JR立往生で乗客長時間閉じ込め 融雪装置使う降雪想定せず
24日夜からの大雪の影響で立往生した列車に乗客が長時間、閉じ込められる事態となったことを受けて、JR西日本は、25日午後、記者会見を開きました。
この中で、会社は、線路のポイントの雪をとかす装置を使うほどの降雪を想定していなかったとしたうえで、急激な雪でポイントが切り替わらなくなったことが立往生の原因だと明らかにしました。
JR西日本は、25日午後3時から大阪市内で記者会見を開き、大雪による列車の立往生の経緯や乗客への対応について説明しました。
それによりますと、京都線や琵琶湖線などでは24日午後7時ごろ、京都府向日市にある向日町駅構内で線路のポイントが切り替わらなくなったのに続き、山科駅や京都駅の構内、あわせて21か所で切り替えができなくなりました。
この結果、あわせて15本の列車が動けなくなり、乗客が降りるまで最大でおよそ10時間かかったということです。
JRでは、予想降雪量が10センチを超えた場合、線路のポイントの雪をとかす装置を使うことにしていますが、京都駅周辺では8センチ程度の降雪を見込んでいたため、装置を使う準備をしていなかったということです。
実際には想定を上回る雪が急激に降った結果、ポイントに雪が挟まるなどして切り替えられなくなり、列車の立往生が発生したとしています。
また、一時、およそ7000人が車内に閉じ込められたことについては、乗客を駅で降ろすためにポイントを復旧させる作業を優先したものの、想定以上に時間がかかったことが要因だとしています。
JR西日本近畿統括本部の三津野隆宏 本部長は記者会見で「多大なるご迷惑をおかけしたことをおわび申し上げます。夜中に雪が降る中でお客様に列車から降りていただくことをちゅうちょし、電車を降りてもらうと判断を下すまでに時間がかかった。判断のプロセスが正しかったか、検証していきたい」と述べました。
【専門家“現場の確認を”】
今回のJR西日本の対応について、関西大学社会安全学部の安部誠治 教授は、「ポイントがここまで同時に作動しなくなるのは非常に珍しく、対処しきれなかったのではないか。天気予報を参考にしていたとのことだが、予報は広域で出されるのでピンポイントでは違うこともある。予報だけでなく、実際に現場をよくみて判断することも必要だ」と指摘します。
そのうえで、乗客が長時間、車内に閉じ込められる事態となったことについて「不具合が相当数あったのだから、ポイントの復旧を急ぐのではなく、もっと早く乗客を降ろすことを判断するべきだったと思う。冬場なのでためらうこともあるが、日頃から訓練するなどして備えてもらいたい」と述べました。
【線路のポイントとは】
JR京都線の運転見合わせの原因となった線路のポイントを切り替える装置は列車の進路を変更するもので、雪が積もると装置が動きにくくなる特徴があります。
列車の進路を変えるために線路のポイントを切り替える装置は「転てつ機」と呼ばれます。
日本民営鉄道協会などによりますと、この装置は駅のホーム周辺や車両基地の線路に設置されることが多く、本線とは別のレールを動かすことで列車の進路を変え、進入するホームを切り替えたり、点検用の作業車を本線に入れたりするために使われるということです。
そのため、この装置がうまく作動しないと、ダイヤが乱れるなど、運行に大きな支障が出るといいます。
また、雪が詰まってしまうと、作動することができないことから大雪を伴う厳しい寒さが弱点とされていて、鉄道各社では、灯油で火をたいたりヒーターを使ったりして雪をとかす機械を導入するなど対策をとっています。
【電車閉じ込め 何が起きていたのか】
当時、何が起きていたのか。
乗客などへの取材からわかってきました。
<午後8時ごろ相次いで電車止まる>
25日午後8時前後、JRの京都線や琵琶湖線、湖西線などで、電車が相次いで動かなくなりました。
湖西線を利用した滋賀県に住む男性は、午後7時20分ごろに、京都駅を出発した電車に乗りましたが、隣の山科駅に着く前に、線路の上で電車は止まってしまいました。
それから7時間半余り、車内に閉じ込められた状態が続きます。
