内定企業が保護者の意向確認 就活で広がる“オヤカク”

大手就職情報サイトが、この春、就職する予定の大学生などの保護者を対象に調査を行ったところ、子どもの内定企業から保護者の意向を確認する「オヤカク」の連絡を受けたのはおよそ半数に上ることがわかりました。
学生有利の売手市場の中、企業が学生の内定辞退を防ぐために「オヤカク」が広がっているとみられます。

就職情報大手「マイナビ」は、この春、就職する予定の大学生や大学院生などの保護者851人を対象に、子どもの内定企業から連絡がきたことがあるか先月(1月)、調査を行いました。
この中で保護者の意向を確認する「オヤカク」の連絡を受けたと回答したのは52.4%に上り、6年前の調査の17.7%から大幅に増えたということです。
このほか、「内定式や入社式への招待」が17.3%、「保護者向けの資料の送付」が8.6%でした。
また、今年度の内定者を対象にした別の調査で、内定先を決める際の相談相手を尋ねたところ、▽「父親や母親」が61.9%と最も多く、次いで、▽「学校内の友人」が23.9%となっています。
マイナビによりますと、学生有利の売手市場で各企業が人材獲得を進める中、保護者の意向を確認することで内定辞退や早期退職を防ごうとする動きが広がっているとみられるということです。
マイナビは「『オヤカク』は企業が学生から選んでもらうための手だての一つで、『最も身近な社会人』として親を選んでいることに着目して、確認をする企業が増えているのではないか」と分析しています。

【さまざまな意見】
「オヤカク」について、就職活動中の学生や保護者の世代からはさまざまな意見が聞かれました。
23歳の大学院生は、内定した企業から「親に連絡してほしい」と言われたことがあるということです。
これについて大学院生は「企業側の意図がわからなかったので、少し戸惑いました。親に確認はとりましたが、自分が何をしたいのかを考えて就職活動をしていたので、親の意向はあまり関係ないと思っていました」と話していました。
京都府宇治市の女子大学生は「自分ひとりの考えよりも親に相談して意見を聞いたほうがいいかなと思います」と話しています。
また、大阪・吹田市に住む50代の母親は「大学を卒業して社会に出るときなので、就職については自分で決めて自立してほしいです」と話し、高校3年生の娘は「最終的には自分で決めますが、助けてくれると思うので、親には相談します」と話していました。

【保護者向け説明会も】
企業の保護者へのアプローチは「オヤカク」だけでなく、内定者の保護者向けの説明会も行われています。
大阪・北区のIT企業「アシスト」は、去年12月に保護者を招いた説明会を初めて開き、内定者5人が参加しました。
就職について、学生が保護者の意見を重視する傾向にあることなどから、保護者とともに職場を見てもらい会社への理解を深めてもらうのがねらいです。
説明会では、西日本支社の支社長が「実際の会社の様子を見て安心していただきたい」とあいさつし、▽仕事の内容や▽会社の業績などを説明しました。
また、説明会は、多くの社員が社内にいる平日の夕方に行い、実際に働いている様子も見学しました。
参加した保護者は、「息子が働く職場の雰囲気が気になったので来ました。息子が会社の人と話す様子も見ることができ、安心できました」と話していました。
また、内定者は「恥ずかしさもありましたが、どんな会社か知ってもらえてよかったです。内定先の中から就職先を選ぶときも母の意見を参考にしました」と話していました。
説明会を企画した石井雄輔さんは、「仕事の内容が保護者に伝わりづらいところもあるので知る機会を作ることが大切だと思いました。実際に来てもらうことで雰囲気の良さも伝えることができて良かったです」と話していました。

【保護者向けパンフも】
企業の採用活動の支援などを行うコンサルタント会社には、保護者に向けた会社案内のパンフレットの作成依頼が相次いでいます。
9年前に初めて作ってから継続的に依頼がきていて、これまでに25社のパンフレットを作りました。
ことしもすでに5社から依頼がきていて、企業からの相談も増えているということです。
事業の性質上、仕事の内容が個人にあまり知られていないIT企業などからの依頼が多いということです。
企業向けのソフトウェアの開発などを行うIT企業のパンフレットには、社長から保護者に向けたメッセージが記載されています。
メッセージには「不況を乗り越える自信があるので安心してほしい」とか「社員たちは宝であり誇りです」などと書かれています。
パンフレットを製作した「カケハシスカイソリューションズ」の手島麻帆さんは「内定の辞退を防ぎたいという企業が増えていて、保護者に向けて働きかけをしたいという依頼が続いています」と話していました。

【研究員“今後も増えるか”】
就職活動の傾向などを調査する「マイナビキャリアリサーチラボ」の長谷川洋介 研究員は「子どもが内定を得た企業を自分が知らないとか、経営的に問題がないかとか不安を覚える保護者は一定数いるため、企業としては、保護者が賛成することで子どもの入社意欲につながるとみている。大学生の人数も減少し、去年の就職活動から本格的な売手市場となっていて企業間の獲得競争が激化しているため、『オヤカク』に取り組む企業は増えていくのではないか」と話しています。
また、就職先の相談を親にする子どもが多いことについては「親子関係がよりフランクになって、相談しやすい仲のよい親子が増えたと考えられる。親の影響を考慮して内定を辞退することは少ないとは思うが、子どもが自主的に就職活動をするのが理想だと思う」と話しています。