大阪 高齢者施設の9割以上 5類移行後も面会に何らかの制限

新型コロナが5類へ移行されたことを受け、NHKは大阪の高齢者施設を対象に、入所者との面会制限やその影響についてアンケートで尋ねました。
その結果、移行後も、何らかの制限をしているという施設は9割以上にのぼり、施設で暮らす高齢者の生活にいまもなお、大きな影響が出ている実態が明らかになりました。

新型コロナの感染症法上の位置づけが5類へ移行されたことを受け、NHKは、先月(5月)、大阪府社会福祉協議会にアンケートの協力を依頼し、特別養護老人ホームなど府内470の高齢者施設を対象に▼入所者とその家族などとの面会に制限をしているかや、▼それによる影響などを尋ね、255の施設から回答を得ました。
それによりますと、5類への移行後、面会に何らかの制限をしているという施設は96.1%にのぼりました。
移行前では98.8%で、引き続き、施設で暮らす高齢者の生活に大きな影響が出ていることがわかりました。
5類移行後の制限内容を複数回答で尋ねたところ、▼時間制限が87.8%、▼人数制限が77.6%、▼身体接触の制限とパーティションの設置がともに41.2%でした。
さらに、直接の面会を制限する▼オンラインでの面会は21.6%、▼施設の窓を隔てた窓越しの面会は11.8%となっています。
回答を寄せた施設では88.2%がクラスターを経験したということで、移行後も制限を継続する理由について▼高齢者の重症化リスクはなくなっていないから、▼5類移行後の医療体制に不安があるため、などと回答しています。
また、面会制限による、認知症や認知症の疑いのある入所者への影響を尋ねたところ、半数を超える54.5%の施設が「影響があったと思う」と回答しました。
具体的には、▼表情や感情表現が乏しくなった、▼意欲が低下した、▼日にちや時間がわからなくなった、▼家族の顔を忘れた人がいたなどと回答しています。

【大阪 八尾の施設 面会の対応は】
認知症の人などが暮らす八尾市の特別養護老人ホームでは、これまで、入所者と家族などとの面会は窓越しに行ってきました。
先月(5月)の5類移行をきっかけに、同じ部屋の中で面会できるよう制限を緩和しましたが、それでも、パーティションを設置し、面会時間はわずか15分間です。
施設はトイレや洗面台など共有のエリアが多いうえ、去年2月にクラスターが発生し83歳の男性が亡くなっていて、家族などとの面会でも感染対策を継続せざるを得ないということです。
特別養護老人ホーム「信貴の里」の樋口昌徳 施設長は「感染拡大前は家族に施設に来てもらえるようイベントを開いたりして、こちらから積極的に呼びかけるくらい家族の存在は大切だと考えていました。今は家族にも会えない、外にも出られないことで入所者は間違いなくストレスを感じていると思います」と話しています。
今回、NHKが行ったアンケートでは、面会制限による施設の介護サービスへの影響についても尋ねました。
施設からは▼入所者の変化を家族に理解してもらうのが難しかった、▼家族と直接会う機会が減って電話での対応が多くなり、信頼関係を築くのが難しかった、▼家族との対面のやりとりが減って業務が単調になった、などとサービスに影響が出たという声が数多く寄せられました。
樋口施設長は「本来は感染拡大前のように家族に施設の中に入ってもらって、入所者へのサービス内容を一緒に考えていけるのが理想だと思います。ただ、クラスターのリスクはなくなったわけではなく、今後も、リスクを考慮しながら面会の方法を考えていかなければならないと思います」と話していました。

【入所者と家族は】
大阪・八尾市の特別養護老人ホームに入所する山下クミエさん(95)はこの2年間、施設を訪れた家族とは窓越しで面会を行ってきました。
山下さんは認知症と診断されていて、担当の介護士によりますと、よく孫の話をするなど、家族のことを気にかけているものの、窓越しの面会では娘や孫を認識できていないような様子がみられたということです。
一方、先月(5月)の5類移行に伴って同じ部屋の中でパーティション越しに面会できるようになり、娘や孫が山下さんが好きだった力士の話をしたり、マスクを取って話しかけたりすると、2人の顔を見ながら名前を呼んでいました。
面会に付き添った介護士の大平春菜さんは「家族と同じ空間でたあいもない話ができることは入所者にとって重要だと改めて感じました。山下さんもきょう家族が来てくれたことは忘れてしまうかもしれませんが、うれしい気持ちは残っていくと思います」と話していました。
面会のあと山下さんの孫の絵里奈さんは「対面で会えなかった2年間は長かったけど、きょうは私のことを分かってくれていたと思うし、近くで会えるようになってよかったと思います。今後は、感染が心配のない状況になって、食事なども一緒に行けるようになればいいなと思っています」と話していました。

【専門家“面会実現へ考えなければ”】
新型コロナ感染拡大後の高齢者施設の状況を研究する広島大学の石井伸弥 特任教授は、面会制限による認知症の人たちへの影響について「家族に会えなくなることで入所者は孤立し、刺激の無い生活を送ることになり、少しずつ意欲を失って認知機能や身体機能の低下が進んでしまったと考えられる」と話しています。
認知症の人たちにとって家族は「家族の歴史」を知る重要な存在だと指摘し、「直近の記憶が無くなってしまう認知症の人は、過去の記憶とひも付く家族と会ったり会話したりすることで、社会とのつながりや社会に属しているという感覚を持つことができる。認知症の人にとって家族はほかには代わりがいない存在だ」と話しています。
また、入所者の家族が施設に出入りしなくなったことで施設側の介護サービスにも影響があったと指摘し、「認知症のケアはその人らしさを尊重することが重要だと言われている。その人らしさについては家族から情報を得ることが多く、施設にとっては家族の出入りがなくなることで聞き取りの機会が減り、介護サービスの提供でも難しい部分があったのではないか」と話しています。
そのうえで、今後については、「制限をしながらでも、少しずつ、入所者と家族が時間を取り戻すことが重要だ。今後は、地域の感染状況や医療体制によって対応を変えるなど、感染対策とのバランスをみながら、どのように面会を実現していくのか、考えていかなければならない」と指摘しています。