奈良市の山間部 京都府や三重県などほかの地域のシカが進出

奈良市の山間部に、京都府や三重県などほかの地域のシカが進出していることがわかりました。
調査した研究チームは「地球温暖化などで冬を越す個体が増え、生存や繁殖のために行動範囲が広がったことが原因だと考えられる」と話しています。

観光資源になっているニホンジカについて、奈良県は国の天然記念物となっているシカが生息する奈良公園周辺などを「保護地区」、その周囲に広がる奈良市の山間部を「管理地区」などに定めて保護や管理を行っています。
近年、頭数が増えている「管理地区」のシカがどこから来たのか分析しようと、福島大学や奈良教育大学などからなる研究チームは、双方のエリアのおよそ170頭分の体の一部やふんなどを集めて、遺伝子の配列を調べました。
その結果、「管理地区」には京都府や三重県などほかの地域のシカが進出し、もともと生息していた奈良のシカとの繁殖が進んでいることも遺伝子の配列からわかったということです。
研究チームは「地球温暖化などで冬を越す個体が増え、生存や繁殖のために行動範囲が広がったことが原因だと考えられる」と話しています。
研究チームは去年1月、奈良公園周辺など「保護地区」に住むシカは、1000年以上、ほかの地域と交流せず繁殖してきたとする研究結果をまとめていて、今後、ほかの地域のシカが増え続ければ、奈良のシカ特有の遺伝子型が変化する可能性もあると指摘しています。
福島大学共生システム理工学類の兼子伸吾准教授は「ほかの地域のシカが保護地区などへも進出するようになれば、過去1000年にわたって遺伝的独自性を保ってきた奈良公園のシカの特徴が変化する可能性がある」と話しています。

【シカの生息域 なぜ広がったのか】
奈良県によりますと、県がシカの「管理地区」としている奈良市の山間部などには、20年以上前は、ほとんどシカがいませんでした。
雪に弱く、越冬できずに死亡する個体が多いニホンジカが、このエリアで数多く確認されるようになった要因としては、地球温暖化や狩猟を行う人の減少などが考えられるということです。
シカは個体数が増えると、食べ物の確保や繁殖のために長距離を移動するということで、研究チームは、「管理地区」と「保護地区」、双方のシカの生息域が広がれば、これまで保たれてきた「保護地区」に住む奈良のシカの遺伝子的な独立状態が崩れる可能性もあるとしています。
研究チームは「管理地区の内側で、保護地区に近いエリアにも外からのシカがすでにいると考えられる。これまでの研究で「奈良のシカ」を生物学的に再定義することが可能になったので、今後、管理のあり方について議論が必要になってくる」と話しています。