また、京都線を利用した20代のインストラクターの女性は、午後6時半ごろに大阪駅から乗車しましたが、午後7時半前、京都駅に到着する前に電車が止まったということです。
京都線に乗っていた別の男性も、午後7時すぎに大阪駅を出発し京都方面に向かっていたところ、1つ手前の西大路駅で午後8時ごろ停車し、その後動かなくなったということです。
JR西日本が、京都線や琵琶湖線が運転見合わせになると発表したのは、このころでした。
<車内で体調不良の人も相次ぐ>
一度止まった電車はなかなか動かず、乗客は長時間、車内に閉じ込められることになりました。
乗客らによりますと、車内で「ポイントの故障があった」とか「今しばらくお待ちください」というアナウンスがあったということですが、運転再開のメドについては情報が少なかったといいます。
乗客は互いに席を譲り合うなどして過ごしたということですが、中には数時間、立ったままの人もいました。
JR湖西線の電車に乗っていた男性によりますと、閉じ込めから3時間ほどが経過すると、徐々にトイレに行く人が増えて、トイレのある車両に人が集中したということです。
そして、体調不良を訴える人が相次いだということです。
他の電車でも、閉じ込めから数時間が経過すると、非常ボタンが何度も押され、車掌が「乗客の中に医者や看護師はいないか」などと尋ねることもあったということです。
また、救急隊員が体調の悪い人がいないかを確認する「トリアージ」のような対応が行われた車両もありました。
JR京都線などの沿線にある消防によりますと、今回の閉じ込めではあわせて13人が体調不良で救急搬送されたということです。
<なぜ乗客を早く降ろせなかったのか>
駅と駅の間に止まった電車では、数時間が経過してから乗客が線路の上を歩いて移動したケースがありました。
JR湖西線に閉じ込められていた男性がようやく外に出たのは午前2時半ごろ。
閉じ込められてから、7時間半が経過していました。
雪の積もった線路の上を歩き1時間ほどかけて最寄りの山科駅にたどり着いたということです。
この男性は「JRはもう少し早く対策をとれなかったのかと思う」と話していました。
JR京都線を利用した20代のインストラクターの女性も「体調が良くない人もいる中でなぜ電車から降ろす判断ができなかったのか」と疑問を話していました。
<電車を降りたあとも>
電車を降りたあとにも課題が見えました。
長時間の電車の遅れで自宅などに帰る交通手段がなくなってしまった乗客が多数に上りました。
線路を歩いて山科駅に到着した男性は、建物ではなく、市が用意した地下通路で過ごしたということです。
また、別の男性が、JR京都線で午前1時半ごろに京都駅にたどりついたときは、駅の商業施設やレストランなどは閉店してシャッターが閉まっていて、雪が吹き込むような半屋外のスペースで過ごすしかなかったといいます。
周辺のカラオケや漫画喫茶も満席だったため、この男性は近くで車を借りて、その中で休憩しながら朝を迎えたということです。
【電車から降りて 線路上を歩き駅へ】
25日午前2時半ごろ、JR湖西線の線路上を歩いていた乗客が撮影した映像には、雪が積もった線路の上をほかの人ともに歩いている様子がうつっています。
また、映像の左手には、停車した電車が写っていて、車内に人が残っているのが確認できます。
撮影した20代の男性は、24日午後7時半ごろ、帰宅するため京都駅から湖西線の電車に乗車しましたが、午後7時45分ごろ、山科駅の手前で停車したということです。
その後、午後11時ごろ、先頭の車両の乗客から順に下車するよう車内でアナウンスがあり、体調不良を訴えていた乗客から降りていきました。
後方の車両にいたこの男性が下車できるようになったのは、25日午前1時半から午前2時ごろだったということで男性は案内に従い、午前2時半ごろに下車して、20分から30分ほどかけて、雪が積もる線路の上を歩いて山科駅に向かいました。
男性がいた車両の近くにトイレがあったため、利用する乗客で混雑し、過呼吸のような症状になっていた人も数人見られたということです。
男性は「ふだんは列車の遅延などはあまり気になりませんが、こんなに長時間、閉じ込められるとは思わず、本当に疲れました。体調を崩した人もいたので、早く外に出してもらいたかったです」と話していました。
