大阪府・市 自転車通行帯の9割 国の指針の形態で整備できず

自転車と車の事故が全国で最も多い大阪。
大阪府や市は、安全を確保するため自転車通行帯の整備を進めていますが、その9割以上が国のガイドラインに定められた形態での整備ができていないことが府などへの取材でわかりました。
本来は、車と自転車を分ける「自転車専用通行帯」の整備が求められる道路ですが、車なども通行できる通行帯となっていて、専門家は「整備が難しい中でも安心して自転車を利用できる環境作りを考える必要がある」と指摘しています。

道路交通法で自転車は原則、車道を走ることが定められていて、国土交通省と警察庁は、交通状況など踏まえて車道に整備する「自転車通行帯」の目安をガイドラインで示しています。
通行帯は一日の車の交通量や制限速度によって▼車道と完全に分離した「自転車道」▼自転車だけが通れる部分を色分けした「自転車専用通行帯」そして▼「車道混在型」の3種類に分けられています。
このうち「車道混在型」は、車道の端に矢羽根などで自転車が走る方向が示されているもので、▽制限速度が40キロ以下で、▽一日の車の交通量が4000台以下の比較的交通量が少ない道路に整備することとしていて、車やバイクもこの上を通行できます。
大阪府は、およそ119キロにわたって、この「車道混在型」の形態で通行帯を整備していますが、その9割以上にあたるおよそ114キロが国のガイドラインに定められた形態での整備ができていないことが府への取材でわかりました。
これらの道路は制限速度が50キロなど、本来は、車やバイクの走行が禁止される「自転車専用通行帯」の整備が求められる道路だということです。
また、大阪市もおよそ21キロにわたって「車道混在型」を整備していますが、国のガイドラインに定められた形態での整備ができていないということです。
国のガイドラインの策定に携わる大阪公立大学大学院の吉田長裕准教授は「車線を減らしたり電柱をなくしたりして道路の幅を確保するなど、具体的な整備方法が自治体の間で共有されていないのが全国的な課題だ。整備が難しい中でも安心して自転車を利用できる環境作りを考える必要がある」と話しています。

【自転車通行帯とは】
自転車が走ることができる「自転車通行帯」は3種類あります。
国土交通省と警察庁が平成28年に策定したガイドラインで、車の制限速度などを目安に整備すべき通行帯の種類が定められているのです。
まず、▽「自転車道」は、自転車が走る道路と車道を縁石などで構造的に分離したものです。
幅は2メートル以上あり、車の制限速度が60キロ以上の道路に整備されます。
次に▽「自転車専用通行帯」は、車道上に青い塗装などで自転車が走る部分が表示されているものです。
幅は原則、1.5メートル以上あり、車の制限速度が50キロ、もしくは、一日の車の交通量が4000台を超える道路に整備されます。
そして、▽「車道混在型」は、自転車の通行位置と方向を矢羽根型の表示などで示しているものです。
車の制限速度が40キロ以下で、一日の車の交通量が4000台以下の道路に整備されます。
表示の幅は75センチ以上で、3つの形態の中では車との距離が最も近くなります。
道路交通法で、「自転車道」と「自転車専用通行帯」の上は、車やバイクの通行が規制されていますが、「車道混在型」の上は車やバイクも通行することができます。
ただし、都市部など十分な車道の幅が確保できず、目安に従った整備が難しい場合は「暫定」として整備しやすい通行帯を設置したうえで、再整備するように求めています。

【車道混在で死亡事故】
大阪府内の「車道混在型」の通行帯では死亡事故も起きています。
警察などによりますと、去年3月、大阪の南部にある忠岡町の府道で通行帯の上を自転車で走っていた72歳の男性が、後ろからきた車にはねられて死亡しました。
この道路は、制限速度が50キロで、ガイドラインでは車道に自転車だけが通れる部分を色分けし、車やバイクが走ることができない「自転車専用通行帯」の整備が求められていました。
しかし、実際には車やバイクが走ることができる「車道混在型」となっていました。
車の左側のドアミラーが自転車に乗っていた男性の右腕にぶつかって転倒し、さらに、後ろから来た別の車にはねられたということです。
最初にぶつかった車の運転手は過失運転致死の罪に問われ、大阪地方裁判所岸和田支部は、ことし1月、執行猶予のついた判決を言い渡しました。

【混在型整備進める大阪府は】
自転車の安全性の研究などを行う「自転車産業振興協会」が、2021年に全国の2万世帯を対象に行った調査によりますと、1世帯あたりの自転車保有台数は▼大阪府がおよそ1.3台、▼高知県と埼玉県がおよそ1.2台、▼滋賀県と富山県がおよそ1.1台で大阪府が全国で最も多くなっています。
また、警察庁によりますと、自転車と車の事故は大阪府では、去年1年間に7038件と全国で最も多く、過去5年間でも毎年、最多となっています。
大阪府は事故を減らそうと自転車通行帯の整備を進めていますが、道路の幅が確保できないため国のガイドラインどおりの整備を進めることができていないとしています。
ガイドラインでは、「自転車専用通行帯」は、道路の端に原則、1.5メートル以上を確保することとしていますが、昔からある道路では通行帯の整備を想定していなかったため道幅に余裕がなく、「車道混在型」にせざるをえないということです。
大阪府では2025年度までの10年間でおよそ200キロ整備する計画ですが、すでに整備できた119キロは車道混在型になっているうえ、残りのおよそ80キロもほとんどがガイドラインどおりの整備にはならないということです。
将来的には、土地の買収や車線を縮小することなどを検討していますが、それでも「自転車専用通行帯」の整備には時間がかかる見通しです。
府の担当者は、「大阪は住宅が密集していたり、工場が建ち並んでいたりして、簡単に計画を進めることができない。道幅を確保するため土地の買収や車線の縮小などを検討しているが、一部が確保できたとしても連続した距離で確保し続けるのが難しい。用地買収には地権者の協力が必要で時間を要するので、事故を減らすためにはまずは車道混在型の整備を進めている」と話していました。