宝塚歌劇団 劇団員死亡で会見 “長時間活動や指導 負荷も”

ことし9月、宝塚歌劇団に所属する25歳の劇団員が死亡したことについて、歌劇団は記者会見を開いて外部の弁護士による調査チームの報告書を公表し、いじめやハラスメントは確認できなかった一方、長時間の活動や上級生からの指導で強い心理的負荷がかかっていた可能性は否定できないとする内容を明らかにしました。
劇団の理事長は来月(12月)辞任する意向です。

宝塚歌劇団の宙組に所属していた25歳の劇団員は、入団7年目のことし9月、兵庫県宝塚市で死亡しているのが見つかり、自殺とみられています。
これを受けて、宝塚歌劇団は先月(10月)、外部の弁護士による調査チームを設置し、宙組に所属する劇団員ら60人以上から聞き取りを行うなどして調査を進め、14日、宝塚市内のホテルで記者会見を開いて報告書の内容を公表しました。
木場健之理事長は会見の冒頭で「ご遺族に謹んで哀悼の意を表するとともに大切なご家族を守れなかったことを深くおわびします。ご遺族には誠心誠意対応していきます」と述べました。
報告書では、調査の結果、亡くなった劇団員に対するいじめやハラスメントは確認できなかったとしています。
一方、稽古や新人公演のまとめ役としての役割を担う中で長時間にわたる活動があった上、上級生からの指導もあり、強い心理的負荷がかかっていた可能性は否定できないとしています。
その上で「今変わらなければ、宝塚歌劇が永続する道はないとの危機感をもち、原点に立ち返り、一時的ではなく継続的に、真摯(しんし)に劇団員・スタッフの声に耳を傾け、一つ一つ的確な改善策を地道に講じていくべきである」と指摘しています。
会見で木場理事長は「安全配慮義務を十分に果たしていなかったと深く反省している。ともに歩んできた仲間を守れず、組織の長としての責任を重く受け止めている」として、来月1日で理事長を辞任する意向を明らかにしました。
また、歌劇団は今後の対応について、劇団員の負担を減らすため▼スケジュールの改善を図るとともに、▼劇団専用の外部通報窓口を新たに設置したり▼常設のカウンセリングルームを拡充したりして再発防止の対策を進めるとしています。

【報告書のハラスメントの認定は】
調査チームの報告書は、亡くなった劇団員に対するいじめやハラスメントは確認できなかったとしています。
<ヘアアイロン>
遺族側は、亡くなった劇団員が上級生からヘアアイロンを額にあてられてやけどをするといういじめを受けたと主張し、これについて、歌劇団が「事実無根」と発表したことで体調を崩したとしています。
報告書では、上級生が劇団員をいじめていたとは認定できないとしました。
この件については、ことし2月に週刊文春に報道され、その後、宙組のプロデューサーによる聞き取りが行われました。
報告書では、聞き取りに対して上級生は「髪型のセットのアドバイスをしていた際、額にアイロンが当たってしまったが、故意ではない」などと答え、亡くなった劇団員も同じ趣旨の話をしていたとしています。
<上級生からの暴言>
また、上級生から「うそつき野郎」などと暴言を受けていたという遺族側の主張について、報告書は、こうした発言があったとは認定できないとしました。
上級生が劇団員に対してうそをついていないか何度か聞いていたことは認められたものの、発言をはっきり聞いた人はいなかったとしています。
報告書では、上級生の指導が厳しくなったのはやむをえず、全体としてみれば、指導のあり方や手段などが相当性を欠くものとは断言できないとしています。
<その他ハラスメント>
このほか、劇団員へのヒアリングでは、亡くなった劇団員が参加しているLINEグループなどでもいじめやハラスメントに該当するやりとりは見当たらなかったとしています。

