万博の「華」 海外パビリオンの建設申請いまだゼロ 課題は

開幕まで2年を切った大阪・関西万博で気になる事態が起きています。
「万国が集まる」万博ですが、海外のパビリオンの建設申請がまだ1件も行われていません。
開幕に間に合うのでしょうか。
くわしくお伝えします。

【博覧会協会 会見の概要は】
再来年の大阪・関西万博で海外のパビリオンの建設申請が1件も行われていない問題をめぐり、実施主体の博覧会協会が13日、大阪市内で会見を開きました。
このなかで、石毛博行 事務総長は、みずから費用を負担してパビリオンを建設するいわゆる「タイプA」の参加国50か国余りのうち9か国が建設の許可申請を前に協会に資料を提出していることを明らかにしたうえで、「タイプAの国には構想を示している国もあり、実現できるよう建設業者を探すなど支援できればいい。『万博の華』といえば参加国の出展で、一概には言えないが、年末までに着工すれば開幕に間に合うと考えている」と述べました。
そのうえで「パビリオンの建設の進め方は参加国が決めることだが、協会として、パビリオンのデザインを簡素化することで工事期間を短縮したり、簡単な工法への切り替えを提案するなど、最大限のサポートをして開幕までに間に合わせたい」と述べました。
また、建設業者が受注をためらう要因のひとつとして、外国語でのやりとりが生じることをあげ、参加国がスムーズに建設を進められるよう、「日本の建設市場をよく知るマネジメント会社を協会が選定して事業者との意思疎通が円滑に進むよう支援し、建設の実務と外国語に精通する人材を新たに雇用して対応する窓口を設置する」と述べました。
また、建設会社への発注について「参加国が発注するケースもあるし、協会が発注するケースも選択肢としてあり得る」として博覧会協会が参加国の代わりに発注を行う選択肢を示しました。
一方で、その場合の費用負担については「非常にデリケートな状態で、各国が作りたいという意欲を持って進めることについて、阻害するようなことはあってはいけない」と明言を避けました。

【海外パビリオンは3種類 「タイプA」とは】
大阪・関西万博には、これまでに153の国と地域が参加を表明していて、技術や文化を紹介する展示施設、「パビリオン」を設けることになっています。
今回の万博では、パビリオンの設置には3種類の方法が用意されています。
▼「タイプA」は、参加国が博覧会協会から敷地の提供を受け、各国が建物の形状やデザインを自由に構成する方法です。
それぞれの国や地域の個性が外観などに反映されるため、万博の「華」として注目されています。
これまでにドイツやスイス、それに中国など50か国余りがこの方法でパビリオンを建設する方針です。
「タイプA」では参加国が設計から建築までを自前で行う必要があります。
ただ、これまでに建設に必要な許可を大阪市に申請した国はありません。
建設資材や人件費の高騰に加え、複雑なデザインなどが遅れにつながっていると見られています。
▼「タイプB」は、博覧会協会が建物を建築し、参加国がその建物を借り受けて単独で入居する方法です。
参加国はパビリオンの内装や外装のデザイン、それに、設備や展示内容をみずから決めることができます。
そして、▼「タイプC」は博覧会協会が準備する建物に複数の国がまとまって入居するものです。
設定された区画で各国がみずから設備や内装を決めて技術や文化などを紹介することになっています。
「タイプB」と「タイプC」では、内装などにかかる費用は参加国が負担しますが、建物自体は博覧会協会が建設するため、参加国としては「タイプA」より割安な形で出展できるというメリットがあります。

