知的障害女性の性被害認定 久留米 施設元所長に賠償命令判決
久留米市の職業訓練施設に通っていた知的障害のある女性が、当時の所長からわいせつな行為を受けたとして賠償を求めた裁判で、福岡地方裁判所久留米支部は「元所長は女性の知的障害につけこんでわいせつ行為に及んだ」として性被害を認め、330万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
5年前、久留米市の職業訓練施設に通っていた知的障害のある20代の女性は当時の40代の所長からホテルに連れられ体を触られるなど、わいせつな行為を繰り返され精神的な苦痛を受けたとして、元所長と施設の運営会社に賠償を求める民事裁判を起こしました。
7日の判決で福岡地方裁判所久留米支部の立川毅裁判長は「女性は性的な言動の持つ意味やどのような人間関係に基づき性的関係を持つかを十分に理解できなかった。相手に気持ちをうまく伝えて拒否することができず、性的行為を繰り返し受ける結果になった」と指摘し、性被害を認めました。
その上で「元所長は施設管理者としての立場を利用し、女性が性的行為を同意する能力に制限を受ける状況を認識しながら、これにつけこんで性的行為に及んだ」として元所長と施設の運営会社にあわせて330万円の賠償を命じました。
この問題では強制わいせつの容疑で書類送検された元所長について検察が「起訴するに足りる証拠がなかった」として不起訴とし、女性が民事裁判を起こしていました。
判決のあと原告の女性の母親は取材に応じました。
この中で母親は「娘は将来の希望を持って通所していた就労支援事業所で性的虐待を受けていました。知的障害がある娘はスムーズに社会生活が送れず支援が必要なのに、被害を受けて法律から守られませんでした。娘自身も『悪いことをした人が処罰されない』という思いを今も持っています。判決では私たちの思いをくみ取っていただきましたが、娘の心の傷が癒えることはありません。被告側は、軽率な行動によって利用者の社会生活を奪ったことを心にとめて、真摯に反省して欲しい」と話しました。
また、勝訴について「『悪くなかったんだよ、自信を持って生きていいんだよ』と娘に伝えたい」と話しました。
原告の女性の代理人、松浦恭子弁護士は判決について「原告が障害によりどのような制約を受けているのかについて、きめ細やかに認定している」と評価しました。
その上で「裁判の中で原告は言葉を出せなくなったが右手をあげたり、うなづいたり、触られた部位をぬいぐるみの人形を使って示したりして答えてくれた。一生懸命に自分の気持ちを伝えようとする姿には、心を打たれました。きょうの判決は言葉で説明することができないなかでの表現も細かく分析して事実認定をしている。言葉を発することができないなど制約のある人が裁判の手続きで被害の回復を求めるときに、供述や証拠の問題はとても大きいが、今回の原告の様子や表現を裁判所が丁寧に受け止めてくれたことが今後に向けた道を開くものだと感じています」と話していました。
判決について被告側の弁護士は「判決文が届いていないのでコメントできない。依頼者とも相談して今後の対応を考えたい」としています。