トラック運転手“過労死” 遺族が運送会社に賠償求め提訴

4年前(2019年)、大阪・交野市の運送会社のトラック運転手の男性が運転中に心筋梗塞で亡くなり、直前の1か月の時間外労働が、「過労死ライン」の100時間を超えていたことなどから、遺族は、会社が長時間労働の対策を講じずに過重な業務を命じたためだとして賠償を求める訴えを起こしました。

訴えを起こしたのは、交野市の運送会社で働いていた京都府に住む52歳のトラック運転手の男性の母親です。
男性は4年前、運送業務でトラックを運転中に心筋梗塞を発症して病院に搬送されましたが、死亡しました。
男性は、▼亡くなる直前の1か月の時間外労働が、「過労死ライン」とされる100時間を超えていて、時間外労働が199時間余りに上った月もあったほか、▼勤務終了から開始までの「インターバル」が1時間未満のときもあったということで、去年(2022年)9月、北大阪労働基準監督署が労災認定しました。
男性の母親は、会社が長時間労働の対策を講じず、過重な業務を命じたなどとして、5400万円余りの損害賠償を求める訴えを大阪地方裁判所に起こしました。
男性は、当時、京都府で1人暮らしをしながら香川県にある実家に毎月、仕送りをしていたということです。
母親は、「ゆくゆくは一緒に暮らそうという話もしていたやさきで、息子に先立たれるとは思ってもいなかったのでつらい気持ちでいっぱいです」とコメントしています。

【亡くなった男性の弟“兄と遺族に謝罪を”】
遺族の代理人の弁護士によりますと、男性の弟は、兄の勤務記録を見たときに、ありえない労働時間だと思ったということです。
男性の弟は「私もドライバーとして働いていますが、違法な長時間労働が原因で兄の命は奪われたのだと確信しました。私も母も突然、兄がいなくなったことにいまも苦しんでいます。会社には長時間労働のせいで兄の命が失われたことにきちんと向き合い、兄と私たち遺族に対して謝罪してほしい」とコメントしています。

【会社“コメントできない”】
訴えを起こされたことについて、運送会社の「田平陸送」は、「担当者が不在なのでコメントできない」としています。

【“過酷な勤務状況” 開示資料から明らかに】
労働基準監督署が開示した男性が亡くなる直前の1か月から6か月の間の勤務時間をまとめた資料からは、過酷な勤務状況が明らかになりました。
男性が亡くなった4年前(2019年)の8月の直前の1か月間の時間外労働は、「過労死ライン」とされる100時間を超え、124時間余りに上りました。
時間外労働が199時間余りに上った月もあり、直前の6か月間は、連続して100時間を超えていました。
早朝から深夜まで勤務する日も多く、勤務終了から開始までの「インターバル」も数時間程度の短い日が目立ちます。
亡くなる4か月前の4月18日には、男性は、午前3時52分に出勤し、20時間近く働いたあと、午後11時49分に退勤。
その54分後の19日午前0時43分に出勤したと記録されています。
さらに、亡くなる1か月前の7月2日には、午前7時33分に出勤し、翌日の午前0時24分に退勤したあと、わずか32分後の午前0時56分に再び出勤したという記録もありました。

【運送業は長時間労働が課題】
トラックやバス、タクシーの運転手をめぐっては、長時間労働が課題となっています。
2021年度の厚生労働省の調査によりますと、脳や心臓の病気で労災認定された件数は、トラックの運転手などを含む「道路貨物運送業」は56件で、全産業の中で最も多く、2番目の「総合工事業」(11件)より5倍も多くなっています。
こうした問題を受けて、国が定める働き方のルールが改正され、労働時間と休憩時間を合わせた拘束時間の年間の上限が来年(2024年)から大幅に引き下げられることになっています。
また、改正されたルールでは、勤務終了から次の勤務開始までの「インターバル」について、現在の8時間から、11時間以上あけることを努力義務とし、最低9時間は確保すべきだとしています。
男性の母親の代理人の古川拓 弁護士は、「トラックの運転手は、昼夜問わず走ったり、暑くても寒くても運転したり過酷な状況で働く業種で、拘束時間が長くなる傾向にあって、統計的にも、過労死が多く危険が明らかになっている。今回も長時間労働の規制が猶予されてきた結果起きた悲劇であり、早急に是正してもらいたい」と話しています。