【海外パビリオン 建設の流れは】
各国が、自らパビリオンを建設する場合の流れです。
各国はまず、それぞれコンペを行うなどして、万博や独自のテーマに沿ってデザインや設計を決めます。
そのうえで、パビリオンの「基本設計書」を博覧会協会に提出します。
協会から承認が得られれば、開催地の大阪市に対して、設計図や工程表などをまとめた「基本計画書」を提出します。
建築基準法に違反しない設計になっているかなどが確認されれば、出展する国は、正式に「仮設建築物」の建設許可を市に申請し、学識経験者でつくる建築審査会の同意が得られると、許可が通知されます。
このあと、さらに詳しい「実施設計書」を博覧会協会に提出して承認が得られると建設に着手します。
しかし、博覧会協会によりますと、初めに提出を求めている「基本設計書」を協会に提出した国は、50か国余りのうち、わずか9か国です。
大阪市に建設申請を行う段階に進んだ国はまだ、ひとつもありません。
博覧会協会の資料によりますと、当初の計画では、建設申請をしてから建設を始めるまでの期間は4か月ほどと想定され、その後の建物本体の工事は、来年7月までに終える予定となっています。
しかし、多くの国から「基本設計書」が出されていないうえ、資材価格の高騰などの影響で施工業者の選定に時間がかかることが予想されるなかでは建設スケジュールに大幅な遅れが出るおそれが出ています。
博覧会協会の石毛博行事務総長は、13日の会見で、「開幕に間に合うように、協会は政府とさまざまなメニューで支援する。標準的な工期から考えると年末までに着工すれば間に合うと考えている」と述べ、年内に着工できるよう建設前の手続きを加速するとともに、パビリオンの設計などが遅れている国については手続きや施工を支援していく方針を示しました。

【国内パビリオンもコスト高の影響】
資材価格の高騰は、海外パビリオンだけでなく、会場の整備や国内のパビリオンの建設にも影響しています。
大阪・関西万博の会場では今年4月に起工式が行われたあと、▼三菱グループや、▼パナソニックホールディングスがそれぞれのパビリオンの建設を始める一方で、工事の入札が成立しないケースも相次いでいます。
博覧会協会によりますと、協会が発注した工事で大型のイベント会場などこれまでに10件で入札者がなかったり、予定価格の範囲内での入札がなかったりして、取りやめとなっています。
また、▽政府が出展する「日本館」も建設工事の入札が成立せず、近畿地方整備局は、開幕に間に合わないおそれがあるとして、事業者を任意で決める随意契約に切り替えて今月(7月)中の契約を目指しています。
「日本館」の建設期間は19か月と見込まれ、当初の計画では先月(6月)の着工を想定していました。
さらに、▽大阪府などが出展する「大阪パビリオン」も当初およそ74億円と見込んでいた建設費が、資材価格の高騰で115億円に膨らんだことから、建物全体を覆うとしていた屋根を来場者から見える範囲に縮小したり、素材もより安価なものに変更するなどして、99億円に圧縮したということです。

【建設業界“短い工期が問題”】
大阪・関西万博の海外パビリオンの建設準備が遅れている問題。
なぜ、施工する建設業者が見つかりにくい状況になっているのでしょうか?
建設業界が指摘するのは「資材価格の高騰」と「深刻な人手不足」、そして2年後に迫った万博開幕までの「工期の短さ」です。
中小の建設業者でつくる「全国建設業協同組合連合会」によりますと、建設業界では資材価格の高騰に加え、人手不足も深刻な状況になっていますが、来年(2024年)からは時間外労働の規制が強化される「2024年問題」を控え、人手不足に拍車がかかることが懸念されています。
このため、いかに余裕をもって工期を組めるかが受注判断のポイントになっているということですが、海外パビリオンの建設は工期が短いうえ、参加する国や地域が趣向を凝らした複雑なデザインになることが多いため、工期内の完成を目指すにはより多くの人手が必要になるということです。
また、万博が開催される夢洲は人工島で、資材運搬などのアクセスが限られるため、工期の短縮や生産性の向上にも課題があるということです。
全国建設業協同組合連合会の青柳剛 会長は「工期が一番の問題だ。万博開幕までに完成させるためには長時間労働を防ぐため現場を3交代制にしなければならないが、ただでさえ人手不足が深刻なため、みんな尻込みしていると感じている。万博に限らず、ワークライフバランスを意識した工期の最適化に、行政や施工会社が取り組んでいくことがすごく大事だ」と話しています。

