奈良のシカ“収容施設の環境不適切”県が調査結果公表

奈良公園のシカを保護している「奈良の鹿愛護会」が施設内に収容しているシカに十分なエサを与えていないと指摘されている問題で、奈良県は施設の環境が不適切だったとする調査結果を公表しました。

奈良公園のシカを保護している「奈良の鹿愛護会」は農作物を食い荒らすなどしたシカを施設内にある「特別柵」というエリアで収容していますが、これらのシカに十分なエサを与えず衰弱させていると指摘があったことから、県はことし9月から施設の管理体制について調査を進めていました。
奈良県は6日、▼エサの質や与え方、▼過密に収容され、休息の場所が不足していることなど動物福祉の国際的な5つの基準などに照らして、すべてに問題があり、不適切だったとする調査結果を公表しました。
県は調査結果をふまえ、「愛護会」の責任が重いとしたほか、県自身も主体的に飼育状況を把握していなかった点で一定の責任があるとしています。
そのうえで、「特別柵」での飼育方法については、愛護会が有識者のアドバイスを受けて環境を改善するべきだとしています。
また、今後「特別柵」をどうしていくかについては、県の検討委員会に、獣医師や農業関係者なども加えた部会を設置して検討をすすめ、1年後をめどに対策を示すとしています。
山下知事は「今のルールでの保護管理は一定、見直さざるをえない。予算が足りなければ奈良市などと話し合って増額も検討したい」と話しています。

【鹿苑「特別柵」とは】
今回、問題視されている「特別柵」はシカの保護活動を行う「奈良の鹿愛護会」が奈良公園で運営している施設、「鹿苑」の中にあります。
広さはおよそ5000平方メートルあり、畑などで農作物を食い荒らしたり、人を攻撃したりするなど、人間に何らかの危害を加えたシカが雄と雌で別々に分けられ、それぞれフェンスに囲まれた状態で収容されています。
一度、収容されたシカは原則、外に戻されることはなく、エサとして1日に2度、市販されている穀物などが与えられ、けがや病気などで治療が必要だと判断されれば、適切な処置が行われているということです。
愛護会によりますと、特別柵に収容されているシカの数は6日の時点で雄が98頭、雌が131頭だということです。

【シカの管理体制は】
奈良公園などに生息するシカは昭和32年に、国の天然記念物に指定され、法律による保護の対象となりました。
一方で、市内各地でシカによる農作物への被害も問題となり、昭和50年代には、農家が国などを相手に裁判を起こしました。
裁判での和解の結果などを踏まえて、国や県はシカの生息エリアを奈良公園を中心に4つの地区にわけて、それぞれ、保護や捕獲の基準を示しています。
現在、▼奈良公園や興福寺・春日大社などのエリアは「重点保護地区」、▼このエリア周辺の春日山原始林や市街地などは「保護地区」となっていますが、これらの地区には農地がほぼないため、人にケガをさせるといった危害を加えないかぎり、基本的にシカは捕獲されません。
これらの地区のさらに外側には「緩衝地区」と「管理地区」が同心円のように設定されています。
▼「重点保護地区」から離れた「管理地区」では、農業被害を防ぐため駆除が可能ですが、▼「緩衝地区」は駆除はできないものの、捕獲は可能となっていて、「特別柵」に収容されているシカの大半はこのエリアで生息していました。
愛護会では、捕獲したシカを戻すと再び農業被害を起こすおそれがあることから、「特別柵」に一度、収容したシカは、原則、死ぬまで収容しています。

【通報した獣医師は】
『特別柵』でのシカの飼育状況について県や市に通報した「奈良の鹿愛護会」専属の獣医師、丸子理恵さんは「県に不適切だと認めてもらったのは良かった。内部で解決したかったが、今回、通報して県の結果をいただいて良かったと思っている。『特別柵』での飼育について愛護会は今後、県などを交えてしっかりとあり方を考えてほしい」と話していました。

【「奈良の鹿愛護会」は】
県の調査結果について、「奈良の鹿愛護会」の山崎伸幸 事務局長は「厳しい指導をいただいたと考えている。ただ、『特別柵』の中のシカの頭数が多く、愛護会の手が回っていない現状は県に相談もしており、把握していたはずだ。今後は専門家の指導のもとで、シカの育成方法について改善していきたい」と話していました。

【専門家“これから議論されるべき”】
県の調査結果について、シカの生態や野生動物と地域社会との関係について研究している北海道大学大学院の立澤史郎 特任助教は、「『特別柵』の環境改善という意味では妥当な判断だ。虐待かどうかは奈良市が判断することなので、その意味でまだ結論は出ていないが、いまのように、『特別柵』にシカが収容されていく状況や環境は見直す必要がある」と話しています。
一方で、「『特別柵』の環境を整えても、そもそも野生動物を飼育することについて、世界では厳しい目が向けられている。研究のためでもないのに終生、飼育することの是非もこれから議論されるべきだ」と指摘していました。