万博会場建設費500億円上振れ最大2350億円 見通し報告

再来年開催される大阪・関西万博をめぐり、実施主体の博覧会協会は国や大阪府・市などに対して、会場の建設費がこれまでより500億円多い、最大2350億円になる見通しだと正式に伝えました。
国と大阪府・市、それに経済界の3者で負担するというこれまでの方針が維持されれば、国民の負担がさらに増えることになります。

再来年に開催される大阪・関西万博では、これまで会場の建設費を最大1850億円と見込み、国と大阪府・市、それに経済界の3者で3分の1ずつ負担する方針でしたが、資材価格や人件費の高騰を受けて博覧会協会が費用の見直しを進めていました。
20日は、協会の石毛事務総長が、見直しの結果を正式に伝えるため西村経済産業大臣と自見万博担当大臣、大阪府の吉村知事、それに大阪市の横山市長などとオンラインで会談しました。
この中で協会側は、建設費が、これまでより500億円多い最大2350億円になる見通しだと報告しました。
これに対し、吉村知事は「建設費の増額は2回目で、1回目の際、当時の担当大臣にこれ以上の増額はないようお願いし、確認した事情もあるので、厳密に確認させてもらいたい」と述べ、見直し結果を精査した上で負担を受け入れるか、最終的に判断する考えを示しました。
また、西村経済産業大臣は、「万博として、ふさわしいものにしていく上で必要なものなのか政府としても精査したい。その上で、3分の1ずつ負担するという大原則は堅持することを前提に検討を進めていきたい」と述べました。
大阪・関西万博をめぐっては、警備費についても、国が新たに200億円程度を負担する方向で検討を進めていて、建設費に関するこれまでの方針が維持されれば、国民の負担がさらに増えることになります。

【会場建設費上振れの経緯】
会場建設費をめぐっては、過去にも引き上げられていて上振れが決まれば今回で2度目となります。
万博の会場建設費は、会場内で催しを開く催事場や緑地や道路、それに会場のシンボルとなる「大屋根」の建設などに使われます。
当初の計画では1250億円でしたが、2020年、来場者の暑さ対策や「大屋根」の設計変更などを理由に600億円増やして1850億円に引き上げられました。
しかし、建設用の資材価格がロシアによるウクライナへの侵攻や円安などの影響で高騰し、建設物価調査会の調査では、資材価格は先月(9月)時点でおととしから2割以上上昇しています。
また、建設業界の慢性的な人手不足で人件費も上昇していて、国は実施主体の博覧会協会に、会場建設費が1850億円におさまるか精査するよう指示していました。

【博覧会協会 上振れの内訳説明】
博覧会協会の石毛博行 事務総長は、国や大阪府・市などとの会談の中で、会場建設費が現在の1850億円から最大2350億円へと500億円、上振れすることを明らかにしました。
その内訳として、▼資材価格の高騰の影響で443億円、▼人件費については84億円の増加を見込んでいるとしています。
一方、会場のデザイン変更や施工方法の見直しなどによって157億円のコスト削減につなげたとしています。
これに予備費として130億円を積んだことから、最終的に500億円の上振れになるとしています。

博覧会協会の石毛博行 事務総長は、国や大阪府・市などとの会談のあとの記者会見で、「会場建設費を1850億円で収めるため合理化を進めるなどの努力を行ったが、それを上回る資材価格の上昇や労務費の上昇があった。やむをえない環境だった」と述べ、増額は避けられないという認識を示しました。
その上で、今回示した、最大2350億円からさらに上振れする可能性があるのか、問われたのに対し、石毛事務総長は「今回の増額を認めてもらえるのであれば、その範囲でやるのが務めだ」と述べました。
一方、博覧会協会は建設費の精査に当たって、デザインの変更や仕様の見直しなどによって157億円を圧縮したとしていますが、石毛氏は「合理化の詳細についてひとつひとつお話する段階ではない。大阪府・市や国などと詳細を詰めた上で、開示できると思う」と述べるにとどめました。

