰り返して、世間にアピールしていますが、実際には、現在も遺族に誠意を持って対応しているとは思えません。
これ以上無駄に時間を引きのばさないでください。
大切な姉の命に向き合ってください。

【宝塚歌劇団“合意書締結に向け引き続き協議”】
宝塚歌劇団は、27日の遺族側の代理人弁護士の記者会見を受けて、ホームページにコメントを発表しました。
この中では、「現時点でコメントすることは差し控えますが、ご遺族との合意書の締結に向けて引き続き協議してまいります」としています。

【これまでの経緯】
宝塚歌劇団の宙組に所属していた25歳の劇団員は入団7年目の去年(2023年)9月、兵庫県宝塚市で死亡しているのが見つかりました。
遺族側の弁護士は記者会見を開き、長時間の業務と上級生からのハラスメントが原因だったとして、劇団に対して謝罪と賠償を求めました。
宝塚歌劇団は外部の弁護士による調査チームを設置し、宙組に所属する劇団員などから聞き取りを行うなどして調査を進めます。
そして去年11月の記者会見で、いじめやパワハラは確認できなかったとする一方、長時間の活動などで強い心理的負荷がかかっていた可能性は否定できないとする調査報告書の内容を公表しました。
会見で当時の木場理事長は「健康面などの管理をもっとすべきだった。安全配慮義務を十分に果たしていなかったと深く反省している」と述べ、去年12月1日付けで理事長を辞任しました。
これに対し、遺族側は「パワハラが否定されたままで合意解決することはありえない」として、調査報告書の問題点を指摘した意見書を歌劇団側に提出します。
去年12月の会見で、遺族側の弁護士は▼劇団員が額にヘアアイロンを押しつけられた際のやけどの痕だとする写真や、▼家族とのLINEのやり取りなどを公表し、パワハラにあたる行為はあわせて15に上るとしたうえで、歌劇団側に対し、こうした行為などを認めて謝罪と補償を行うよう改めて求めたことを明らかにしました。
こうした中、遺族側の弁護士と歌劇団側の代理人はこれまで4回にわたって面談を行い、合意による解決に向けた協議を進めてきました。
面談の中で、歌劇団側は意見書の内容を踏まえて改めて事実関係の精査などを行うとしたうえで、「ご遺族のお気持ちやお考えを真摯(しんし)に受け止め、誠実に協議してまいりたい」とするコメントを発表しました。
また、遺族側も今月(2月)1日、歌劇団側が従来の見解を変更し、「遺族側の意見に相当程度配慮した内容が述べられた」と明らかにしています。
一方、遺族側は「現時点でも歌劇団側と遺族側の見解には一致しない点が相当程度存在している」として、今後も交渉を続ける考えを示していました。

【労働基準監督署が調査】
また、この問題をめぐっては西宮労働基準監督署が去年11月以降、労働基準法に基づく歌劇団への立ち入り調査を行っています。
歌劇団によりますと、担当者が聞き取りを受けたほか、関連する資料を提出したということです。
労働基準監督署は劇団員の活動の実態などを詳しく調べ、法令違反がなかったかどうかなどについて確認を進めているものとみられます。

【公演見直しや組織風土改善の動きも】
今回の問題を受けて、宝塚歌劇団は劇団員の負担を減らすため、過密な公演スケジュールを見直すとともに、組織風土の改善に取り組むとしています。
このうち、公演スケジュールについては先月(1月)から見直しを進めていて、▽1週間あたりの公演回数を10回から9回に減らしたほか、▽ことし3月までの「新人公演」については本拠地の宝塚大劇場での実施を取りやめ、東京宝塚劇場だけで行っています。
また、宝塚大劇場で▽ことし4月に予定されていた「宝塚歌劇110周年記念式典」、▽6月に予定されていた「タカラヅカスペシャル2024」、それに、大阪城ホールで▽10月に予定されていた「宝塚歌劇110周年記念大運動会」についても中止が決まっています。
また、歌劇団を運営する阪急電鉄などは、組織風土の改善に向けて外部の専門家からなる委員会を立ち上げることを検討しています。
この中では、歌劇団の厳しい上下関係や組独自のルールのあり方などを検証し、時代に合わないものについては見直しを進める考えです。
また、歌劇団は劇団員向けの外部の相談窓口を新たに設けたほか、阪急電鉄などと連携して人事や労務面も含めたチェック体制の整備について検討を進めています。