【車内の乗客に簡易トイレも】
24日夜、JR京都線の運行見合わせで5時間にわたって車内から出られなかったという40代の男性は、停車した列車内で、乗客からトイレに行きたいという声が相次ぎ、車掌が簡易トイレを持ってきたと話していました。
男性によりますと、24日午後6時すぎ、仕事を終えて家に帰るためJR京都線で吹田駅から京都駅に向かっていましたが、京都駅に着く直前で列車が止まってしまい、午後11時すぎまで5時間にわたって車内から出られませんでした。
この間、車内の温度が下がって体調が悪くなる人や、トイレに行きたいという人が相次ぎ、「早く駅まで動かしてくれ」とか「歩いて移動したいのでドアを開けてほしい」などと非常ボタンで訴えていました。
その後、車掌が、袋型の簡易トイレを持ってきたということで、「女性の乗客が1つの車両に集まって用を足したようだ」と話していました。
男性は、「自分も我慢するのが限界で、空のペットボトルで用を足そうかとギリギリまで考えました。車掌を通じて要望しても、駅の係員は応えてくれず、絶望的な空気が車内を覆っていました」と話していました。
【体調不良の訴えも】
滋賀県の湖南広域消防局によりますと、JR琵琶湖線の運転見合わせの影響で24日夜から帰宅できず草津市のJR草津駅にいた女性から、25日午前7時すぎに「気分が悪い」と119番通報があり、病院に搬送したということです。
【電車内で一晩過ごした乗客は】
大雪の影響でJR琵琶湖線が大幅に遅れている影響で25日午前、滋賀県守山市にあるJR守山駅には、大勢の利用客が集まり、運転の再開を待っていました。
一方、京都方面からは大幅に遅れた電車が少しずつ到着していて、一晩を電車内などで過ごした乗客は疲れた表情で降りてきました。
京都のJR山科駅に停車した電車で一晩を過ごしたという60代の男性会社員は「電車内は暑くてむしむしして汗をかいていて、中には体調不良を訴える客もいました。電車の中ではみんな座ったまま眠っていて疲れている様子でした」と話していました。
また、25日未明から午前6時ごろまでの間、大阪・高槻市のJR高槻駅に停車した電車で過ごしたという40代の会社員は「大阪から自宅に帰る途中で、私は座ることができたので良かったですが、別の電車に乗った知り合いは立ったままだったと言っていました。車内は比較的すいていましたが寒かったです」と話していました。
また、旅行先の福岡の博多から守山市の自宅に帰る途中、運転見合わせの影響で移動できなくなり、新大阪駅でJRが休憩のために用意した新幹線で一晩を過ごしたという50代の男性もいました。
男性は「きょう午前5時ごろまで新幹線の車内で過ごしました。みなさん静かに寝ていてパニックなどはありませんでした。早く家に帰ってお風呂に入りたいです」と話していました。
【京都 臨時の受け入れ施設では】
京都市は、大雪の影響で帰宅することが困難な人を受け入れるため、JR山科駅の近くにある市の生涯学習総合センターを開放しました。
施設にいた市の担当者によりますと、25日午前1時から2時ごろに施設を開放し、最大でおよそ200人が滞在していたということです。
訪れた人たちには、市やJRなどから飲み物やおやつ、それにブランケットなどが配られました。
京都市営地下鉄や京阪電鉄の京津線が運行したことが知らされると、滞在していた人たちは徐々に施設をあとにしていましたが、午前6時半の時点でまだおよそ100人が滞在していたということです。
施設に滞在していた滋賀県の50代の会社員の女性は、「長い間電車に乗って疲れました。今から帰るために、電車が動くまで待っていますが万が一電車が動かない場合はここからタクシーを呼ぼうと思います」と話していました。
滋賀県に住む40代の会社員の男性は、「現場の方は一生懸命やってくれていたと思うが、JRの判断が遅いと感じました。今から家に帰って、きょうの仕事は半休を取ろうと思います」と話していました。
【滋賀 待機所で休む人も】
大雪の影響でJR京都線と琵琶湖線が運転を見合わせて帰宅できなくなった人が多数出たことを受けて、滋賀県の守山市と野洲市は24日夜から待機場所を設けました。
