安倍元首相銃撃容疑者 試し撃ち重ね銃の威力や命中精度確認か

安倍元総理大臣が奈良市で演説中に銃撃され、死亡した事件で、容疑者が手製の銃の試し撃ちをしたと供述している奈良市内の山の中で、警察は弾丸のようなものや弾が当たったような跡がついたドラム缶や木の板などを発見しました。
警察は銃の威力などを試そうとしていたとみて調べています。

今月8日、奈良市で演説をしていた安倍元総理大臣が銃で撃たれて死亡した事件で、警察は奈良市の無職、山上徹也容疑者(41)を逮捕して殺人の疑いで捜査しています。
山上容疑者は、これまでの警察の調べに対し、事前に手製の銃の試し撃ちを奈良市内の山の中で行ったと供述しています。
警察によりますと、この供述をもとに山の中を捜索したところ、試し撃ちをしたとみられる場所で、弾丸のようなものや金属の弾を入れていたとみられるプラスチック片が発見されたということです。
また、周辺でコンクリートブロックやドラム缶、木製の板なども見つかり、ドラム缶と板には弾丸が当たったような跡もあるということです。
警察は、コンクリートやドラム缶など異なる素材のものを的にして試し撃ちを重ね銃の威力や標的に命中させる精度を確認していたとみて調べています。

【奈良県警本部長と捜査1課長が献花】。
安倍元総理大臣が銃撃された事件から1週間となる15日早朝、午前5時すぎに奈良県警察本部のトップ、鬼塚友章 本部長と、捜査を指揮している山村和久 捜査1課長が奈良市の大和西大寺駅近くの事件現場を訪れました。
鬼塚本部長は、献花台に花を手向けたあと、安倍元総理大臣が襲撃された現場周辺を20分ほど見て回っていました。
鬼塚本部長は銃撃地点からおよそ90メートル離れた立体駐車場の壁に見つかった銃の弾が当たったような跡を山村捜査1課長の説明を受けながら確認したあと、献花台で再び手を合わせていました。
奈良県警察本部によりますと本部長は執務時間外で、個人的に現場を訪れたということです。

【事件から1週間 献花続く】。
奈良市の大和西大寺駅近くの現場周辺に設けられた献花台には、事件から1週間となる15日も、献花に訪れる人は絶えず、午後になっても多くの人が手を合わせていました。
献花台には午前中から多くの人が訪れ、午後5時ごろには50メートルほどの列を作り、献花台に花などを供えて祈りを捧げていました。
大阪府内から訪れた40代の母親と10代の子どもは、「こんなことが起こり、衝撃を受けました。家族もショックを受けていて、きょうは家族を代表してきました。いままで日本のために頑張っていただいたことへの感謝を伝えました」と涙ながらに話していました。
また、奈良県橿原市から訪れた30代の男性は、「1週間たっても気持ちの整理はつきません。親族以外で亡くなってここまで悲しい気持ちになったのは初めてです。感謝の気持ちとお悔みの気持ちでいっぱいです」と話していました。

