通園バスに取り残し 大阪府内4自治体で計5件 各地の事例は

子どもが通園バスの車内に取り残されたケースについて、NHKが大阪府内のすべての自治体に取材したところこれまでに4つの自治体であわせて5件、起きていたことがわかりました。
なかには夏場に5時間取り残されて救助されたケースもあり、専門家は「事例を集めて共有し、対策に生かすことが大切だ」と指摘しています。

今月5日、静岡県牧之原市の認定こども園で3歳の女の子がおよそ5時間にわたって通園バスの車内に取り残され、熱中症で死亡しました。
NHKは、大阪府と府内43すべての市町村に対し、これまでに幼稚園、保育園、認定こども園などで子どもが通園バスの車内に取り残された事案がなかったか取材しました。
その結果、大阪市、守口市、高槻市、河内長野市の4つの自治体であわせて5件、起きていたことがわかりました。
このうち、▼大阪市の保育園では平成26年7月、2歳の男の子がおよそ5時間にわたって取り残されて救助されたほか、▼守口市の認定こども園では去年11月、2歳の男の子がおよそ1時間半にわたって取り残されていました。
すべてのケースで、子どもの体調に問題はありませんでした。
教育現場の危機管理に詳しい東京学芸大学教職大学院の渡邉正樹教授は、「全国で調査すればさらに多くの取り残しが確認されるのではないか。『ヒヤリハット』の事例を全国的に集めて他の園とも共有し、事故を防ぐ対策として生かすことが大切だ」と指摘しています。

【大阪市でのケースは】
大阪市では、平成26年(2014年)7月、市内の保育園で通園用のワゴン車の中に2歳の男の子がおよそ5時間、取り残されました。
運転手が気づいて発覚し、男の子は病院に運ばれましたが、体調不良やけがはなかったということです。
市は、保育園に対して再発防止策をとるよう指導したということです。

