ダイハツ 認証取得で新たに174件の不正 全車種の出荷停止

自動車メーカーの「ダイハツ工業」は、国の認証取得の不正問題で新たに174件の不正が見つかったと発表し、国内外のすべての車種で出荷の停止を決めました。
一連の不正について、奥平総一郎社長は記者会見で「お客様の信頼を裏切ることとなり、おわび申し上げます」と述べて陳謝しました。

ダイハツ工業では、ことし4月、海外向けの乗用車の衝突試験で不正が発覚し、その後、国内向けの車種でも国の認証を不正に取得していたことが明らかになっています。
会社は、20日、第三者委員会によるその後の調査で、新たに25の試験項目で174件の不正が見つかったことを公表しました。
衝突試験のほかに排ガスや燃費の試験なども含まれ、不正は1989年から行われていたことが確認されたということです。
すでに生産を終了したものも含めて64車種にのぼっています。
この中には、他社ブランドで販売される車として▼トヨタ自動車の22車種、▼SUBARUの9車種、▼マツダの2車種が含まれています。
ダイハツは20日、国内外のすべての車種で出荷の停止を決めました。
「ダイハツ工業」の奥平社長は、記者会見で「お客様をはじめステークホルダーの皆様に大変なご迷惑、ご心配をおかけし心よりおわび申し上げます。お客様の信頼を裏切ることとなり、重ねておわび申し上げます」と述べて陳謝しました。

【ダイハツ出荷停止の影響は】
大阪・池田市に本社を置くダイハツ工業は、軽自動車や小型車に強みを持つ自動車メーカーでトヨタ自動車の完全子会社です。
国内には、大阪・池田市の本社工場、滋賀県竜王町にある滋賀工場、京都府大山崎町にある京都工場、子会社の「ダイハツ九州」の大分県中津市にある大分工場のあわせて4つの工場があります。
全国軽自動車協会連合会によりますと、昨年度(2022年度)のダイハツの軽自動車の国内販売は、国内トップとなる56万5000台余りで、シェアはおよそ33%を占めています。
全面的な出荷の停止が長期化した場合、軽自動車の供給が滞ることに加え、地域経済への影響も懸念されます。

【従業員は】
「ダイハツ工業」の大阪・池田市にある本社工場で働く従業員は「ニュースで最初に知ったのでまだ実感がわきません。会社からは詳しい説明はありませんが、これをきっかけに『うみ』を出して少しでも風通しが良くなってほしいです」と話していました。
また、別の従業員は「会社からの詳しい説明があす行われると聞きました。出荷停止になるので、それ以降の対応がどうなるのか不安です。不正は、現場では気づけなかったと思います」と話していました。
京都府大山崎町にあるダイハツ工業の京都工場でも従業員に動揺が広がっています。
20歳の従業員の男性が取材に応じ、「不正があったと以前ニュースで知ったが、こんなに大ごとになってくるとは思わなかった。きょうの会社の会見も見たが、これからどうなるか分からず不安だ。出荷停止にはなるが、休みになるとはまだ言われていないので、あしたからも変わらず今までどおり出勤します」と話していました。
また、別の従業員の男性は「分からないことが多いので、早く調査を進めて真実を明らかにしてほしい」と話し、足早に工場を後にしました。

【第三者委の委員長が会見 “認証試験を軽視”】
ダイハツ工業の一連の不正について、第三者委員会の委員長を務める貝阿彌誠 弁護士は、記者会見で「不正が発生した大きな原因は過度にタイトで硬直的な開発スケジュールのなかで車両の開発が行われ、『認証試験は合格して当たり前』という強烈なプレッシャーがあったことだ。認証試験を軽視していたと言わざるをえない。まずもって責められるべきは現場の従業員ではなく経営幹部であると考える」と述べました。
【第三者委員会の指摘内容】
第三者委員会の調査では、新たに25の試験項目で174件の不正が見つかりました。
調査報告書によりますと、新たに見つかった不正は、衝突試験のほかに排ガスや燃費の試験なども含まれ、装置の不正な加工や交換、速度の改ざんなどがあったとしています。
<具体的な事例>
▼エアバッグについて衝突試験では、本来、衝突をセンサーで検知し、エアバッグを作動させる必要があるにもかかわらず、タイマーによって作動させていた事例がありました。
▼衝突時の衝撃試験では、運転席側のかわりに助手席側の試験結果を使用していた事例がありました。
<原因・背景>
報告書のなかでは、一連の不正の原因に経営の問題があると指摘しています。
▼短期間の開発が会社の存在意義として根づき、過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによって現場が極度のプレッシャーを受け、「認証試験は合格して当たり前」という環境にあったこと。
▼現場任せで管理職が関与しない態勢で職場環境がブラックボックス化し、チェック体制が構築されていなかったこと。
▼過去から踏襲されたグレーな方法として漫然と現場で繰り返されていた不正行為があり、「技術的には問題なければ法規上も問題ないはず」というような法規適合性について正確な知識や理解が不十分であること。
▼開発日程に余裕がないなかで認証試験を軽視し、不正確な情報を記載してはならないというごく当たり前の感覚を失うほどコンプライアンス意識が希薄化していたなどと指摘しています。
こうした現場の実情を管理職や経営幹部が把握できなかった背景には、▼現場の実務や状況に管理職が精通しておらず、現場サイドから報告や相談ができない現場任せの対応になっていたこと。
▼開発や認証のプロセスにおけるチェック体制が構築されておらず、モニタリングに問題があったことなどが指摘されています。
こうしたことから、短期開発の強烈なプレッシャーのなかで追い込まれた従業員が不正行為に及んだもので、今回の問題でまず責められるべきはダイハツの経営幹部だとしています。
そのうえで、低コストで良質な自動車を提供するために短期開発を会社らしさと捉える経営方針のなかで、組織内のゆがみや弊害を察知する経営幹部のリスク感度が鈍かったといわざるをえないとしています。
また、従業員へのヒアリングやアンケート調査で、何か失敗があった場合には激しい叱責や非難があったというケースも確認されたとしています。
「自分さえよければよく、他人がどうであってもかまわない」といった自己中心的な組織風土自体が社風として深く根づいた可能性があるとしています。
<再発防止策>
第三者委員会は提言をまとめ、▼経営幹部が全従業員に対し、深い反省と出直しの決意を表明すべきだとしています。
そのうえで、不正行為の原因の1つとしてあげられている過度にタイトで硬直的な開発スケジュールについては、▼余裕をもった柔軟に変更できるスケジュールが実現できるように開発・認証プロセスを見直すべきだとしています。
また、今回、不正が行われた多くの試験項目は、1つの部署が担当していたことから、▼相互のけん制が機能する組織の再構築が必要だとし、国への認証の申請にあたっては▼当局に提出する認証申請書類の正確性を担保するチェック体制の構築が必須だとしています。
さらに、従業員の法規の理解が不十分だったことも不正行為の発生の背景にあるとして、▼教育研修の強化に本気で取り組むことや、▼管理職が現場に赴き、従業員との面談の機会をつくり、コミュニケーションを促進させることが必要だとしています。
また、開発部門の組織風土の問題として自己中心的な風潮があると指摘したうえで、全社的な視点をもつ従業員を育成するためにも▼部門をまたぐ人事ローテーションを前向きに検討すべきとしています。