特集 明生力関「引退するまで横綱を目指す」

明生関は5歳で相撲道場に入り、中学校を卒業後、いわゆる「中卒たたき上げ」で大相撲に入門。平成30年の九州場所から令和元年夏場所まで4場所続けて勝ち越し幕内に定着。夏場所では一時優勝争いのトップに立ちました。令和元年の九州場所は上位の壁に跳ね返され、初場所での再起を決意しています。戸部眞輔アナウンサーが聞きました。(福岡県直方市の冬巡業でインタビュー)
初めての横綱戦は"いい経験" 相撲はだめでも成長ができた
戸部アナと化粧まわし姿で(12月1日・福岡県直方市)
──この1年、初めての上位挑戦もありましたし、優勝争いも経験しました。どんな1年でしたか。
とても内容の濃い1年だったと思います。いろいろと経験ができました。
──そのなかで、どの経験がいちばん大きかったですか。
やはり初めての上位戦での横綱との結びの一番です。
──名古屋場所の鶴竜関との対戦ですね。どうでしたか初めての結びの一番は。
すごくうれしい気持ちと緊張もあって、いろいろな感情が入り混じった気持ちになりました。
──実際に鶴竜関と相撲を取ってみてどうでしたか。
相撲は全然だめでした。完敗でしたが、あそこに立てただけでも、ことし私が成長できたと感じていました。
──ことしは上位に挑んだ1年でしたが、どのようなことを学びましたか。
やはり形を持っている人が強いとか、自分の形になれなくても相撲を取れる人が強いとかを学びました。いまの私の相撲がどれだけ通用するかと考えましたが、もっと体を作らなければいけないということを感じました。
三役ではなく、その上を狙える力士に成長したい
秋巡業でファンにサインする(10月11日・神奈川県相模原市)
──関取からいつも感じるのは、気持ちが強いなということですが、いつごろからそういう性格になったのですか。
私は気持ちが強いとは思わないです。自分は自分かなと思っています。人は人です。勝負なので負けたくはないです。勝たないとだめですね。
──関取の経歴を見ると、新十両のときも、新入幕のときもはね返されています。そこから番付が上がっているのですが、そういう気持ちからですか。
そうですね。はね返されるのは悔しいですね。でもその悔しいままでは終わりたくないです。「次に生かさないと」と思っています。「この負けを生かそう」という気持ちになります。上位で相撲が取れたことを生かすようにしています。そういう気持ちでいます。
──新入幕で勝てませんでしたが、同じ感覚でしたか。
新十両のときは稽古をしっかりやって臨みました。新入幕のときは、その前の場所で足にけがをしました。ずっと松葉づえを突いていたので、師匠(立浪親方)に休場するかと言われました。しかし新入幕なので出場したくて出ました。新入幕の記者会見では「三賞を狙いたい」と言っていましたが、三賞が取れるほど稽古はできていませんでした。勝ち越しは多分できないなと自分では思っていました。でもそのなかでも頑張れたらいいなと思っていました。それで案の定、勝ち越せませんでした。でも次は絶対に幕内に戻ってきてやるという気持ちでいました。
──今度は上位で勝ち越して、三役というのが大きな目標ですか。
そうですね。来年、1年の目標は大関を狙えるところで戦いたいですね。三役とかだけではなくその上を狙えるような力士になれるように成長したいです。
"本当は車で行きたい" でも道が混むので電車しかない
電車に乗って国技館に通う(9月15日)
──東京場所だと(つくばみらい市の立浪部屋から)電車で通勤しますね。実際はどうですか。幕内力士で、しかも秋場所は優勝争いもやったなかでの電車通勤。電車で通う事はどう思っていますか。
本当は車で行きたいです(笑)。正直、電車はいやです。ただこれでしか行けないんだと思っています。電車に乗るしかないのです。付け人がいない日もありますが、普通に乗っています。