【守口市でのケースは】
守口市では去年11月、2歳の男の子が1時間半、通園バスに取り残されました。
守口市などによりますと、福岡県で起きた事件のおよそ4か月後の去年11月、市内の認定こども園で2歳の男の子が通園バスで登園したあと、そのまま車内に取り残されました。
午前11時ごろまでのおよそ1時間半にわたりました。
男の子にけがはなく、体調にも問題はありませんでした。
この日、こども園では園児全員が近くの神社を訪れる七五三のイベントがあり、イベント後、神社から戻った担任が登園の際に親から預かるかばんがあるのに男の子の姿がないことに気づいて発見しました。
担任は福岡県の事件が頭をよぎってバスの中を確認したということです。
守口市ではその後、大阪府に報告したうえで共同で監査を行ったほか、市内の保育所や幼稚園などに周知し、取り残しに注意するよう呼びかけたということです。
【守口市でのケース 原因は】
去年11月に守口市の認定子ども園で起きたケースでは、職員や園児がふだんとは違う行動をしたり、職員のミスが重なったりしていて静岡県で起きた事故との共通点が多いこともわかってきました。
今月、静岡県で起きた事故では、運転手の1人が用事で送迎できなくなり、ふだんはバスを運転しない理事長が急きょ、運転していたほか、クラスの担任が女の子は欠席だと考えて保護者に問い合わせをしないなど、職員のミスが重なったことがわかっています。
守口市のケースでは、当日、園児全員が近くの神社を訪れる七五三のイベントがあり、登園時、子どもたちをバスから降ろす手順がふだんとは違っていました。
ふだんは、年齢順に降ろしていますが、この日はイベントの雰囲気に泣き出す子どももいたうえ、神社への出発の時間が迫っていたことから順次、下車させていて、車内の最終確認も怠ってしまったということです。
そして、その後すぐに神社に移動したため、ふだんは、登園後、いちばん初めに行っている子どもたちの確認を怠ったということです。
さらに、職員のミスが重なったことで男の子が取り残されていることに気づくのが大幅に遅れました。
登園後、男の子の姿が見えないことに気づいた職員がいましたが、これに対して別の職員が男の子のクラスは神社に出発するため別の教室で待機していると伝えたため取り残されているのに気づかなかったということです。
その後再び、男の子がいないことに気づいた職員が散歩用の手押し車に乗っていないと担任に知らせましたが担任はそれを男の子は欠席だと伝えられたと勘違いし、そのままになったということです。
結局、男の子はおよそ1時間半後の午前11時ごろ、バスの車内にいるのを見つけられたということです。
【園長“申し訳ない”】
バス車内への取り残しが起きた守口市の認定子ども園のいまの園長で、当時副園長として対応にあたった男性が取材に応じました。
園長は去年11月に起きた取り残しについて、「当初、報告を受けた際、自分の園で起きたことが信じられず、園を信じて子どもを預けてもらった保護者に申し訳ない気持ちになりました。起きた時期が夏であれば園児の体調が何事もなかったとは考えられず、冬で良かったとは決して思えませんでした。子どもにも申し訳ないです」と話していました。
取り残しが起きたあと、園では子どもをバスから降ろす際には運転手や保育士など4人で同時に車内を確認しているということです。
万が一、子どもが取り残された場合、名簿を見ればひと目で気づけるよう、子どもが乗車した際には名前の横に○印を付け、降車した際には○印の上からマーカーで線を引くことにしたということです。
さらに、通園用の2台のバスにはそれぞれ車内に4つのカメラを設置し、管理職のスマートフォンから内部を確認できるようにしたということです。
園長は「対策を進めてきましたが、安全対策に終わりはないと思うので、今後も対策のブラッシュアップを続けたいです」と話していました。
【園児の父親“情報共有を”】
去年11月、守口市の認定子ども園で、通園バスの車内に取り残された当時2歳の男の子の父親は、「子どもが取り残されていたと連絡を受けたとき、一体何が起こったんだろうと、とてもびっくりしました。福岡で起きた事件のニュースは見ていましたが、まさか自分の息子が被害に遭うとは思ってもいませんでした。夏だったら息子は亡くなっていたかもしれないと思います」と話していました。
男の子が取り残されたあと、両親は守口市に対し、このケースを公表して教訓として生かしてほしいと繰り返し求めたものの、基準に達していないとして公表されなかったということです。
これについて父親は、「もし、息子の事案が公表されていれば、関係者の関心も高くなり今回の静岡での事件を防げたのではないかという思いもあります。他の園で起きた事案やその対策を公共財として広く共有するのはとても重要なことだと思います」と話していました。
また、父親は事件や事故が起きたあとの対策の徹底を訴えていて、「福岡の事件後に国が各地の自治体を通じて保育園などに対し、対策を取るよう通知したと聞いていますが、通知のあと、実際に対策が取られたのか、きちんと見届けられていたのか疑問があります。対策が取られていれば息子の事案は発生しなかったと思います」と話していました。

【高槻市では2つのケース】
高槻市では去年6月、市内の保育施設で3歳の子どもがバスに取り残されました。
市によりますと、この日、離れた場所にある園庭からバスで園に戻った際に下ろされずに取り残され、およそ20分後に給油に向かった先で運転手が気づいたということです。
子どもにけがはありませんでした。
市によりますと、当初、この保育施設からは取り残しがあったという報告はなく、ことし1月の市の監査で発覚したということです。

さらに、ことし5月にも市内の私立幼稚園に通う子どもがバスに取り残されました。
私立幼稚園を管轄する大阪府によりますと、子どもは朝の登園の際にバスに乗りましたが、幼稚園に到着しても下ろされず、そのままバスが発車したということです。
この日、幼稚園では行事が行われる予定で、バスはその後、行事に参加する保護者を迎えに行き、およそ10分後に乗ってきた保護者のひとりが、子どもが取り残されていることに気づきました。
行事のためふだんとは運行の手順などが異なっていたことが原因で取り残しをしてしまったとみられるということです。
子どもにけがはなく、体調にも問題はありませんでした。

【河内長野市でのケースは】
河内長野市では、10数年前に市内の保育園で送迎用のバスの中に園児が取り残されました。
周囲にいた人が子どもの泣き声に気づき、園児はすぐにバスから下ろされたということで、体調不良やけがはなかったということです。
市は、この保育園を指導した上で再発防止策をまとめてもらったほか、園が保護者らへの説明も行ったということです。