【大阪知事“詳細踏まえ判断”】
大阪府の吉村知事は、オンラインでの会談の中で、「物価上昇や人件費の高騰、円安などを含め、環境が変わったというのは事実として理解をするが、厳密に確認をさせていただきたい。改めて博覧会協会に質問し、詳細な回答を踏まえて大阪府として判断をしていく」と述べました。

吉村知事は、博覧会協会の報告を受けたあと、記者団に対し、「まだまだ不十分だと思う。これだけでは中身が分からないので、詳細に確認をしていく。2回目の増額になるので、厳しくみていくべきだ」と述べました。
その上で、「国家プロジェクトだが、大阪府と大阪市は、開催地である責任者だ。確認はきちんと行うが、国と大阪府・市、経済界で3分の1ずつ責任を持って、万博を成功させるという立場が筋だと思う」と述べました。
また、大阪・関西万博について、「経済効果だけでなく、次の世代が新たな技術や価値観に触れるという中身に非常に大きな意味があり、大きな投資効果があると思っている」と述べました。

【大商会頭“知恵と創意工夫”】
大阪・関西万博の建設費が上振れする見通しについて、大阪商工会議所の鳥井信吾会頭は、20日の記者会見で「新型コロナの感染拡大前の2019年の上半期から急速にいろいろなものの価格が上がってきて、その後、コロナ禍の3年のうちにさらに価格上昇が加速して円安も進んだ。誰が悪いというよりは知恵と工夫で乗り切っていくということに尽きる」と述べました。
そのうえで、鳥井会頭は「来月(11月)には、前売り券の販売がスタートする。万博では、コロナ禍から脱却した、希望がある未来をつくるというメッセージを国内や世界に伝えていく必要がある」と述べました。

【街の人は】
会場の建設費が上振れすることについて、大阪・梅田で街の人に話を聞きました。
大阪・枚方市に住む30代の女性は、「万博が開催されるのは楽しみですが、費用が余計にかかるのには『うーん』と思います。これ以上は上がらずに完成してくれたらいいなと思います」と話していました。
兵庫県に住む50代の会社員の男性は、「前回の万博のときほど盛り上がっていない感じがするし、お金のことや工事のこともあって、無事にできるのか心配です。物価も上がっているので、建設費の上昇はある程度はしかたないと思いますが、見積もりの甘さもあったのかもしれないと思います」と話していました。
また、滋賀県に住む60代の会社役員の男性は「日本が活性化されて景気が良くなることを期待しています。物価上昇もあるので致し方ないと思いますが、税金が使われているので青天井のように使っていいというわけではないと思うし、必要なお金なのか精査してもらわないと『上がりました』、『はい、そうですか。わかりました』とはならないと思います」と話していました。

【専門家“意義の説明を”】
会場建設費の上振れについて、国際政治学が専門で万博の歴史に詳しい京都大学の中西寛教授は、「今回の万博が、2350億円という巨額の投資に見合った意義のあるものになるのか、具体的に説明するべきだ」と指摘しています。
会場建設費については国と大阪府・市、経済界の3者が3分の1ずつ費用を負担する仕組みになっていて、中西教授はNHKの取材に対し、「国や大阪府・市の原資は、国民の負担になる。それについてきちんとした説明が求められるのは当然だ」としたうえで、「増額になった詳細を公表し従来の予算に絞り込む努力をしたのかどうかについても説明が必要ではないか」と述べました。
そのうえで、「万博は経済目的ではなく、社会的意義のあることを国際的に行うことが前提にあり、国際社会の分断や、命に対する危険という現実を踏まえて未来にむけていかに人類が連帯を取り戻すかという観点が万博について考えられる意義だと思う。万博が2350億円という巨額の投資に見合った意義のあるものになるのか、実施主体の博覧会協会は具体的に説明すべきだ」と指摘しています。

