北の富士勝昭&炎鵬のドリーム対談

NHK
2024年3月29日 午前7:00 公開

関取最軽量98キロの炎鵬は、九州場所も小兵の本領を発揮してファンの大声援を受けて土俵を盛り上げました。千秋楽に大栄翔に勝って3場所連続となる勝ち越しを決めました。炎鵬を高く評価している辛口評論でおなじみの元横綱北の富士勝昭さんとの夢の対談が実現しました。司会は32年間大相撲を伝え続ける吉田賢アナウンサーです。(千秋楽の翌朝11月25日に福岡で対談)。(※2020年1月8日スポーツオンライン掲載)

初懸賞は師匠と横綱にあげました


吉田:千秋楽の夜は白鵬関が開くパーティーがあってにぎやかだったです。

北の富士:勝ち越して良かった。懸賞はだいぶ入ったね。1日10本平均かな。

炎鵬:いや少なかったです。15日間で16本か17本でした。

吉田:炎鵬指名の懸賞はあまりなかったです。確かに炎鵬なのに懸賞が1本しかつかないのという取組もありました。やはり初めて懸賞をもらったときはうれしかったでしょう。

炎鵬:うれしかったですね。すぐ師匠(宮城野親方)と横綱にあげました。

北の富士:そんなことしなくていいんだよ。白鵬はたくさん持っているのだから。俺なんか飲んで使ってしまったよ。遊ばないで貯めたらビルが1軒くらい建ったかなと思うよ。

女の子と思った。小さくてかわいい顔だった


北の富士:炎鵬が入門して、初めて見たときは白鵬の横にいたんだよ。俺はてっきり女の子かと思っていたよ。相撲の好きな女の子かなと思って、それくらい小さかったよ。かわいい顔をしていたし。「相撲は無理だよ」と言いました。最初、体重は何キロあったの。

炎鵬:90キロなかったと思います。

北の富士:もっと小さかったのか。少しがっちりした女の子という感じだね。

吉田:ところがあれよあれよという間に上がってきましたね。

北の富士:いま序二段に落ちているが、宇良のときもそうだった。俺は小さい力士が好きなんだ。千代の富士も小さかったし、北勝海も小さかった。俺自身が新弟子検査のときは落ちているから、体重が足りなくて。50人が検査を受けて、俺だけだよ、落ちたのは。

炎鵬:そのときは、体重は何キロだったのですか。

北の富士:あのときはキロじゃあなくて貫目だったな(笑い)。俺は17貫800。いまで言うと70キロ位はあったかな。1月に落ちたので、3月、大阪で検査を受けたんだよ。水をたくさん飲んで、「お願いします」と言って受けて合格したんだ。だから小さい子には、特別な思いがあるんだ。でかいのは強くて勝って当たり前だよ。

将来の夢は「舞の海関のようになりたい」


吉田:北の富士さんは、炎鵬関はだめだと思っていたのですね。

北の富士:まあ、だめだろうと思っていたのが上がってきたね。舞の海君に似ているなと思ったよ。舞の海君と取り口が似ているし、足癖はあっち(舞の海)が悪いな。

吉田:炎鵬関は舞の海さんに似ていると言われて、どう思いますか。姿、形、体形も似ていますよね。

炎鵬:はい。昔から舞の海さんの映像をよく見ていました。小学校の卒業文集にも「将来の夢・舞の海関のようになりたい」と書きました。

北の富士:それは当然の流れだな。舞の海のほうが小力【こぢから】(瞬間的に発揮される力)は強いかな。

吉田:それでは似ていると言われることはうれしいのですか。

炎鵬:そうですね。

稽古をしっかりして、地力をつけることが必要


吉田:炎鵬関の相撲は、さらに進化するためには何が必要ですか。

北の富士:やはり地力をつけるということだね。体はこれ以上大きくならないのだから、やはり稽古をしっかりして地力をつけないといけないね。昔、小さいのによく稽古する力士がいた。何でこんなに強いのかなと思っていたよ。

吉田:炎鵬関は前に攻める力、前に押す力はかなりついてきたと思いますね。

北の富士:逃げようと思って取る立ち合いはすぐに見破られる。瞬間的にひらめいて変わるというのが効くんだよね。最初から逃げようと思っていたら気配で分かるよ。キョロキョロしているからね。そういうことはあまり勉強しなくてもいい。

「自称炎鵬後援会長」だ


吉田:炎鵬関は北の富士さんが連載しているスポーツ新聞のコラムは読んでいますか。またテレビの解説も録画したりして見ていますか。

炎鵬:部屋にはテレビもないので、全然見ないのですが、周りの方から教えていただいています。「北の富士さんがきょう、こうおっしゃっていましたよ」と話していただいています。