【報告書 “心理的負荷”の根拠は】
調査チームの報告書では、亡くなった劇団員は長時間にわたる活動などで強い心理的負荷がかかっていた可能性が否定できないと指摘しています。
<切迫感と重圧あった>
報告書によりますと、亡くなった劇団員が所属していた宙組はことし8月16日から9月29日までの1か月半の間、休日とされた6日間を除き、すべての日に公式の稽古や公演などがありました。
公式の稽古は午後1時から10時までの時間帯に行われることが多く、劇団員たちはその前後の時間に自主稽古をしたり、帰宅した後や休日にもかつらやアクセサリーの制作などを行っていたということです。
加えて、亡くなった劇団員は新人公演の出演者のまとめ役も担っていて、下級生を代表して上級生とやりとりしたり、劇団との間で必要な調整を行ったりもしていました。
報告書では、こうした過密なスケジュールの中、まとめ役としてそれぞれを本番までに仕上げる切迫感と重圧があったと認められるとしています。
また、調査チームによる聞き取りの結果では、亡くなった劇団員はことし3月から6月の公演のあと退団することを検討していたものの、同期生や劇団のプロデューサーから引き止められていたといいます。
しかし、その後、同期生2人が8月に退団することが決まり、宙組の同期生は9月の時点で実質的に本人を含む2人のみとなっていました。
こうした状況から、報告書では「あのとき辞めておけばこのようなつらい思いはしなかったのではないかという精神状況が負担増加の一因となったことが推測できる」としています。
そのうえで、まとめ役としての活動や長時間にわたる活動は1か月余りにわたって続き、そこに上級生の指導も重なったことで、強い心理的負荷がかかっていた可能性が否定できないと結論づけています。
<遺族側の主張と隔たりも>
一方、亡くなった劇団員の労働時間の捉え方については、遺族側の主張とは異なっていました。
遺族側は、亡くなるまでの1か月間、睡眠時間は午前3時から6時ごろまでのおよそ3時間という状況が続き、時間外労働は277時間に達したと主張しています。
これに対し、報告書では「それほど長時間の活動が毎日行われたとまでは認められなかった」とした上で、公演や関連する活動に費やした時間を労働時間とした場合、1か月間の時間外労働は118時間以上と試算しています。

【遺族側“納得できず”】
宝塚歌劇団に所属する25歳の劇団員が死亡したことについて遺族側の弁護士が記者会見を開き「労働時間の認定は実態よりも過少でパワハラを否定したことも納得できない」と述べ、今後、劇団側に事実関係を検証し直すよう求める意見書を提出する考えを明らかにしました。
宝塚歌劇団の宙組に所属していた25歳の劇団員が死亡したことについて、14日、歌劇団側が記者会見を行ったことを受け、遺族側の弁護士が厚生労働省で会見を開きました。
この中で弁護士は、劇団側の調査チームによる報告書で亡くなる前の1か月間で118時間以上の時間外労働があったことを認めたことは、死亡が業務に起因することを示唆したものだとして評価したうえで、実態の残業時間は277時間に達していて過少な評価だと指摘しました。
また、上級生からヘアアイロンを押しつけられるなどのパワハラがあったかどうかについては「亡くなった劇団員は生前、自ら髪を巻こうとしていたのを上級生が『髪を巻く』と言い、やけどが発生したと話している。また、遺族に送った『まえがみにまかれてやけどさされた』などというメッセージも報告書に引用されておらず、劇団と上級生の責任を否定する方向に誘導している」と主張しました。
そのうえで、事実認定も評価も問題が極めて多く、パワハラを否定したことは納得できないとして、今後、劇団側に事実関係を検証し直すよう求める意見書を提出をするとともに謝罪と補償を求めて今月末までに面談による交渉を行う考えを明らかにしました。
弁護士によりますと、劇団側の会見について遺族は「加重な労働があって、劇団から謝罪があったことはこれまでに比べれば大きな前進であるがハラスメントについてここまで否定されて、納得できない」と話しているということです。

【地元の人は】
宝塚歌劇団の記者会見を受けて、地元の兵庫県宝塚市で聞きました。
40代の女性は「プロの世界なので、多かれ少なかれ大変なことはあると思いますが、今回の件は誰かが助けてあげることができなかったのかなと感じます。時間はかかると思いますが、いい形で未来に向かって進んでほしい」と話していました。
80代の男性は「歌劇の世界は大変だと思いますが、今回のような悲しいことは二度と起きないようにして、復活してほしい」と話していました。
また、60代の女性は「今回、どれくらいの調査をして結論を出したのかなと思うところはあります。歌劇なくしてこの宝塚はありえないので、なんとしてもうみを出し切って再スタートを切ってほしいです」と話していました。

【メディア論が専門の大学教授“聖域化された存在”】
メディア論が専門で、エンターテインメントに詳しい同志社女子大学の影山貴彦 教授は「エンターテインメントの世界の中でも宝塚歌劇団は特別で、聖域化された存在だったのではないか。そのイメージが劇団側のおごりにつながり、時代錯誤な厳しい上下関係や、長時間労働につながっていたのではないか」と指摘しています。
そのうえで、「今回の記者会見で本当にすべての問題を出し切ったのかと問いたい。たとえファンがショックを受けることであっても引き続き事実関係や課題を明らかにし、信頼の回復につなげていってほしい」と話していました。