【スタジオ解説】
キャスター)
スタジオは竹内記者です。
これまでお伝えしてきた500億円を増額の見通しが20日、正式に明らかになったということなんですね。
竹内)
はい。
その大まかな内訳が出ました。
▽資材価格が443億円。
▽人件費などの労務費が84億円。
さらに、災害などで予定外の工事が発生したときなどに備える▽予備費が130億円ということです。
キャスター)
開催は予定通り1年半後。
このお金で会場の大屋根や催事場を作るとして、それを見直すということはしないんですか。
竹内)
会場デザインや工事方法の見直しなどで、157億円の建設費削減を行ったということです。
ただ、どの工事の見直しをしたかは明らかにしていません。
上振れは2度目です。
中西教授は「増額するにしても国民に納得してもらうには詳細を公表してどの程度圧縮する努力が行われたのかきちんと説明することが必要ではないか」と指摘しています。
キャスター)
建設費の問題もありますが、開幕に向けて何が求められるのでしょうか。
竹内)
大前提として開幕までに間に合わせることは大事です。
海外パビリオンの建設準備が遅れていることに代表されるように会場やその周辺の準備や運営については、まだ段取りが固まっていないことも多いので着実に準備して開幕までに間に合わせることが必要です。
もう一つ大事なのは、国民の負担を増やす以上、開催の意義について説明し理解と納得を得ていくことです。
民間パビリオンや8人のプロデューサーが作るパビリオンなどについてはコンセプトが発表され始めている一方で、会場で何が行われるのかまだ具体的な内容については十分に発信されていません。
テーマに掲げられている「いのち輝く未来社会のデザイン」をどのように具体化し魅力的な展示内容を実現していくのかが今後問われることになりそうです。

【建設費増に対する対応は】
大阪・関西万博の「会場建設費」は、実施主体の博覧会協会が建設する施設やインフラを整備するための費用です。
20日、協会から、正式に建設費の上振れを伝えられたことを受けて、国と大阪府・市は、費用の内容を精査することにしていますが、これまでの方針どおりであれば、3分の1ずつ、金額にして最大783億円ずつを負担することになります。
このうち国は、20日召集された臨時国会に提出する今年度の補正予算案に、必要な費用を盛り込む方向で調整を進めています。
一方、大阪府の吉村知事は先月(9月)29日、国と大阪府・市、経済界の3者が3分の1ずつ責任を負担するという考え方をベースに、建設費の増額をどう考えるのか整理していきたいという意向を示していました。
ただ、大阪府議会では、建設費が1250億円から1850億円に上振れしたあとの2020年12月に、費用を増額せざるをえない状況となった場合、国が責任をもって対応することなどを求める意見書が可決されています。
こうした意見書は大阪市議会でも可決されていて、大阪府・市としては負担の受け入れについて内容を精査したうえで、判断する見通しです。
経済界では、建設費の負担について企業からの寄付で費用を集めていて、これまでに1850億円の3分の1にあたる616億円を超える見通しです。
ただ、経済界の内部には「さらに寄付を募るのは簡単ではない」という意見も根強くあります。
こうした状況を受けて、経済界の一部からは、1970年の大阪万博の入場料収入などをもとに設立された基金を活用するべきではないかという意見も出ています。
運営元の公益財団法人によりますと、この基金の残高はおよそ190億円だということで、これまで年間の運用益を大阪府に寄付したり、国際交流などの事業に助成したりしていました。
しかし、公益財団法人の定款には基金を取り崩さないことが定められていて、定款の変更には、大阪府・市や地元企業の幹部らで構成される理事会などでの決議が必要だということです。

【警備費200億円も国負担で検討】
大阪・関西万博をめぐっては、会場の建設費とは別に警備費についても、国が負担する方向で検討が進められています。
警備費は、当初、総額800億円余りを見込んでいる「運営費」の一部として、入場料収入などでまかなう計画でした。
しかし、▼去年7月、安倍元総理大臣が銃撃された事件や、▼去年10月、韓国ソウルのイテウォンで起きた群集事故などを受けて、実施主体の博覧会協会が警備を強化する方針を示し、見直しを進めていました。
また、西村経済産業大臣は、先月(9月)の記者会見で、「会場内の安全確保に万全を期すために必要な費用については、会場建設費や運営費とは別に、国が前面に立って確保する」と述べ、警備強化に必要な費用は、国が負担する考えを示していました。
関係者によりますと、▼警備員の増員や▼防犯カメラなどを増やすことで、警備費は上振れする見通しで、国が新たに200億円程度を負担する方向で検討を進めているということです。