北の富士:稀勢の里がやめたから、この次は誰を応援しようかと思って、「自称炎鵬後援会長」だな。

吉田:確か一時、宇良だった(笑)、ような気が……。

北の富士:そうだよ。宇良がいちばん早いんだ。そうでもしないと、ひいきの力士を作らないと、解説をやっていても楽しくないんだよ。

吉田:それを許されるのは北の富士さんだけですよ。

横綱、大関との対戦は、かみつき以外何をやってもいい


北の富士:炎鵬は顔を見るのも嫌な力士はいるのかな。

炎鵬:そうですね。松鳳山関とか剣翔関には勝てません。

北の富士:剣翔にはうまく取られているな。先に上手を取って、慌てないで攻めてくる。だから小さい相撲取は、大きい相撲を取れと昔から言われているんだ。攻め込まれたら、どうしても差してしまうだろう。

炎鵬:はい。誘い込まれることが多いですね。絶対に差しにいったらだめだと思っているんですけど、そうなったら自分から入って差しにいってしまいます。

吉田:松鳳山戦は結果として負けていますが、苦手というわけではないのですか。

炎鵬:はい。苦手というわけではないのですが、相性が悪いのです。九州場所もそうなんですが、滑ったりしています。前の秋場所でも滑っていますね。取りにくくはないのですが、合口【あいくち】(対戦相手との相撲の相性)が悪いのです。

北の富士:そういうのがいるんだよな。対戦成績を見て驚くことがあるよ。

吉田:特に剣翔関には、プロに入ってから一度も勝っていないです。

炎鵬:本当に勝ち方が分からないです。

吉田:炎鵬関は、いよいよ初場所は横綱、大関に挑戦することになりますよ。

北の富士:これはもう大暴れだよ。ついでに白鵬とも合わせてもらえばいい(笑)。これはお好みの対戦だよ。

吉田:巡業じゃなくて、本場所でお好みの対戦はありですか(笑)。白鵬関は、優勝インタビューで「炎鵬とはやりたくない」と言っていましたね。

北の富士:白鵬とは対戦しないけれど、ほかの横綱、大関とは当たるからね。思い切ってやったほうがいいんだよ。どうせ最初は勝てないんだから。かみつき以外は何をやってもいいんだ(笑)。実際にかみついた人がいるんだよ。栃錦(元横綱、のちに春日野理事長)だ。

吉田:私は見たわけではないので、分からないのですが。

横綱、大関への挑戦。番付が上がると思わず想像できない


吉田:どうですか。横綱、大関への挑戦は。

炎鵬:想像できないですね。

北の富士:思ったより大したことはないよ。最初はね、体の大きさとか、雰囲気とかなんかでびくっとするけどね。最初やったときは俺も全然勝てなかったけどね。2、3回取っているともう慣れてくるよ。大関くらいだったら、そのうち勝てるよ。

炎鵬:ずっとテレビで見ていたので、イメージできないです。自分がそこまで番付が上がるとは思っていなかったです。

北の富士:初場所は、とにかくやってみて、負けているなかでも1番くらいは相手に通じるかなという相撲を取れると思うよ。相手だって嫌がっているよ。

炎鵬:はい。分かりました。

北の富士:もう少し上半身に筋肉をつけて体を大きくしたほうがいいな。

吉田:自分では何キロくらいがベストですか。

炎鵬:110キロくらい欲しいです。

北の富士:千代の富士だって横綱に上がったときは115キロくらいだった。

稽古熱心になって体を大きくすること


吉田:炎鵬関から北の富士さんに聞いてみたいことはありますか。

炎鵬:私がこれから上にいくうえで、何を身につけたらいいかうかがいたいです。

北の富士:それはまず稽古熱心になることだね。もっと体を大きくしてぶつかり稽古をよくやること。ぶつかり稽古は大事だと思うよ。あれがいちばんきつい稽古だ。腰にずっしりと来る。最近の力士はぶつかり稽古の量が少ない。ケガも多い。小さいからケガをしないとは限らないよ。相撲が激しい動きだから大きなケガにつながるかもしれないね。あとはもう稽古をしていれば三役に定着することができる。白鵬に「大関になれる」と言われたのだろう。それを信じていくしかないよ。

吉田:それでは、北の富士さんから炎鵬関の今後について、どんな点に期待するかをお話し願います。

北の富士:いま前頭6枚目だろう。まあ次は3枚目か4枚目だよね。三役と対戦するから好きなことをやったらいいよ。土俵をひっかき回してほしい。勝てないのはしょうがないが頑張ってほしいね。俺も解説はあと1年くらいが精いっぱいかもしれないよ(笑)。

吉田:またそんなことをおっしゃって(笑)。

北の富士:白鵬といういい兄弟子がいるからいいよ。本当にかみつき以外は何をやってもいいよ。炎鵬がいなかったら前半の相撲は誰も見ないよ。頑張れよ。

炎鵬:はい。ありがとうございます。

吉田賢(よしだまさる)アナウンサー

昭和58年NHKに入局。昭和62年の大相撲秋場所から大相撲中継を担当して32年間に渡って大相撲を見続けた。歯切れのよい実況放送で人気を集めている。現在、NHKグローバルメディアサービス所属。