【供述まとめ】。
事件発生から1週間。
山上徹也容疑者の供述から犯行の動機や事件までの行動が明らかになってきました。
警察の発表や捜査関係者への取材で判明した供述の内容をまとめました。
<宗教団体への恨み>。
山上容疑者は母親が信者になっている宗教団体への恨みから事件を起こしたと説明しています。
「母親が宗教団体にのめり込み、多額の寄付をするなどして家庭生活がめちゃくちゃになった」。
「母親が祖父の持っていた土地を祖父に断りのないまま売り払い、宗教団体につぎ込んだ」。
警察はこうした供述に加え親族の話から母親が死亡した父親の生命保険金や、家族が所有していた奈良市や東大阪市の3か所の不動産を売って得た金などあわせて1億円近くを宗教団体に献金したとみています。
<なぜ元首相を標的に>。
宗教団体への恨みがなぜ安倍元総理大臣の襲撃につながったのか。
「政治信条への恨みではない。安倍元総理が宗教団体と近しい関係にあると思った」。
「これまで団体の総裁をずっと狙っていて、数年前に韓国から来日した際には火炎瓶を用意して愛知県の会場を訪れたが、信者以外は中に入れず、うまくいかなかった」。
「宗教団体の総裁が新型コロナの影響で来日しないため、このままではいつまでたっても実行できないと思い、安倍元総理を標的にすることを決めた」。
<銃は自分でつくった>。
事件には山上容疑者が自分で作った銃が使われていました。
「YouTubeを参考に製造した」。
「2本の鉄パイプを粘着テープで巻きつけてつくった銃のほか、鉄パイプを3本や5本、6本にした銃を製造した」。
「6個の弾丸が入ったカプセルを火薬を込めた鉄パイプに詰めた。1度に6発を発射できる仕組みだった」。
「もともとは爆発物をつくって殺すつもりだったが、途中から銃を製造するようになった。銃はたくさんつくり数か月前にできあがった」。
「確実に目的を果たせる銃に切り替えた。本人に近づける機会を狙っていた」。
<前日にも襲撃を計画>。
山上容疑者は事件前日の7月7日にも安倍元総理大臣を襲撃しようと行動していました。
「前日に岡山での遊説会場にも行った。しかし、入り口で入場手続きが行われているのを見て難しいと思った」。
「岡山では近づけずにあきらめて帰ったが、帰る途中にネットを見て元総理が翌日、地元の奈良に遊説に来ると知りチャンスだと思って奈良で実行することを決意した」。
そして迎えた7月8日、安倍元総理大臣の殺害計画を実行した山上容疑者は「銃の弾がしっかり発射されてよかった」と、話しているということです。

【精神科医“ゆがんだ特権意識”】。
犯罪心理に詳しい精神科医の片田珠美さんは容疑者について、「過酷な人生を送った結果、『普通の人には許されないことでも、自分には許される』というゆがんだ特権意識が生まれ、事件につながったのではないか」と指摘しています。
片田さんがこれまでに報道されている内容を分析したところ、「中学や高校時代は非常に優秀だったという証言もあるが、卒業後は人生がうまくいかず、この20年間、安定した職に就くことができていなかったとされている。『頑張っても報われない』といった不満が積もる中、母親がのめり込み多額の献金をしていた宗教団体に恨みを募らせたが、代表者に接近することが難しかったため、その矛先を別の対象に向ける『置き換え』という心理が働いたと考えられる」と述べました。
そして、「報道を見るかぎり容疑者は過酷な人生を送ってきたため、『自分はこれだけつらい思いをして不公正に不利益を被ったのだから、普通の人には許されないようなことでも自分にだけは許される』というゆがんだ特権意識が生まれ、事件につながったのではないか」と指摘しました。
また、近年発生している無差別殺傷事件との関連については、「今回は形は異なっているものの容疑者が強い欲求不満を抱きつつ孤立し、絶望感、無力感、復しゅう願望を抱いていた点で共通している」と述べました。
そのうえで片田さんは、「現代は地域や家庭のコミュニティーも崩壊しつつあり、困ったときに誰にも助けてもらえないような状況が目立っている。容疑者も孤立しうっ屈していた可能性が高いが相談できる相手がいないと他人の意見や考え方、感じ方を聞く機会がないため視野狭さくに陥りやすく、復しゅう願望に凝り固まってしまったのではないか。われわれもひと事と思わず、できるだけ声をかけていく、見守りをする、相談窓口を紹介するなどといった対応が必要だと思う」と指摘しました。

【真山仁さん“背景冷静に見る必要”】。
元新聞記者で社会派の作品を多く手がけてきた小説家の真山仁さんは、今回の事件について「まだそんなに時間がたっていない中で情報が膨大に出てきているが、あまり情報に振り回されずにどうすれば事件が二度と起きないようにできるのか自問自答したほうがいい」と述べ、事件の背景を冷静に見る必要があると指摘しました。
真山さんは、今回の事件について、「銃社会ではない日本で、総理経験者が事件に遭うというのは最初はなかなか事実を受け入れられなかったが、一方でいつかこうしたことが起きるのではという社会のムードもあった。特に若い世代の人たちが息苦しさを感じていたので閉塞感(へいそくかん)や怒り、不満みたいなもののマグマが社会の底流にはずっとあった。社会を見ながらモノを書いている人間からすると、嫌なムードだというのはこの10年くらいずっと思っていたので、それがいまここで来たのかと感じた」と話しました。
一方で、「まだそんなに時間がたっていない中で情報が膨大に出てきていて、そこに飛びつきすぎている印象がある。影響力のあった元総理大臣が銃撃されて亡くなるという衝撃は大きく、メディアも含めて多くの人が『なぜ』と知りたがるのは当然だが、少なくともいま表出している情報に関して言うと、明らかに個人的な、ある意味、逆恨みのような犯行としか思えない。ただもう少し、うがった見方をすればそういう情報ばかり出ているということも少し気をつけないといけない」と述べ、事件の背景を冷静に見る必要があると指摘しました。
そして、1週間しかたっていない中で事件の原因や背景を結論づけることは難しいとしたうえで、「今たくさんの情報に振り回されるのではなく、どうすればこのような事件が二度と起きないようにできるのか、あるいは、この事件で私たちは時間をかけて何を見ていかないといけないのか、自問自答したほうがいいと思う」と話していました。