【これまでの経緯】
宝塚歌劇団に所属する25歳の劇団員はことし9月30日、兵庫県宝塚市の自宅マンションの敷地内で死亡しているのが見つかりました。
入団して7年目のことでした。
その2日後、歌劇団は、複数の出演者が体調不良を訴えているとして、劇団員が所属していた宙組の公演を10月8日まで中止すると発表。
さらに、10月7日には中止の期間を延長するとしたうえで、外部の弁護士からなる調査チームを設置し、宙組に所属する劇団員ら60人以上から聞き取りを行うなどして、詳しい経緯や背景を調査することを明らかにしました。
この影響で、宙組の兵庫県内の公演は年内に予定されていたすべての日程が中止となったほか、別の組についても歌劇団は「生徒の心身のコンディションを最優先する」として、今月(11月)23日まで公演を取りやめると発表しています。
一方、亡くなった劇団員をめぐっては、「週刊文春」がことし(2023年)2月、宙組の先輩からヘアアイロンを押しつけられるなどのいじめを受けていたとする記事を掲載しました。
これについて、宝塚歌劇団は先月(10月)、NHKの取材に対し、劇団員の額にヘアアイロンがあたったことは認めたうえで「内部調査を行ったが、上級生から下級生に髪型などをアドバイスすることはよくあることで、その際に誤ってあたったと当事者から聞いている。押しつけたという事実はない」とコメントしていました。

【遺族側“過労とパワハラ”】
遺族側は、劇団員が死亡したのは、長時間の業務と上級生からのパワハラが原因だったとして、宝塚歌劇団に対し謝罪と賠償を求めています。
代理人の弁護士によりますと、劇団員は入団7年目で、5年目までは1年ごとの有期雇用契約、去年(2022年)4月以降は業務委託契約を結んでいたということです。
5つある組のうち宙組に所属し、今年度からは新人公演の出演者のまとめ役を担っていました。
入団当初、宙組には8人の同期生がいましたが、退団などで2人まで減り、亡くなった劇団員には大きな負担がかかっていたといいます。
新人公演に向けた稽古や、40人余りの下級生の指導に加え、演出家の補佐や役柄の配置の決定といった業務まで担っていたということです。
遺族側はその結果、劇団員は、ことし8月16日から亡くなる前日にあたる9月29日までの間、休日も公演の準備などにあて、1か月余りにわたる連続勤務になっていたとしています。
また、日々の稽古は、下級生のみの稽古も含めて午前9時ごろから翌日の午前0時ごろまで行われていて、劇団員は帰宅した後もシナリオの作成などを行っていたため、睡眠時間は午前3時から6時ごろまでのおよそ3時間という状況が続いていたということです。
こうした中、遺族側は亡くなるまでの1か月間の総労働時間は437時間、残業時間は277時間に達していたとして、労災の認定基準を超えていたことは明らかだと主張しています。
また、代理人の弁護士によりますと、亡くなった劇団員は上級生からヘアアイロンを額にあてられてやけどを負ったり、稽古中に頻繁に呼び出され「下級生の失敗は全てあんたのせいや」「マインドが足りない。マインドがないのか」「うそつき野郎」といった暴言を受けたりしていたということで、こうした行為が、職場におけるパワハラにあたると主張しています。
今月10日に行われた記者会見で、代理人の弁護士は「亡くなった劇団員は労働者と同じように業務にあたっていて、劇団が安全配慮義務に違反し、責任があることは明らかだ。上級生との関係は一般の会社以上で、異常であったと指摘せざるをえない」と話していました。

【「遺族の訴え」全文】
亡くなった劇団員の遺族は、代理人の弁護士を通じて「遺族の訴え」とするコメントを公表しました。
全文は次のとおりです。
(原文ママ)
「娘の笑顔が大好きでした。その笑顔に私たちは癒やされ、励まされ、幸せをもらってきました。けれど、その笑顔は日に日に無くなっていき、あの日、変わり果てた姿となり二度と見ることが出来なくなってしまいました。くりくり動く大きな瞳も、柔らかい頬も、いとおしい声も、何もかも私たちから奪われてしまいました。『どんな辛いことがあっても舞台に立っている時は忘れられる』と娘は言っていました。けれど、それを上回る辛さは、忘れられる量をはるかに超えていました。宝塚歌劇団に入ったこと、何より、宙組に配属された事がこの結果を招いたのです。本当なら、今年の夏に退団する予定でしたが、突然の同期2名の退団の意向を知り、新人公演の長としての責任感から、来春に延期せざるを得なくなりました。それは、娘自身の為ではなく、自分が辞めたら1人になってしまう同期の為、そして下級生の為でした。あの時『自分のことだけを考えなさい』と強く言って辞めさせるべきでした。なぜそう言ってやらなかったのか、どれだけ後悔してもしきれません。大劇場公演のお稽古が始まった8月半ば以降、娘の笑顔は日ごとに減って辛く苦しそうな表情に変わっていきました。それは、新人公演の責任者として押し付けられた膨大な仕事量により睡眠時間も取れず、その上、日に日に指導などという言葉は当てはまらない、強烈なパワハラを上級生から受けていたからです。その時の娘の疲れ果てた姿が脳裏から離れません。傍にいたのにもかかわらず、切羽詰まっていた娘を救えなかったというやりきれない思いに苛まれ続けています。劇団は、娘が何度も何度も真実を訴え、助けを求めたにもかかわらず、それを無視し捏造隠蔽を繰り返しました。心身共に疲れ果てた様子の娘に何度も『そんな所へ行かなくていい、もう辞めたらいい』と止めましたが、娘は『そんなことをしたら上級生に何を言われるか、何をされるか分からない、そんなことをしたらもう怖くて劇団には一生行けない』と涙を流しながら必死に訴えてきました。25歳の若さで、生きる道を閉ざされ、奪われてしまった娘の苦しみ、そして、あの日どんな思いで劇団を後にしたのかと考えると、胸が張り裂けそうです。私たちは、声を上げる事もできず、ひたすら耐え、堪え、頑張り続けてきた娘に代わって、常軌を逸した長時間労働により、娘を極度の過労状態におきながら、これを見て見ぬふりをしてきた劇団が、その責任を認め謝罪すること、そして指導などという言葉では言い逃れできないパワハラを行った上級生が、その責任を認め謝罪することを求めます。」

