ストーリーラグビー

ラグビーの気になる話(51)「快進撃を支えた通訳の新たな挑戦」

2020-01-17 午後 0:00

ラグビートップリーグが1月12日に開幕。去年のワールドカップで、日本中を熱くさせた選手たちが新しいシーズンのスタートを切りました。こうしたなか、日本代表の通訳として、コーチ陣や選手たちのコミュニュケーションの架け橋となって、チームの快進撃を支えた佐藤秀典さんは一足早く新たな挑戦を始めています。その挑戦とは?

選んだのは教育現場

 

去年の暮れ、佐藤さんがいたのは大阪・豊中市の高校の講堂でした。この高校を運営する学校法人のスポーツ専門学校で、ことし春に開設される「スポーツ外国語学科」の学科長に就任することになり、発表会見とトークイベントに臨んでいたのです。

日本代表の通訳としては、数え切れないほどの記者を前に、指揮官の考えを堂々と伝えていた佐藤さん。活動を続けてきたデスメタルバンドで、ライブハウスのステージに立つこともしばしばでした。

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ただ、自分のことを話すのは勝手が違ったようで、スーツ姿で壇上に立ったこの日は少し緊張した表情でした。

 

佐藤秀典さん

自分が先生になるとは夢にも思っていなかったので、校内で『佐藤先生』と呼ばれても、気づかないことがあります。初めてのことばかりなので、毎日があっという間に過ぎています。

現場で求められる英語力

 

佐藤さんが学科長を務めることになったのは、スポーツ関連の仕事に特化した専門学校の外国語学科です。

日本では珍しく、4月から始まる授業では、英語の新聞記事や中継の実況を題材にした読み書きや聞き取りに加え、テーピングやマッサージの実習をしながらの英会話など、スポーツの現場で求められる英語力を身につけるためのカリキュラムが組まれています。競技ごとに異なる、文化的な背景などを学ぶ授業も準備されているということです。佐藤さんは、こうしたカリキュラムをつくることや、講師やスタッフの確保、さらに海外留学の手配など、学科の運営を取り仕切る役割を任されました。

なぜ転身? 通訳として感じた課題

 

教育現場を新たな職場に選んだのは、通訳を務めるなかで、日本のスポーツ界が抱える課題を感じていたからです。それは、スポーツの現場で、いわゆる「生きた英語」を使える人材が足りないことです。

ラグビー日本代表には、選手とスタッフ、あわせて30人近い外国出身者がいました。ミーティングのほとんどは英語で行われ、日本人のスタッフも自然と英語が堪能な人が選ばれるようになりました。英語はほぼ必須の条件になっていたと言います。佐藤さんは、日本のスポーツ界では自分たちのような通訳を頼らずに、「生きた英語」を操れる人材がより求められていくようになると感じています。

佐藤秀典さん

座学や文法ができるだけではスポーツの現場で必要なコミニュケーションにはならない。それぞれの競技のルールや専門的な知識に加え、相手の文化的な背景やそのスポーツの歴史まで理解した上で話せなければいけない。

そうした面でスポーツの現場には、通訳ではなく、スタッフ自身が英語の出来る人材が必要だと感じました。日本のスポーツ界で働く、コーチや、トレーナーなど選手のケアをする方々は、技術の面では世界的に見ても高いのに、英語力がなく、世界で戦うチャンスを逃すケースが見受けられる。そうした状況を少しでも解消していく事が出来ないかと考えました。

戦友の門出を主将も応援!

 

佐藤さんの新たな挑戦を応援しようと、イベントには、日本代表のキャプテン、リーチ マイケル選手が駆けつけました。トークショーでは、リーチ選手自身が、世界最高峰のスーパーラグビーでのクラブに所属したときのエピソードを紹介。

 

 

個人で日本人のトレーナーを雇ったところ、その丁寧な働きぶりに、仲間の選手たちから相談が殺到し、チーム専属スタッフになってほしいという打診が出るほどだったと話しました。日本人は高い技術を持っているだけに、それを生かすためにもスタッフ自身が、もっと英語を使いこなす必要があると呼びかけました。

 

リーチ マイケル選手

自分も教育の分野には強い興味を持っている。佐藤さんのこうした取り組みは日本のスポーツ界にとっても大事な事なので、授業への参加など、自分に出来ることがあれば協力していきたい。

 

 

また、日本独自の「お疲れ」という挨拶や「よろしく」という言葉をどう訳すかについても話が及ぶと、佐藤さんは、その場その場で言葉の意味が全く違うため、その人の意図に合わせて瞬時の判断が求められる事に触れ、そうした能力は実際に経験を積むことでしか改善しないと、今後の学科での取り組みに力を込めていました。

 

 

日本代表の通訳から先生への転身。ワールドカップを目指す戦いで培った経験を新たな世界でどう広げていくか、佐藤さんの今後の取り組みを注目していきたいと思います。

鈴木俊太郎

2007年入局。広島局報道番組部。ラグビーは前回のワールドカップも現地取材。今回のワールドカップで日本代表を取材した後、広島局に異動。ラグビーは引き続き取材。

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