──秋葉原で乗り換えですか。周りの乗客の目はどうですか。幕内力士が電車に乗っていることについてどう思われているのでしょう。
あまり気にならないです。もう慣れました。ただ、疲れるなと思っています。行きは秋葉原までは座れます。帰りは分からないですね。その日、その日で違います。立ちっぱなしもあります。
──電車通勤の良さを挙げるとしたら、どういう事がありますか。
良さですか。良さは何ですかね。良さはないです(笑)。
──でも三役に昇進したら車で行けるということはないですか。
いや道が混むのでだめです。いままでも車で行こうと思えば行けないことはなかったのですが、道が混むので時間が読めないのです。取組に遅れて負けになりたくはないです。絶対に。だったら電車で行くしかないです。
いい相撲を取って、相撲界に入る子を作りたい
──ふるさとの奄美大島は相撲が盛んで、そのなかで培ってきたものも大きいと思いますが、いかがですか。
それは大きいですね。地元が奄美大島というのは、すごく力になると思います。
──どんなところが力になっていますか。
やはりほかの地域より小さな島なので、みんなの声援が聞こえてきます。相撲をやっている後輩もいっぱいいますので、自分も頑張らないといけないと思います。地元が応援してくれるのはうれしいです。
──奄美大島の子ども相撲が続いています。そういう子どもたちにとってどんな存在でありたいですか。
私がしっかりいい相撲を取って、少しでも相撲界に入る子どもを作りたいですね。自分に憧れていなくてもいいです。ただ大相撲はいいなと思ってくれればいいと思います。
──部屋には天空海関と豊昇龍関の2人の関取がいますが、稽古の環境はどうですか。
いいと思いますね。兄弟子とか弟弟子とか関係なく、最初から自分は自分と思っていました。みんなで部屋を盛り上げるのはいいと思います。
まだまだ上に行く気持ち。下の子も上がってほしい
──関取3人での夢はありますか。
特に3人でということは考えていなかったですね。3人での幕内での土俵入りは、いずれそうなると思います。2人とも強いですから。私もまだまだ上に行く気持ちでいます。私はもっと下の子たちが上がってきてくれたらうれしいです。関取がどうではなく、いままで稽古を見てきた子たちが上に上がってくることがうれしいです。
幕下に上がる付け人の北大地(左)と(12月1日・福岡県直方市)
──実際に付け人の北大地さんが幕下昇進を決めました。相当うれしかったのではないですか。
本当にうれしかったですね。これまでも何回かチャンスはあったのです。これまではチャンスを生かし切れていなかったです。九州場所で決めることができたのでうれしかったです。これまでも胸を出したり、声をかけたりしていましたが、それを生かせるかどうかは自分自身ですね。強くなるのも、嫌になるのも自分自身です。でも上がるだけではだめです。まだまだ上があります。上に行ってほしいですね。
三役、それ以上を目標に初場所でいい成績を納めたい
──将来の目標は何ですか。どう思っていますか。
私は15歳で相撲界に入ってきて、そのときの夢が横綱になることでした。その目標はいまも変わらないです。いまでもいちばん上に行きたいなと思っています。
──新年、初場所の抱負を聞かせてください。
初場所はしっかり勝ち越して、それ以上を目標にします。とにかくいい相撲が取りたいです。強い相撲を取りたいですね。負けない相撲です。
──そういう相撲を取りながら一気に三役に上がれる成績になったらいいですね。
そうですね。三役、それ以上を新年の目標にして、初場所でいい成績を納められるように、しっかり準備していきたいと思っています。

戸部眞輔(とべしんすけ)アナウンサー
東京都墨田区出身、福岡放送局所属、平成17年入局、好きな食べ物:新鮮な食材の味を生かした料理、趣味:バスケットボール、読書:横溝正史の推理小説など、リフレッシュ術:安い温泉、安いカラオケ、モットー:正しく生きる、自慢したいこと:調理師免許を持っています