このうち、守山市は、JR守山駅から500メートルほどの場所にある市民の交流施設、「あまが池プラザ」に待機場所を設け、一時、40人余りが利用しました。
施設の利用者は、スマートフォンで交通情報を確認したり、市から配布された毛布をかけて休んだりしていました。
24日、仕事で守山市を訪れ、JRの運転見合わせで京都まで帰ることができなくなった60代の男性は、「昨夜11時ごろ、駅でタクシーを待つ列に並んでいた時に市の職員に声をかけられてここに来ました。市から配られたおにぎりやカップラーメンなどを食べて一晩過ごしました」と話していました。
待機施設の利用者が全員、移動を始めたため、25日午前10時すぎには閉鎖されたということです。
また、野洲市ではJR野洲駅のすぐ近くにある「野洲文化小劇場」を待機場所として提供し、市によりますと、一時、200人以上が施設を利用したということです。
【京都市 “約5000人が滞留”】
京都市によりますと、雪の影響でJRの列車が乗客を乗せたまま駅の間で動けない状態になり、▼京都駅でおよそ2300人、▼山科駅でおよそ1750人、▼西大路駅でおよそ1200人の、あわせておよそ5000人が列車や駅周辺で滞留を余儀なくされたとしています。
【京都市“滞留の把握はSNSから”】
24日夜、京都では雪の影響でJRの運行が見合わせになったことで駅に多くの人が滞留し京都市が市の施設で一時的に受け入れました。
市が状況を把握したのは、SNSへの投稿を見たことがきっかけだったということで、市は日頃からJRなど関係機関との連携を密にすることが重要だとしています。
JR京都線と琵琶湖線で列車の運転が見合わせになったことで、24日夜、京都のJR山科駅や京都駅では、移動できなくなった多くの人が滞留しました。
京都市の防災危機管理室は、24日午後10時ごろからSNSに投稿された画像などからこうした状況を把握し、急きょ現場に職員を派遣したところ、山科駅では、人が駅舎に入りきらないなどの可能性があることがわかったということです。
これを受けて、JRとも連絡をとって受け入れ施設を探し、午前0時ごろから、▼JR山科駅近くにある市が管理する施設と、▼山科駅と京都市営地下鉄の駅をつなぐ地下連絡通路へ乗客を誘導し、防寒用のアルミ製のブランケットを配布したということです。
京都市防災危機管理室の杉井完治 防災課長は「雪が降る前に10年に一度級という話があり、きちんと対応しなければと考えていたが、想定を上回る量の雪が早くから降り始め、帰宅時間と重なってしまった」と振り返りました。
そのうえで「関係機関と日頃から連携して情報共有し、互いにできることをすりあわせることが大事だと痛感した」と話し、日頃からJRなど関係機関との連携を密にして、緊急時に備えることが重要だという認識を示しました。
【京都 開店時間遅らせるデパートも】
大雪で、JR京都線が始発から運転を見あわせたことなどの影響で、京都市内のデパートでは、開店時間を遅らせたところもありました。
京都市下京区のJR京都駅と直結した「ジェイアール京都伊勢丹」は、通常は午前10時の開店時間を25日は2時間遅らせて正午としました。
店では、大雪の影響で、JRが始発から運転を見合わせたり、私鉄やバスにも遅れが出たりしていたことなどから、従業員に安全に出勤してもらうためとして、25日急きょ、遅らせることを決めたということです。
正午ごろになると、買い物客が店の前に集まり、正午になって従業員が扉を開けると、待っていた200人余りが続々と中に入っていきました。
このデパートには、およそ6000人の従業員が働いていますが、24日、帰宅できずに、店内の休憩所などで一晩を過ごした人もいたということです。
「ジェイアール京都伊勢丹」の総務部の小山震也 担当部長は、「台風で急きょ、開店時間を遅らせたことは過去にもありましたが、雪では初めてで、お客さまには十分に安全を確保してからご来店いただきたいです」と話していました。
このほか、京都市内では、雪の影響で、▼右京区の「東映太秦映画村」が25日休業したほか、▼雪が建物の中に吹き込んだ山科区の「随心院」など、25日、拝観を中止する寺や神社もありました。