京都 保津川下り転覆事故1か月“緊急時の備え不十分”対策へ

先月(3月)、京都府亀岡市で「保津川下り」の舟が転覆し船頭2人が死亡した事故から28日で1か月となります。
運航会社では、運航を休止し、安全対策を再検討していますが、緊急時の備えが不十分だったとして改善策を講じるとしています。

先月28日、京都府亀岡市の通称、保津川で、観光客25人と船頭4人の合わせて29人が乗った川下りの舟1そうが転覆し、全員が一時川に投げ出され、船頭の男性2人が死亡しました。
運航会社は、後方にいた船頭がかじの取り方を誤って川に転落したことをきっかけに岩にぶつかり転覆にいたったとみていて、警察と国の運輸安全委員会が事故の原因を詳しく調べています。
一方、運航会社では、事故後、運航を休止し、安全対策を再検討しています。
このうち、救命胴衣については乗客全員が着用していたとしていますが、自動的にふくらんで水に浮くタイプだけでなく、ひもを引っ張ることでふくらんで浮くようになるタイプの救命胴衣も使われていました。
ひもを引っ張るタイプの救命胴衣を着用していた乗客はNHKの取材に対し、「救命胴衣をうまく操作できず一度水中に沈んでしまったが、近寄ってきた船頭がふくらませてくれ、浮上することができた」と証言しています。
運航会社では、使い方などを十分説明できていなかったおそれがあるとして、救命胴衣の種類や説明方法を見直したいとしています。
また、消防への通報が転覆から30分後と遅れたことについては、携帯電話がつながりにくく、状況の把握に時間がかかったなどとして、改めてコース上の通信環境を詳細に把握し、すべての舟に無線機を積むなど改善したいとしています。
保津川下りの運航再開の見通しは立っておらず、再開に向けては、安全対策をどこまで万全にできるかも問われることになります。

【運航会社 献花と黙とう】
28日は保津川下りの舟の乗り場には献花台が置かれ、運航会社の担当者などが花を手向けて亡くなった船頭2人を悼みました。
このあと取材に応じた保津川下りの運航会社、「保津川遊船企業組合」の豊田知八 代表理事は「船頭の死と乗客にこわい思いをさせてしまったことに向き合って、なぜ事故が起きたのか一丸となって調査している。事故を起こさないためどうすべきか、起きたときに何をすべきか専門家の指導も受けながらトータルで考え、再発防止に向けた改善策を考えていきたい」と話していました。

【運航会社 抜本的見直し】
保津川下りの運航会社、「保津川遊船企業組合」では事故後、独自に事故を検証する組織を設け、安全対策を再検討する抜本的な見直しを進めているということです。
この中では、救命胴衣の使い方や通信手段の確保などの緊急時の備えについて課題が浮き彫りになっていて、改善策を講じたいとしています。
そして、現時点では万全な運航体制が構築されていないとして、5月末までの運航を中止するとし、運航再開の時期は未定としています。
「保津川遊船企業組合」の豊田知八 代表理事は「400年続いた保津川下りで事故を起こしたことへの責任を感じている。課題は多いと思うが、事故を起こさないためどうすべきか、起きたときに何をすべきか専門家の指導も受けながらトータルで考え、再発防止に向けた改善策を考えていきたい」と話していました。

【専門家“行政の関与を”】
船の事故に詳しい海難防止政策が専門の東海大学の山田吉彦教授は、「船の事故は生き死にに直結するもので、決して起きてはいけない」としたうえで、「川舟というのは海上保安庁が所管する海のマリンレジャーと違って監督官庁の監督が都道府県の観光レベルで非常にゆるい。例えば、エンジンがついていない舟は免許もいらない。安全確保をどう指導していくか、行政の管理体制も問われているのではないか」と指摘しています。

【乗り場は閑散】
事故から1か月となった28日も、運航が休止されている保津川下りの乗り場では人の姿は見えず、閑散としています。
高齢の父親と散歩に訪れた40代の女性は、「運航していたときは観光バスも行き交いにぎわっていたが、今はその姿も見えず、寂しい。景色がとてもよい観光地だが、ここがにぎわってくれないと亀岡全体がにぎわってこないと思う」と話していました。

【専門家“必ず救命胴衣を”】
長年、さまざまな水難事故を調査・分析してきた水難学会の斎藤秀俊 会長は大型連休の時期も水の事故に注意してほしいと訴えています。
斎藤さんは「この時期は、釣りの際に足を滑らせて落ちたり、キャンプに来た際に川に入って遊んでいるうちに流されたりするケースが目立つ」と指摘します。
日中の気温が高くなる一方、川の中は10度や15度といった冬のような水温のままなので、水中に落ちれば体が冷えて急に動かなくなり重大な結果につながるおそれがあるということです。
斎藤さんは、「水辺では必ず救命胴衣を着用してほしい。川遊びをする際は、救命胴衣を着用したうえで、ひざ下くらいまでの水深で遊べば事故はだいぶ防げる」と呼びかけたうえで、「水辺では常に事故は起こるものだと考えて、自分と家族の命、特に子どもの命を守ってほしい」と強調していました。

【救命胴衣の種類と注意点】
救命胴衣を製造しているメーカー、「高階救命器具」の谷口力也さんによりますと、救命胴衣には身につけるだけでそのままで浮く「ベスト型」と、ガスを使ってふくらませ浮力を得る「膨張型」があります。
「膨張型」は畳まれた状態では体に接する部分が少ないため、ベスト型より夏場は快適で人気があるということです。
膨張型には、首にかけるタイプと腰に巻くタイプがあり、いずれも、ひもを引っ張ってふくらませる手動式とセンサーが水を感知して自動でふくらむ自動式の2種類があるということです。
ただ、手動式は、慣れていないといざというときに操作できないおそれもあるため、初めて使う人には自動式が適しているのではないかとしています。
一方で、「膨張型」は高価で定期的なガスの交換など、維持費もかかることから、迷っている人には安価で特段の手入れがいらないベスト型をすすめているということです。
谷口さんは「それぞれ正しい使い方があるので、購入したのであれば説明書をよく読み、借りる場合はしっかり説明を受けてほしい」と話していました。