【弁護士“擁護するだけ”】。
15日午後4時前、山上容疑者が勾留されている奈良西警察署を国選の弁護士が訪れ、容疑者と面会しました。
その後、報道陣の取材に応じた弁護士は「職務を全うするために言えることはないが、コミュニケーションはしっかりとれている」としたうえで「弁護人として被疑者・被告人の利益を最大限、擁護するだけです」と述べました。
山上容疑者の体調について「特に何が悪いと言うことはない」と話しました。

【医師 死亡までの経過語る】。
安倍元総理大臣が奈良市で演説中に銃で撃たれて死亡した事件で、治療にあたった大学病院の医師がNHKの取材に応じ、安倍元総理が亡くなるまでの治療の経過について、「心肺停止という厳しい状況が続いたが、家族が病院に到着するまで治療は続ける方針だった。家族の理解を得たうえで治療の中止を決めた」と明らかにしました。
今月8日、奈良市で演説中に銃で撃たれた安倍元総理大臣は、ドクターヘリで現場から20キロ余り離れた奈良県立医科大学附属病院に搬送され、緊急手術を受けました。
この手術を担当した福島英賢 教授が14日、NHKの単独インタビューに応じ、安倍元総理を病院で受け入れてから亡くなるまでの経過を説明しました。
まず、受け入れの要請があったときの状況について、「銃創による心肺停止という情報でかなり厳しい状況だと思ったが蘇生処置をしなければならないと準備を始めた」と振り返りました。
そして、医療スタッフや、輸血のための血液をできるだけ多く集められるようすぐに手配に取りかかったということです。
手術では、止血のために胸を開いて出血している部分を特定しふさぐ処置を行ったとしたうえで、「銃創は、おなかを打撲しておこるけがなどとは異なり、出血部分がかなり大きく、胸には大きい血管も多いので難しい処置になった」と振り返りました。
手術では大きな血管からの出血には対処できたものの、心拍は最後まで回復しなかったということです。
そのうえで、安倍元総理が亡くなるまでの経過について「蘇生処置に反応せず、治療を続けても回復の見込みがないと思われる場合、どこかの時点で治療を中止する決断をしなければならない。一般的には蘇生の限界点が来ているという医学的な判断をしたうえで、家族の理解を得て治療を中止する。今回は、病院に家族が来ると聞いていたのでそこまでは治療を続けようという方針だった。家族が到着し、私から説明をして理解していただいたうえで、中止の決定をした」として、受け入れから4時間半余りがたった午後5時3分に治療の中止を決めたと説明しました。
今回の手術には、最終的に20人余りの医師を含む総勢41人の医療スタッフであたり、輸血された血液の量はおよそ13リットルと成人男性の全身の血液の3人分ほどの量が使われたということです。
福島教授は事件を振り返り、現場近くの駐車場の壁などに銃弾が当たったような痕跡が見つかったことをあげて、「今回の事件は複数のけが人が出ていた可能性もあり、そうした場合にどのような医療態勢を構築できるのか、十分な検討は進んでいない。今回の事件をきっかけに考えていく必要がある」と指摘しました。
そして、インタビューの最後には今回の事件が国民に与えた影響について触れ、「非常に残念な結果になり、治療に携わった私たちも含め心に傷を負った人は全国にたくさんいるのではないかと思う。だが、立ち止まるわけにはいかないので今後もとにかく前を向いてやっていかなければいけないと思っている」と話していました。