ウトロ地区放火事件 求刑どおり懲役4年の実刑判決 京都地裁
去年、在日コリアンが多く暮らす京都府宇治市のウトロ地区の倉庫に放火した罪などに問われた被告に対し、京都地方裁判所は、「偏見や嫌悪感による身勝手で独善的な犯行で、民主主義社会において到底、許容できない」として、検察の求刑どおり懲役4年の実刑判決を言い渡しました。
奈良県桜井市の無職、有本匠吾被告(23)は、去年8月、在日コリアンが多く暮らす京都府宇治市のウトロ地区の倉庫に火をつけて住宅など7棟を全半焼させたほか、その前の去年7月には、名古屋市の民団=在日本大韓民国民団や韓国学校の建物の一部に火をつけたとして、放火や器物損壊などの罪に問われました。
ウトロ地区の倉庫の火事では、地区の歴史を伝えようとこの春、開館した平和祈念館に展示予定だった資料など50点も焼失しました。
裁判で被告は、「韓国人に敵対感情があり、私のみならず彼らへの差別・偏見、ヘイトクライムに関する感情を抱いている人はいたるところにいる」と主張し、「展示品を使えなくすることで、祈念館の開館を阻止するねらいがあった」と述べていました。
30日の判決で、京都地方裁判所の増田啓祐 裁判長は、「在日韓国朝鮮人という特定の出自を持つ人々に対する偏見や嫌悪感による身勝手で独善的な動機から、暴力的な手法で不安をあおった犯行で、民主主義社会において、到底、許容できない」と指摘しました。
そのうえで、「重大な結果を生じさせた刑事責任はかなり重く、反省が深まっているようにはうかがえない」として、求刑どおり懲役4年の実刑判決を言い渡しました。
日本では差別や偏見に基づく犯罪、「ヘイトクライム」を規定する法律がなく、裁判所が刑の重さでどう考慮するのかが注目されていました。
【判決の後 住民側は】。
判決のあと、ウトロ地区の住民側が弁護団とともに記者会見を開きました。
この中で、「ウトロ平和祈念館」の副館長、金秀煥さんは、「検察よりも踏み込んだ内容で、差別のない社会に向けて、一歩一歩進んでいるんだということを住民たちに伝えられる判決で、ほっとしました。これからも住民を支えながら差別問題をなくすための取り組みを続けていきたい」と話していました。
また、弁護団長の豊福誠二 弁護士は、「懲役4年の求刑どおり裁判所が認めたことはめったにないことで、裁判長は事件を重く見ていると思う」と評価しました。
一方で、「判決では動機を敵対感情や嫌悪感というものに丸め込みすぎていた。人種差別は危険だという意味づけがなく、裁判所は差別と正面から向き合ったものとは言えない」と話していました。
【名古屋の民団 判決後に会見】。
判決のあとの会見で、名古屋市にある在日本大韓民国民団愛知県地方本部の事務局長、趙鐵男さんは、「執行猶予がつかない実刑判決で、ある程度、われわれの声が裁判官に届いたのかなという印象があります。もう少し強くヘイトクライムは許されないという言葉を期待していたが、日本では法整備されていないので、今後、ヘイトクライムを規制する法律ができるよう運動していきたい」と話していました。
【判決について 専門家は】。
今回の判決について、差別問題に長年携わってきた師岡康子弁護士は「判決では差別という言葉は使われていないが、特定の出自の人たちに対する偏見を認定していて、刑事事件としては踏み込んだ 前進した内容だ」と評価しました。
一方で、ヘイトクライムの認定については、「ヘイトクライムとは、直接被害にあった人だけでなく、同じ属性を持つ人や社会全体に対して不安を与えるメッセージ性のある犯罪だ。被告もはっきりと差別的なメッセージを述べていたが、判決ではそこまではふれられておらず、あと一歩という印象だ」と述べました。
そのうえで、「日本ではヘイトクライムについてまったく法的な手がかりやガイドライン、法規制がない。今回、裁判官は一定程度認定し、勇気を与える内容になったが、控訴され、別の裁判官になったら今度はどうなるか予想がつかない。今回のような判決を定型的なものにできるよう、法制化が必要だ」と指摘しています。