【課題その1「ミスが共有されない」】
今回の取材で見えてきた課題の1つが、「ミスが共有されず対策に生かされていない」ということです。
今回、NHKが確認した5件のケースはいずれも自治体は公表しておらず、河内長野市のケースを除いて情報の共有も役所の内部や市内のほかの施設の間に限られていました。
守口市で息子がバスに取り残された父親は、事故を公表して教訓として生かしてほしいと繰り返し求めたものの、基準に達していないとして公表されなかったということです。
父親は「もし、息子の事案が公表されていれば、関係者の関心も高くなり今回の静岡の事件を防げたのではないかという思いもあります」と話しています。
実は、保育園や幼稚園などで取り残しが発生した場合、国は、子どもが▼死亡、もしくは、▼治療に30日以上かかるけがをした時は、「重大事故」として報告することを求めていますが、それに満たない場合は、施設側の判断で報告されないことがあるのが現状です。
ただ、教育現場の危機管理に詳しい東京学芸大学教職大学院の渡邉正樹教授は、重大な事故には至らないものの一歩手前の危険な状態だった『ヒヤリハット』の事例にこそ注目すべきだとしています。
渡邉教授は「過去に重大な事故が起きた現場を調べると、事故の以前から『ヒヤリハット』が起きているケースが多く、その時点で対策をしていれば防ぐことができた可能性があった。『ヒヤリハット』の事例を全国的に集めてほかの園とも共有し、事故を防ぐ対策として生かすことが大切だ。『ヒヤリハット』を収集する体制がないことは大きな課題で、こども家庭庁などがその役割を果たすべきだ」と話しています。
実際、NHKが確認した5件のうち去年11月の守口市とことし5月の高槻市のケースは、どちらも行事が開催される日に起きていて、子どもを取り残した原因として運行の手順などがいつもと異なっていたという共通点がありました。
大阪府では「ヒヤリハット」も共有することにしていて、▼幼稚園などに対してはことし6月、▼保育園や認定こども園に対してはことし7月に、バスなどへの子どもの取り残しが発生した場合には、けがの有無や取り残しをした時間の長さにかかわらず、すべてを報告するよう求めたということです。
府は「集めた情報から原因を分析するとともに、関係機関などと共有して再発防止に役立てたい」としています。

【課題その2「対策が現場任せ」】
見えてきた2つ目の課題は、「対策が現場の“施設任せ”」になっていることです。
福岡県で5歳の男の子が保育園のバスに取り残されて死亡したことを受けて国は去年8月、保育園や幼稚園などに対して▼通園バスには運転手以外の職員を同乗させて座席などを確認することや▼登園時や散歩の前後に子どもの人数をダブルチェックする体制を取るなど、安全管理を徹底するよう通知しました。
ところが、この通知のあとも、大阪府内では守口市と高槻市で取り残しが起きてしまっています。
通知の内容がしっかり徹底されていれば、同じことは起きないのではないか。
そう考えて、府内の43のすべての自治体に取材したところ、すべての自治体が国からの通知を幼稚園や保育園などの現場に周知していた一方で、およそ7割の自治体がその後、対策が実際に行われているか確認していませんでした。
守口市で息子が取り残された父親も対策が実行されていたかに疑問を感じていました。
父親は「通知の後、実際に対策が取られたかを行政がきちんと見届けているのか疑問があります。通知が守られていれば息子の事案は発生しなかったと思います」と話しています。
教育現場の危機管理に詳しい東京学芸大学教職大学院の渡邉正樹教授は、対策を“施設任せ”にしてはいけないと指摘します。
渡邉教授は「安全対策は、施設側に任せきりになるのではなく、行政も所管する部署がきっちり対策の状況をチェックすることが大切だ。定期的、あるいは予告なしに施設に足を運んで直接確認に入るような取り組みを継続的に実施すべきだ」と話しています。
また、渡邉教授は、保護者が施設側に対して、安全対策を尋ねることも有効だと指摘していて、「施設側は、保護者に安全体制についてきちんと説明する責任がある。保護者と施設側が日頃から子どもを守る対策について話をする機会を作ることが大切だ」と話していました。