万博パビリオン準備遅れ 経産相“参加国支援し準備加速を”

再来年(2025年)の大阪・関西万博で、海外のパビリオン建設に向けた準備の遅れが指摘される中、西村経済産業大臣と岡田万博担当大臣は、30日、大阪市にある博覧会協会を訪れ、参加国へのサポートを強化し、準備を加速させていく考えを示しました。

大阪・関西万博をめぐっては、海外の国や地域がみずから費用を負担して56のパビリオンを建設することになっていますが、準備の遅れが指摘されています。
こうしたなか、西村経済産業大臣と岡田万博担当大臣は、30日、大阪市にある実施主体の博覧会協会を訪問しました。
このなかで西村大臣は協会の職員に対し、「海外パビリオンで、工事の契約が進んでいない国がいくつも残っている。まさに正念場で、危機感を持って『なんとしても成功させる』という心意気で、責任を果たしてもらいたい」と訓示しました。
このあと、西村大臣らは、大阪府の吉村知事などとともに協会が入る建物から、万博会場の予定地を視察し、工事の進捗(しんちょく)状況などについて協会側から説明を受けました。
視察のあと、西村大臣は記者団に対し、「建設事業者が決まっていない参加国に対しては、マンツーマンでサポートをしているところだ。経済産業省としても総力をあげて万博の開幕成功に向けて取り組んでいるので、しっかり準備を加速させていきたい」と述べ、参加国へのサポートを強化し、準備を加速させていく考えを示しました。
さらに、特に準備が遅れている一部の国や地域に対し、博覧会協会が組み立て式の建物を建てて各国に外装などを委ねる方式を提示していることについて、「いくつかの国と『これでいこうか』と話を進めている。取りまとめができしだい、その数なども公表していきたい」と述べ、複数の国が、この方式の採用を検討していることを明らかにしました。

【パビリオン タイプXとは】
博覧会協会は当初、海外パビリオンの設置について、▼参加国が建物の形状やデザインを自由に構成する「タイプA」、▼協会が建物を建築し、参加国がその建物を借り受けて単独で入居し内装や外装のデザインを決める「タイプB」、そして、▼協会が準備する建物に複数の国がまとまって入居する「タイプC」の3種類を設定していました。
タイプAは、自分でパビリオンを建築するためタイプBやCに比べて独自性は表現しやすいものの、費用の負担は大きく準備にも時間がかかります。
建設準備の遅れが指摘されるなか、協会がタイプAの参加国に再来年4月の開幕までに間に合わせるための選択肢として提示しているのが、通称「タイプX」です。
建設費用の負担は参加国ですが、組み立て式の箱形の建物を協会が建設して参加国に引き渡し、参加国が内装や外装のデザインを決めます。
協会は敷地に合わせて300平方メートルから1200平方メートルまで4つのパターンを提示しています。
また、外装の例として幾何学模様や木材を格子状にしたものなどを示しているということです。
工法や建物自体のデザインを簡素化し、協会が工事を行うことで建設準備を加速させる狙いがあり、来年3月に着工し来年12月までに参加国に引き渡す計画です。
協会は「タイプA」で参加を表明している国に、タイプXを含めて支援策を提示し8月末までにどのような形式で参加するのか回答を求めています。
協会関係者によりますと、今のところタイプXの利用を明言している国はないということですが、関心を示している国はあるということです。

【タイプAめぐり各国は】
再来年の大阪・関西万博で海外の国や地域がみずから建設するタイプのパビリオンについて、NHKが各国に準備状況について問い合わせたところ、韓国やイタリア、カナダなどが従来どおりタイプAで建設を進めることを明言しました。
大阪・関西万博をめぐっては、海外の国や地域がみずから費用を負担して独自に建設する「タイプA」として56のパビリオンを建設する予定になっています。
しかし、前のドバイ万博が1年遅れで開催されたことや、資材が高騰していることなどを背景に準備の遅れが指摘されています。
NHKがタイプAを表明している国のうち30余りの国に対し、今後の意向について問い合わせたところ、30日までに回答があった国のうち、韓国やイタリア、カナダなどが、これまでの予定どおり「タイプA」で建設を進めると明言しました。
このうち、韓国の関係者は「9月以降に工事業者と施工契約ができて、10月以降にパビリオンのテーマを発表できる見通しだ」としています。
また、カナダの担当者は「秋以降に大阪市に基本計画書を提出する予定だ。準備は自国の計画に基づいて順調に進んでいる」としています。
一方、「回答を差し控える」などとする国も多く、「タイプA」で進めるかについても明確な回答を避ける国もありました。

【イタリアの責任者は】
再来年(2025年)の大阪・関西万博でパビリオンを出展するイタリアの責任者がNHKのインタビューに応じ、「イタリアと日本は高齢化や資源の問題など共通の課題を抱え、すでに一緒に取り組んでいることもあるため、パビリオンではそうしたものを発信していきたい」と述べました。
イタリアは独自の設計でパビリオンを建設する「タイプA」の国の1つで、完成イメージ図によると建物は木造の意匠を凝らした優美なデザインで、屋上には美しい庭園やカフェが設けられています。
イタリアの最新技術や各地域の特色に触れる展示のほか、オペラの上演などのイベントを計画しているということです。
責任者を務めるマリオ・ヴァッターニ氏が、28日、NHKのオンラインインタビューに答え、万博の意義について、「万博は各国の文化や世界の技術革新に直接触れられる機会であるのに加え、各国共通の課題への解決策を示すという意義がある。イタリアと日本も高齢化や資源の問題など共通の課題を多く抱えており、すでに一緒に取り組んでいることもあるため、パビリオンではそうしたものも発信していきたい」と述べました。
海外のパビリオンの建設をめぐっては、準備の遅れが指摘されていますが、イタリアは今月(8月)中旬に日本の建設会社を含む企業のグループと契約していて、「パビリオンのデザインと建設を一体で提案してもらう入札を行ったことで、困難なく契約に至ることができた。日本とイタリアの企業同士の協力はとてもうまくいっていて進捗に満足している」と話しています。
一方で、懸念していることとして、▼会場となる人工島、夢洲への資材の搬入や建設労働者の通勤の足をいかに確保するか、▼来年(令和6年)から強化される建設業界での残業規制の影響がどう出るかなどを挙げ、「現時点で具体的な問題が出ているわけではないが、大きな関心を持っている。検討すべき技術的な課題を日本側と密に連携して解決し、建設に取り組んでいきたい」と話していました。

【建設に向けた課題】
海外パビリオンの建設に向けては、アクセスが限られている会場の人工島・「夢洲」にどのように資材や建設労働者を運ぶのかという点も課題のひとつです。
夢洲につながる道は、▼北にある人工島、舞洲からつながる橋と▼南にある人工島、咲洲からつながるトンネルしかありません。
博覧会協会や大阪市は、一日に最大でおよそ5100台の工事車両が通行すると想定し、混雑への対策として会場へつながる橋の車線数を片側2車線から3車線に増やしたほか、今後、混雑が予想される周辺の道路の車線を増やす方針です。
しかし、建設の準備が後ろ倒しになって工事が集中すると、道が混雑し、搬入が滞るおそれがあるほか、工事の作業員を広域で集めることになった場合にどこに宿泊してもらい会場の建設現場までどう運ぶかも課題として浮かんでいます。