【元劇団員“最悪の結果”】
宝塚歌劇団の元劇団員で、亡くなった劇団員を知る20代の女性がNHKの取材に応じ、「最悪の結果となり残念でならない」と今の心境を語りました。
女性は、宝塚音楽学校で学んでいた当時から知り合いだったということで、その人柄について「おとなしく真面目な印象だった」と振り返ります。
亡くなった劇団員が所属していた宙組は、同期生が退団などで当初の8人から2人にまで減っていたということで、女性は「少ない人数で下級生を束ねるのは相当な重圧だったと思います。劇団を離れることも選択肢だったと思いますが、最悪の結果となり残念でなりません」と今の心境を語りました。
また、この女性によりますと、劇団員はふだんから規律正しいふるまいが求められ、上級生が下級生を厳しく指導することも少なくないといいます。
また、内部の事情を外部の人に話すことは『外部漏らし』と呼ばれ、禁じられていたということで、女性は「親にも悩みを相談したり、愚痴を言ったりすることができなかったのでつらかった。歌劇団は閉鎖的な環境で、恐怖で支配しているような雰囲気でした」とみずからの体験を語りました。
そして、伝統という名のもとで続いてきたさまざまな慣習を見直すべきだとしたうえで、「もともとは意味があった慣習も、今では『ただやる』という形が優先され、その意味や理由は上級生から下級生に具体的には説明されませんでした。長時間労働や厳しい上下関係など、宝塚歌劇団の特殊な環境を今こそ変えてほしい」と話していました。

【宝塚歌劇団とは】
ホームページなどによりますと、宝塚歌劇団は100年以上の歴史がある出演者が女性だけの劇団で、1913年に「箕面有馬電気軌道」、現在の阪急電鉄が「宝塚唱歌隊」を作ったのが始まりです。
劇団員は「男役」と「娘役」のどちらかをみずから選択し、花、月、雪、星、宙の5つの組に配属されます。
それぞれの組には、常に主演を務める男役のトップスターとその相手となるトップの娘役がいて、組ごとに兵庫県の宝塚大劇場や東京宝塚劇場などで年間を通して公演を行っています。
公演の多くは芝居とショーの2本立てで、オリジナルの作品のほか、漫画や映画などを原作とした作品もあります。
宝塚歌劇団に入団するには、兵庫県の宝塚音楽学校で2年間学ぶことが条件ですが、合格者は毎年40人ほどで、狭き門として知られています。
1994年には受験倍率が48.25倍と過去最高を記録し、その入学の難しさから「東の東大、西の宝塚」とも言われていたということです。

【宝塚歌劇団 新理事長に村上取締役】
阪急電鉄は、12月1日づけで宝塚歌劇団の新たな理事長に、村上浩爾取締役を充てる人事を発表しました。
村上氏は56歳。
現在、阪急電鉄でエンターテインメント事業を担う「創遊事業本部」の副本部長や宝塚歌劇団の専務理事を務めています。
これは、宝塚歌劇団に所属する25歳の劇団員が死亡したことを受けて、木場健之理事長が12月月1日で辞任することに伴う人事です。

【不安や悩みを抱える人の相談窓口】
不安や悩みを抱える人の相談窓口は、厚生労働省のホームページなどで紹介しています。
インターネットで「まもろうよこころ」で検索することもできます。

電話での主な相談窓口は、▼「よりそいホットライン」が0120−279−338、▼「こころの健康相談統一ダイヤル」が0570−064−556となっています。