シリーズ南海トラフ巨大地震 “垂直避難”課題も

シリーズ南海トラフ巨大地震。
13日は最大で2メートルの津波が押し寄せると想定されている大阪・梅田での避難について、さらに詳しくお伝えします。
津波から命を守るためには、2つの避難方法があります。
浸水想定区域の外に逃げる「水平避難」。
そして、頑丈な建物の3階以上へ避難する「垂直避難」です。
梅田でも、このいずれかで安全な場所に逃げる必要があります。
今回お伝えするのは、「垂直避難」についてです。
梅田にはたくさんのビルがあります。
このうち大阪市と協定を結んだ「津波避難ビル」もあります。
しかし、今回取材の対象とした範囲では、11棟しかありません。
収容できる人数は1万人余りです。
梅田周辺にはおよそ5万人がいることもあり、全員を受け入れるスペースはありません。
災害時には、「津波避難ビル」以外のビルへも多くの人が逃げ込むことになるとみられます。
こうしたビルを取材すると、さまざまな課題が見えてきました。

【受け入れ想定ビルも不安】
避難の受け入れを想定して準備を進めているビルも、いざというときにどう対応すれば良いか不安を感じているといいます。
このうち大阪工業大学梅田キャンパスのビルでは、大学関係者の分と合わせて750人の避難を想定して、5日分の食料や水を備蓄しています。
緊急的な一時避難に対応するだけなのか、長期間の避難になるのかによって受け入れ可能な人数は大きく異なってくるといいます。
大阪工業大学ロボティクス&デザイン工学部の防災担当、宇川幹夫事務室長は「地震が発生したとき建物内にどれだけの人がいるかによって外の人をどの程度受け入れられるか変わりますが、期間が3〜4日となると、備蓄品も限られているので、悩ましいところです。受け入れる人数によって研究エリアの開放も考えなくてはなりませんが、研究資料などの知的財産があるので、管理面での懸念もあります」と話しています。
そのうえで、行政に対して、▼備蓄品の準備や▼孤立しないための態勢づくりについての支援を求めるとともに、▼避難者の受け入れの期間などについて目安を示してほしいとしています。

【専門家“行政の支援を”】
災害時の避難行動に詳しい大阪公立大学の生田英輔教授は今回の結果について、「多くの人が逃げ込む可能性がある梅田で、半数しか受け入れを想定していないのは不安が多い」と指摘しています。
受け入れを想定していないビルについて、生田教授は「いざというとき、どんどん避難者が来る可能性があり、実際に『受け入れない』という対応を続けられるかは疑問がある。受け入れ態勢の構築は難しいかもしれないが、なんとか受け入れられるように想定しておくのがビルにとっても最も安全だ」と話しています。
そのうえで、受け入れに前向きになってもらうには、行政の支援が不可欠だとして、「不安を取り除くために損害があった場合の補償や、避難期間をあらかじめ決めておくことが大前提だと思う。周りのビルや地域の方と一緒に訓練をする機会を設けることも行政の役割ではないか」と話しています。
また、複数の事業者が入るテナントビルについては、ふだんから顔の見える関係を作っておき、災害が起きたときの対応について事前に話し合ったり、計画を作って訓練を行ったりしておくことが重要だとしています。
さらに、観光客など土地勘のない人も含めて多様な人が訪れる梅田の特性を踏まえた事前の対策が必要だと強調します。
生田教授は「災害時にその現場にいる人たちが多様である場合は、混乱が大きくなると一般的に言われている。梅田は、人が多いだけでなく、さまざまな属性の人が入ってくる街で、災害時にはより危険な状態となる。観光客も回復してきていて、人を集める魅力ある街という意味では非常に良いことだが、災害リスクを上昇させることになっていると認識しなければならない。行政は、人を呼び込む対策と同時に、災害対策も並行して進める必要がある」と話していました。

最後に、命を守るためにとってほしい行動を改めてお伝えします。
「垂直避難」と「水平避難」。
梅田に津波が到達するまで2時間半あると想定されていて、逃げる時間は十分あります。
ビルに逃げ込む垂直避難と、浸水域の外に出る水平避難。
梅田の場合は新御堂筋より東に行けば、浸水域から出られます。
落ち着いて、どちらかの行動をとってください。