十徳ナイフ所持で軽犯罪法違反の罪 2審も有罪判決 大阪高裁

かばんのポケットに十徳ナイフを隠し持っていたとして大阪の鮮魚店の店主が軽犯罪法違反に問われた裁判で、2審の大阪高等裁判所は「漠然とした目的でナイフを携帯することは、法の趣旨からして相当とは言えない」として、1審に続いて有罪判決を言い渡しました。
店主は、「仕事や日常生活で持っていたら便利だと思った」などと無罪を主張していました。

おととし12月、大阪・福島区で刃渡りおよそ6.8センチの十徳ナイフをかばんのポケットに隠し持っていたとして、鮮魚店の店主が軽犯罪法違反の罪に問われました。
店主は「仕事や日常生活で持っていたら便利だと思った」などと無罪を主張しましたが、ことし(令和5年)1月、1審の大阪簡易裁判所は科料9900円の有罪判決を言い渡しました。
店主側は控訴し、8月1日の2審の判決で、大阪高等裁判所の辻川靖夫 裁判長は「持っていた十徳ナイフは人に対して使用すれば、重大な害を加える危険性が認められるもので、仕事や日常生活のために自宅から持ち出す必要性はなかった」と指摘しました。
そのうえで「具体的な使用状況を想定しておらず、漠然とした目的で十徳ナイフを携帯することは法の趣旨からみて相当とは言えない」などとして、1審に続いて科料9900円の有罪判決を言い渡しました。
判決のあと店主側の弁護士は、判決を不服として上告する方針を示しました。

【店主側の弁護士“納得できない”】
判決のあと、高江俊名 弁護士は、「被告が裁判の中で具体的な目的を答えられなかったというだけで主張は否定された。かばんのポケットに入れていたことが、『隠した』ことに当たると判断され納得できない」と話していました。

【軽犯罪法 裁判所の判断は】
軽犯罪法で、正当な理由がなく刃物などを隠し持つことは規制されています。
これまでも十徳ナイフなどを隠し持っていたことが軽犯罪法違反にあたるかどうかが問われ、無罪が言い渡されたケースもあります。
<催涙スプレー 最高裁で無罪>
護身用に販売されている小型の催涙スプレーを持っていたとして軽犯罪法違反の罪に問われた裁判では、2009年3月の判決で、最高裁判所は「人に危害を加えられる道具を持ち歩くことが正当かどうかは状況や動機、道具の性能などから総合的に判断するべきだ」と指摘しました。
そのうえで、「深夜に運動のため自転車に乗っていた男性が護身用にスプレーを持っていたことは社会通念に照らしても正当で犯罪にあたらない」として1審と2審の有罪判決とは逆に無罪を言い渡しました。
<ヌンチャクも無罪>
木製と鉄製のヌンチャクあわせて3組を車の中に持っていた男性が軽犯罪法違反の罪に問われた裁判では、男性側は「趣味のために持っていた」と主張しましたが、1審で科料9900円の有罪判決が言い渡されました。
男性側は控訴し、2審の広島高等裁判所岡山支部は2017年3月の判決で、「車内の座席や布団の下にヌンチャクを置いていただけでは隠す意思があったとはいえず、趣味のために持っていることも正当な理由だ」として無罪を言い渡しました。
<十徳ナイフ 無罪のケースも>
刃渡りおよそ6.2センチの十徳ナイフを車の中に隠し持っていたとして軽犯罪法違反の罪に問われた裁判では、新潟簡易裁判所がことし(令和5年)2月の判決で、「5年以上、車に収納され使用していないことから、護身用ではなく災害用・防災用であったと認められる。ナイフの携帯は日常生活の必要性から正当な理由があるといえる」として無罪を言い渡しました。

【裁判所の判断に 元裁判官は】
大阪高等裁判所の判断について、元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は「十徳ナイフの刃は、人を傷つける能力があるので、一定程度、制約する軽犯罪法の趣旨は理解でき、携帯していたことについて具体的な用途があったかどうかに着目した判断だ」と話しています。
そのうえで、裁判所の判断が分かれることについては、「危ないものを処罰することとそうではないものを区分けするのは非常に難しい。明確に使用の目的がないとしても、例えば、職場と自宅の間で使用する場面もあり得るはずなので、『正当な理由』があるかどうかは議論の余地がある」と話しています。