【大阪知事“時期がタイトに 早期着工の必要”】
大阪府の吉村知事は14日、記者団に対し「時期がタイトになっているのは間違いないので、できるだけ早く着工していく必要がある。いま、博覧会協会が中心となって調整を進めているが、大阪府と大阪市も協力関係のもとで進めていく。ありとあらゆる方法を尽くして必ず間に合わせなければならない」と述べました。

【大阪市長“スムーズに進むよう取り組みを”】
博覧会協会が13日、パビリオンの準備が遅れている参加国に対して、発注の代行などの支援策を明らかにしたことについて、大阪市の横山市長は14日、「発表されているパビリオンができるだけ盛り上がるかたちでつくられ、期限通りに準備が進むことを強く願っている」と期待感を示しました。
また、海外のパビリオンの建設申請が大阪市に1件も行われていない状況については、物価や資材の高騰、それに建設に携わる人材確保の問題などを踏まえて、早めに発注しなければならないという日本の建設業界をめぐる状況が、海外の参加国に認識されていないことも、要因ではないかと分析したうえで、「ただ指をくわえて待っているだけではなく、問題がある部分を関係者などにしっかり聞いて、大阪市としてもできる限りスムーズに審査、建設が進むような取り組みをしていきたい」と述べました。

【官房長官“パビリオン建設へ全面支援”】
再来年の大阪・関西万博で海外のパビリオンの建設申請が1件も行われていない問題をめぐって、松野官房長官は、開幕までにすべての参加国のパビリオン建設を終えるのが最優先だとして、参加国と施工業者の双方を全面的に支援していく考えを示しました。
この問題をめぐり、実施主体の博覧会協会は、13日、準備が遅れている参加国に対して施工できる建設会社の紹介や、一部工事の発注の分担を提示して支援していくことを明らかにしました。
松野官房長官は14日、閣議の後の記者会見で「万博の開幕までにすべての参加国のパビリオンの建設を完了させることが最優先と考えている。その趣旨を踏まえ、博覧会協会が参加国にさまざまな提案を行っていると承知している」と述べました。
そのうえで「参加国にはデザインの簡素化によるコスト削減と、工期短縮化や予算増加の要請などを実施している。施工事業者に対しては、安心して契約を行えるよう、博覧会協会に設置した対応窓口などで情報提供を行っている」と述べ、博覧会協会とも連携し参加国と施工業者の双方を全面的に支援していく考えを示しました。

【万博相“開催延期の考えはない”】
岡田万博担当大臣は14日、閣議のあとの記者会見で「博覧会協会に国ごとの担当者を配置し、当該の国の課題を明確化したうえで予算の増額やデザインの簡素化によるコスト削減と工期短縮化の要請を行っている。建設実務に精通した外国語での対応可能な人材による窓口の設置なども行っているところだ」と述べました。
また、記者団からパビリオンの建設の遅れで開催を延期する可能性があるか問われたのに対し、「参加国と施工事業者の双方の話を聞き、建設の加速化を図っているところであり、現時点で開催を遅らせるという考えは持っていない」と述べました。

【専門家“質落とせば経済効果に影響も”】
海外パビリオンの建設準備が遅れている問題の影響について、日本総合研究所関西経済研究センター藤山光雄 副所長は「万博の開催時期を延期するのは難しく、開幕までにパビリオンの建設が間に合っていないという事態は絶対に避けなければならない。なんとか間に合わせるには工期が短くなるが、人手不足の中ではパビリオンの質を多少落とさざるをえなくなるだろう。万博の目玉、楽しみのひとつのパビリオンの魅力が下がれば入場者が減り、その分、当初想定していた経済効果が得られなくなるおそれがある」と指摘しました。
そのうえで「当初、予測していた収入が得られなくなった場合、その分、誰かが補填(ほてん)しなければならないという事態になりかねない。パビリオンの建物も大事だが、万博の魅力をカバーする中身自体がますます重要になってくる。万博に行きたいと思ってくれる人を増やす取り組みに力を入れないといけない状況だと思う」と話しています。
そして「人手不足や資材価格の高騰はこの1年2年で始まったものではない。もう少し早くリスクへの対応をとっておく必要があったと思う」と指摘しています。