暗号資産めぐるマルチ商法9人逮捕 若者中心に7億円集めたか
暗号資産の投資に関する契約をする際、必要な書面を交付しなかったなどとして、警察は大阪などで活動するマルチ商法のグループのメンバー9人を特定商取引法違反の疑いで逮捕しました。
若者を中心に2500人余りからおよそ7億円を集めたとみられ、警察が実態の解明を進めています。
逮捕されたのは、東京・港区の無職、坂本昴洋容疑者(33)や大阪の大学生などあわせて9人です。
警察によりますと、去年(令和4年)、大学生3人と暗号資産の投資に関する契約をする際、必要な書面を交付しなかったなどとして、特定商取引法違反の疑いがもたれています。
このグループは、ドバイに拠点があるとされる「マーケットピーク」という会社が扱う暗号資産への投資を呼びかけて大阪や東京で活動していて、顧客に新たな客を紹介させる「マルチ商法」の手口で会員を増やしていたとみられています。
勧誘の際にはタワーマンションの1室に呼び込むなどして「出資した金額に応じて暗号資産の配当が得られるほか顧客を増やせば8%の紹介料を支払う」などと説明していました。
しかし、出資した大学生から「十分な配当が得られず、返金を求めても返ってこない」などという相談が寄せられ、警察が捜査していました。
このグループは、20代の若者を中心に2500人余りからおよそ7億円を集めていたとみられ、警察が実態の解明を進めています。
9人の認否について明らかにしていません。
【出資大学生“一発逆転”】
同じ大学に通う知人に勧誘されて140万円を出資した男子大学生は、「大学で単位を落として、親にどなられて落ち込んでいたときに『一発逆転しないか』と言われてお金を払ってしまった。自分が弱っているところをつけこまれた」と当時の状況を振り返りました。
大学生は、去年、大学の知人からイベントに誘われて呼び出されましたが、イベントの会場には向かわず大阪市内のタワーマンションに連れて行かれました。
マンションの部屋には、知人のほか、面識のない若者が複数いて、マーケットピークの歴史やどのようにして利益を出すかなどについて3時間余り説明を受けたということです。
この時の説明では、投資する暗号資産は、1年後には数倍になっていて、毎週、一定の暗号資産が配分され52週間で必ず元本は戻ってくるというものでした。
その後、大学の成績で思うような結果が出せず、親との関係にも悩んでいるときにこの知人から「一発逆転をしないか」と再び、勧誘を受けました。
大学生は「稼いだら大学に行かなくてもいいんだ」という気持ちになり、出資を決めたということです。
お金を振り込みに行く際、無理やり消費者金融に連れて行かれて借金をするよう迫られましたが、自分の貯金から140万円を支払ったということです。
このとき、書面での契約のやりとりはありませんでした。
1度、出資をすると、今度は、周囲の人や友人を勧誘するよう求められ、「1人につき出資額の8%を支払う」と言われたということです。
数人の友人に電話をかけましたが、相手が電話に出なかったため契約には至りませんでした。
数か月後、暗号資産が暴落したため、返金を求めたところ知人と連絡が取れなくなったということです。
出資してからおよそ1年がたちますが、これまでに配当があったのは、出資額の5分の1程度で、知人にはSNSをブロックされて、音信不通の状態が続いています。
大学生は、「自分が弱っているところにつけこまれて、手を出してしまった。とにかく全額返してほしい」と話していました。
【大学“周りに相談を”】
大学生がマルチ商法のトラブルに巻き込まれていることを受けて、大学側は学生に注意を呼びかけています。
大阪・東大阪市にある近畿大学では、学生部の相談窓口にマルチ商法などの金銭トラブルに巻き込まれたという相談が、毎年数件、寄せられるということです。
友人やバイト先の先輩だけでなく見知らぬ人からも「投資法があって、人に紹介するともうかる」とマルチ商法の勧誘を受けるケースがあるといいます。
学生が、こうしたトラブルに巻き込まれないよう、大学は入学時に勧誘の手口を示した「マナー防犯ガイドブック」を配布しています。
また、夏休みや春休みなど長期休みの前には、「マルチ商法や勧誘には注意してください」と注意を呼びかけるメッセージをポータルサイトに掲載するとともに、メールでも個別に送信しているということです。
近畿大学学生部の小野聖矢さんは、「しっかり話を聞いたうえで、警察など適切な相談窓口を案内しています。学生の中には、今までに経験したことのない大きな金額を払ったのに戻ってこないということにショックを受けて、誰にも相談できていない人もいると思います。最初から警察でもいいですし、難しければ大学の職員に相談してほしいです」と話していました。
【若者のトラブル相談相次ぐ】
暗号資産への投資などのもうけ話を持ちかける「モノなしマルチ商法」に関する相談は昨年度(2022年度)、全国の消費生活センターなどに3537件寄せられ、このうちの半数が10代と20代からの相談となっています。
「モノなしマルチ商法」は、物品の販売ではなく、暗号資産への投資などのもうけ話や投資を持ちかけて友人を紹介すれば紹介料が得られるなどと勧誘するもので、若者を中心にトラブルが相次いでいます。
国民生活センターによりますと、昨年度、全国の消費生活センターなどに3537件の相談が寄せられ、このうち、関西の2府4県では516件でした。
また、全国に寄せられた相談のうち、10代と20代からの相談が1692件と47.8%を占めています。
友人やSNSを通じて知り合った人物からもうけ話を持ちかけられ、中には消費者金融で借金をさせて出資させるケースもあるということです。
国民生活センターは、もうけ話の実態や仕組みがわからない場合は契約しないよう呼びかけていて、トラブルに巻き込まれた場合は、消費者ホットライン「188」に相談してほしいと呼びかけています。
【専門家“若い人が被害に”】
投資トラブルに詳しい国府泰道 弁護士は「若い人たちのなかで投資がブームとなっているほか、成人年齢が引き下げられて、18歳以上が取り引きできるようになったので、投資経験の無い人たちが被害に遭っているというのが特徴だ。お金がなくても消費者金融で借金をさせて投資させる手口が多い」と指摘します。
さらに、マルチ商法の手口で被害が拡大しているということで「友達から誘われることで信用してしまうケースが多い。そのうえで、勧誘する人たちは外車や高級な腕時計を見せびらかしたり、タワーマンションに暮らす様子を見せつけて『君も僕のようにならないか』と声をかけている。マルチ組織は勧誘を受けた時点では被害者的な立場だが、友人を勧誘すると今度は加害者の立場に移ってしまう」としています。
また、最近では、SNSやマッチングアプリを通じて、まったく知らない人物から勧誘されているにもかかわらず、もうけ話にのってしまい、トラブルになるケースもあるということです。
国府弁護士は、「若い人たちのリテラシーを高め、『投資で月に5%』などと言われた時点でうそだと思う能力が必要です。絶対に損はしないと勧誘されることが多いが、投資で簡単にもうかることはなくリスクがつきものなので、十分に注意を払ってほしい」と呼びかけています。