神戸徳洲会病院の問題 神戸市が医療法に基づく改善命令

神戸市にある「神戸徳洲会病院」で、入院中に死亡した患者に持病の薬が投与されていなかった問題などをめぐり、神戸市は20日、医療法に基づく改善命令を出しました。
この病院は別の入院患者が死亡したことをめぐり、去年、行政指導を受けていますが、神戸市は早急な改善が必要だとしてより重い措置に踏み切りました。

神戸市垂水区の「神戸徳洲会病院」では去年、カテーテルの治療などを受けた複数の患者が死亡し、神戸市は去年8月、安全管理体制に問題があるとして改善を求める行政指導を行いました。
しかし、その翌月に死亡した70代の入院患者について持病である糖尿病の薬の投与が一時、行われず、事後の検証も不十分だったことなどが市の調査で明らかになりました。
神戸市は、病院の安全管理体制には重大な不備があり、早急な改善が必要だとして20日、医療法に基づく改善命令を出しました。
改善命令では、安全管理体制の抜本的な見直しを行うための具体的な計画を、来月(3月)5日までに提出するよう求めています。
行政指導よりも重い措置で、従わなかった場合病院の業務停止を命じることもあるということです。
会見した神戸市保健所医務薬務課の八木実 課長は、「組織としてのガバナンスが全く機能していない。市民の命を守る立場として見過ごせない問題だ」と厳しく指摘しました。
神戸徳洲会病院は、「内容を真摯(しんし)に受け止めて適正に対処していきます。まず改善に向けた計画の作成にあたっていきます」とコメントしています。

【これまでの経緯と 市の判断】
<告発と行政指導>
「神戸徳洲会病院」をめぐっては、去年、循環器内科の医師によるカテーテルの治療や検査を受けた複数の患者が死亡し、去年6月、病院の安全管理の不備などを指摘する告発文が神戸市に届きました。
神戸市は翌7月、3回にわたって病院への立ち入り検査を行い、▼患者が死亡した事例について検証が不十分なほか、▼治療体制や、▼患者・家族への説明、▼それにカルテの記載などにも問題があったとして、8月28日に行政指導を行いました。
▼死因が明らかでない死亡例が起きた場合、速やかに院内の医療安全対策委員会で検証することや、▼死因などについて家族に十分に説明することなどを求め、今年度末をめどに医療安全管理体制の改善を終えるよう指導しました。
<新たな事例>
市はその後、「是正計画書」の提出を受け改善状況を確認してきましたが、去年11月に立ち入り検査を行ったところ、新型コロナウイルスに感染した70代の入院患者が去年9月に死亡する事例が起きていました。
詳しく調べたところ、主治医である院長が糖尿病の持病があるというカルテの記載を見落として、亡くなる日までインシュリンの投与などを行っていなかったことが分かりました。
病院は対応を検証する院内の医療安全対策委員会を開いたものの、死亡から1か月以上たっても結論を出していませんでした。
市は「いわば途中で放置したような形だった」として重く受け止めています。
また、遺族には当初、「死因は肺炎」と説明していましたが、立ち入り検査のあとは「血糖値のコントロールができていなかったことも死因の可能性がある」と説明を変えていました。
さらに、▼去年10月、気管支鏡を使った処置のあと患者が死亡した事例について、院内の委員会で検証していなかったことや、▼90代の患者に投与していた薬剤が切れたあと追加されず、その後、死亡した事例があったこと、▼このほか、カルテの記載が不十分な例が複数あったことが分かりました。
<市の判断>
こうした問題が相次いでいることについて、市は、特定の医師や部門の問題ではなく病院全体の安全管理体制が機能していないと受け止めています。
行政指導では、今年度末までに是正するよう求めましたが、市は「このまま期限を待っていたら新たな事故が起きてしまう」という強い危機感をもって、行政指導よりさらに重い、県内初の「医療法に基づく改善命令」に踏み切りました。
命令に従わない場合、業務停止を命じる可能性もあるということです。

(神戸徳洲会病院をめぐる動き)
▼去年6月 神戸市に告発文届く
▼7月 3回の立ち入り検査 
▼8月 行政指導
▼9月 糖尿病が持病の患者死亡
▼11月〜 立ち入り検査で状況確認
▼ことし2月20日 改善命令

【専門家“重く受け止めを”】
神戸市が改善命令を出したことについて、医療安全に詳しい名古屋大学医学部の長尾能雅 教授は、「神戸市が新たな問題を見つけ出し改善命令に踏み切った対応は適切で評価できる。病院側は重く受け止めなければならない」と指摘しています。
これまでの病院の対応については、「患者が亡くなってから1か月ほど結論が出なかったのならばややスピードが遅く、国の医療事故調査制度の対象とするかどうか迅速に判断できる仕組みが病院内にないのではないかと思われる。地域に密着して緊急の診療なども引き受ける病院こそ、非常に高い水準の安全確保体制が求められ、病院は今まさに、安全管理のガバナンスすべてを点検し、改善する機会なのではないか」と述べました。
今後、求められる対応については、「患者の安全確保が最優先課題だと全職員が深く認識し、一丸となって行動する必要がある。長期戦になると思われるが、再発防止のため、手順の明確化や教育、実行できているかどうかの確認など必要な体制作りに本腰を入れてもらいたい」と指摘しています。