奈良の鹿 施設で“虐待”と獣医師 愛護会は反論 市が調査へ

奈良公園のシカを保護している「奈良の鹿愛護会」が運営する施設内で、シカに十分なエサが与えられておらず衰弱しているという内容の通報が獣医師から奈良市に寄せられました。
愛護会は、「しっかりエサを与えていて、虐待といわれるのは心外だ」と反論していて、市は3日、現地調査を行うことにしています。

「奈良の鹿愛護会」は、県から委託を受けて奈良公園などに生息するシカの保護活動に取り組む団体です。
団体が運営する奈良公園内の保護施設「鹿苑」では、人に危害を加えたり、近隣の農作物を荒らしたりするなどしたシカを、施設内の「特別柵」というフェンスに囲まれた場所で収容しています。
奈良市によりますと、先月(9月)19日、愛護会専属の獣医師から、「『特別柵』では十分なエサが与えられずシカが衰弱していて動物虐待だ」などという内容の通報が寄せられたということです。
通報では、『特別柵』では通常より安いエサが与えられ、量も十分ではないために毎年、雄と雌あわせて70頭以上が死んでいるとしています。
これに対して、愛護会側は、「収容されたシカ、特に雄のシカはふだんから群れで生活していないので、雌よりも集団生活にストレスを受けやすいことは考えられる」としたうえで、「会のメンバーは、『特別柵』に収容しているシカに対してもしっかりエサを与え、掃除をして思いやりをもって接している。虐待といわれるのは心外だ」と反論しています。
市は通報を受けて、3日に別の獣医師と一緒に現地調査を行い飼育状況や衛生状態などを調査することにしています。
奈良市保健所の鈴村滋生 所長は「奈良といえばシカで、貴重な愛護動物なので、文化、観光、市民への影響を考え、早く対応を進めるとともに拙速にはならないようにしたい」と話しています。

【「特別柵」とは】
奈良公園一帯では、「奈良のシカ」として国の天然記念物に指定されているシカが、観光客などを出迎えています。
こうしたシカと違い、▼畑などで農作物を食い荒らしたり、▼人を攻撃したりするなど、人間に何らかの危害を加えたシカが収容されているのが、今回の通報で問題視されている「特別柵」です。
シカの保護活動を行う「奈良の鹿愛護会」が奈良公園で運営している保護施設、「鹿苑」の中にあり、広さはおよそ5000平方メートル。
ふだんは一般公開されていますが、現在は工事のため一時的に見学できなくなっています。
この場所には、シカが雄と雌で別々に分けられ、フェンスに囲まれた状態で収容されています。
愛護会によりますと、現在の収容数は▼雄が107頭、▼雌が132頭で、一度、収容されると原則、外に戻されることはないということです。
収容されているシカには▼エサとして1日に2度、市販されている穀物などが与えられ、▼けがや病気などで治療が必要だと判断されれば、移動させたうえで、適切な処置を行っているとしています。

【獣医師と愛護会の主張】
今回、奈良市に通報した「奈良の鹿愛護会」専属の獣医師、丸子理恵さんがNHKの取材に応じ、「特別柵に収容されているシカには十分なエサが与えられず毎年、雄と雌あわせて70頭以上が死んでいる」と話しています。
また、「特別柵ではことし7月まで安く栄養のないエサを与えていたほか、水飲み場が汚れていたり、暑さをしのぐ日陰の場所も少なかった。水飲み場は増やしたが、エサをやる場所は増やさなかった。エサをやる場所を増やさないと、雄の場合、弱肉強食になり、競争に弱い個体はエサを食べられなくなる。これらの要因がシカにストレスを与えて死亡する原因となっている。これは明らかに動物虐待だ。会に訴えても改善しなかったので、保健所に通報をした」と話しています。

一方、「奈良の鹿愛護会」の山崎伸幸 事務局長は「収容されたシカ、特に雄のシカはふだんから群れで生活していないので、雌のシカよりも集団生活にストレスを受けやすいことは考えられる」と話しています。
そのうえで、「通報した獣医師の意見を参考にことし7月には指示どおり、シカが好むエサに変えた。会のメンバーは、『特別柵』に収容しているシカに対してもしっかりエサを与え、掃除をして思いやりをもって接している。虐待といわれるのは心外だ」と話していました。