’ナースコール使えない’高齢者虐待増加 県内介護施設などで

広島県内の介護施設などで高齢者が受けた虐待の内容を調べたところ、近年、施設内でナースコールを使えない状態にする虐待が増えていることが分かりました。
専門家は、ナースコールは施設の利用者が意思を表現する重要な手段だとした上で、より深刻な虐待につながるおそれもあることから施設側が人権意識を強く持つことが必要だと指摘しています。

広島県内で高齢者が介護施設の職員などから虐待を受けたと自治体が認めた件数は、昨年度・2022年度が過去2番目に多い21件でしたが、具体的な内容は明らかにされていません。
広島県に情報公開請求などを行った結果、介護福祉士が70代の女性を殴るなどして顔や胸部、両腕にけがを負わせた身体的虐待や介護福祉士ら3人が87歳から96歳までの9人の利用者に対して「死ね、立たないで、動かないで」などと暴言を吐いたり、排せつの介助後、ズボンをひざまでしか上げなかったりした心理的・性的虐待などがありました。
さらに過去5年分の開示資料を調べたところ、施設内でナースコールを使えない状態にする虐待が2021年度からの2年間では全体の34件のうち5件あったことが分かりました。
一方、2020年度までの3年間では全体の41件の中で確認されませんでした。
このうち介護老人保健施設では、56歳から103歳までの17人の入所者に対してナースコールの呼び出しボタンが取り外されていたり、手の届かない位置にボタンやケーブルが置かれたりしていました。
また別の施設ではナースコールが2か月間、壊れたままになっていたケースもありました。
広島県は、介護の放棄にあたり、高齢者の尊厳の保持に対する意識などが不十分だとした上で「ナースコールに起因する虐待などを防ぐため、市や町と連携して広報・普及啓発に取り組む」とコメントしています。
こうした虐待について日本高齢者虐待防止学会の理事で、安田女子大学の山本克司教授は、ナースコールは施設の利用者が意思を表現する重要な手段だとした上で「ナースコールの問題は身体的虐待のように体に傷がつくような表に出る問題ではないが、『目立たないからスルーしてしまおう』とか『放っておいてもいいんじゃないのか』などという意識でいると、不適切なケアにつながり、それが積み重なって大きな問題となる虐待が顕在化するおそれがある」と指摘しています。
その上で山本教授は「職員たちにはこれ以上、負担を増やしたくないという思いもあるのではないかと考えられるが、施設の利用者が一生懸命、思いを伝えているということを最大限尊重しようという意識の共有を進めるべきだ」とし、さまざまな虐待を防ぐためにも施設側や職員全員が人権意識を強く持つ必要があるとしています。